「音楽と愛における理想と現実の狭間」を描くカズオ・イシグロの短編集 ー Nocturnes

Kazuo Ishiguro
240ページ
Faber and Fabe
英国では2008年5月7日発売。米国では2009年
文芸小説/短編集

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主人に仕えることを優先したために唯一の恋を成就しなかった昔気質の執事が主人公の「The Remains of the Day」のことをご存知の方は多いと思います。映画化もされましたので、映画だけをご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。ところが、長崎生まれの日系英国人作家のKazuo Ishiguroがその後に発表した長編のWhen We Were OrphansNever Let Me Goはまったく異なるジャンルでした。そこで戸惑いを覚えた読者もまた多いのではないかと思います。

図書館の理事をしている友人と私の間では「カズオ・イシグロは2度目がおいしい」ということで意見が一致しています。つまり一度目でしっくりこなくても二度目に読むとその良さがとてもよくわかる文章なのですね。

Never Let Me Goも発売直後に購入したのですが、先に渡した姑が友人に貸してそれきり戻ってこなかったのでいまだに読んでいません。ですからそれとは比較できませんが、短編集のNocturnesにはThe Remains of the Dayに似た雰囲気が漂っています。

優れた才能に恵まれながらも仕事のない中年のサキソフォン奏者が、売れるルックスにすれば成功すると主張する元妻の勧めで整形手術を受ける短編”Nocturne”は、滑稽で笑いをさそう展開ですが、読者の心の奥底に潜む苦い後悔を浮かび上がらせるくせ者です。自覚したくない後悔といえば、もっと苦いのが、著名なチェロ奏者のふりをしてハンガリー人の若いチェロ奏者に演奏指導をするアメリカ女性のストーリー"Cellists"です。「才能を発揮する機会がなければ、成功は可能性のまま保てる」という論理は馬鹿げていますが、笑い飛ばせないところに人間の哀しい性を感じてしまいます。

5つの短編の舞台はイタリア、英国、ハリウッドと様々ですが、共通するのは、逃した機会への悔い、 そして音楽と愛における理想と現実のギャップです。読後も長く余韻が残るThe Remains of the Dayを期待した読者がネガティブな評価をされているようですが、Nocturnesは短編集なので長編とは読み方も異なります。短編集としては、十分満足できる本だと思います。それだけでなく、これは「一度目からおいしい」カズオ・イシグロです。

●読みやすさ ★★★☆☆

Kazuo Ishiguroの長編に比べて、入り込みやすく、読み進めやすいでしょう。 彼の長編で挫折したことのある方には特におすすめします。

●アダルト度 ★☆☆☆☆

ある程度人生経験(挫折経験?)がある大人でないと良さがわからない類いの短編集ですから、そういう意味では大人向けです。けれども、慎み深い表現ですから★ひとつ。

●その他のカズオ・イシグロの作品

The Remains of the Day

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When We Were Orphans

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Never Let Me Go

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7件のコメント

  1. 単編の中にも、イシグロらしい文脈や、読者を引き込むだけ引き込んでおいて、最期に期待を裏切るやり方は変わらない。いつか彼の文学を分かりたいと思う。短編なので、人々が発する言葉に何が隠れているかを探りながら読むのも楽しい。

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  2. KAZUO ISHIGURO 単編の中にも、イシグロらしい文脈や、読者を引き込むだけ引き込んでおいて、最期に期待を裏切るやり方は変わらない。いつか彼の文学を分かりたいと思う。短編なので、人々が発する言葉に何が隠れているかを探りながら読むのも楽しい。

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  3. こんにちは。
    そうですね。どんなに異なるものを書いても、イシグロ作品にはイシグロらしさというのが滲み出ていますね。
    「最後に裏切る」というのもそうです。
    私もけっこう楽しんだ短編でした。

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  4. The Remains of the Day 読了。
    Mr にピリオド(イギリスではフルストップか)が付いていないところから始まり、語り口がいかにも英国で、久しぶりに文芸モノを読んだぞ、と感じました。執事という言葉で私が思い浮かべるのは、米国のsitcom ”Mr. Belvedere” ですが、ちょっと(かなり?)雰囲気違いますね。Mr Stevensの不器用なまでの真面目さは、夫の父と私の父を思い起こさせます。上の世代の日本人が持っていたものなのでしょうか。
    五十代になった今読んだからこそ、タイトルもより深く味わえたような気がします。

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  5. Ameterumさん、
    The Remains of the Dayは、この歳になってわかる感じがありますね。でも、あれを書いたときの作者って、とっても若かったので、そのあたりすごいと思います。
    映画も良かったですね。
    イシグロ氏は日本生まれで、生粋の日本人の両親だがら、英語で育っていても根底が日本人だと思うのです。それが英国の感覚に合致して素晴らしいハーモニーをかもしたような気がします。

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  6. ずいぶん古い記事へのコメントですみません。

    つい最近『The Unconsoled』を読んで迷宮に迷い込んだばかりだったこともあって、この短編集は読みやすかったです。自己評価が高く、実力を伴わないプライドを持った登場人物たち・・・私も思い当たるところがいろいろあり、読んでいて小恥ずかしい気持ちになりました。大人になった(年を取った?)ということでしょうか。

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