20代の若者二人のビジョンがいかにして世界を変えたのか – Googled

Ken Auletta
400ページ(ハードカバー)
Penguin Press
2009/11/3
ノンフィクション/ルポ/ビジネス

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サブタイトル「The End of the World as We Know It

夫の仕事の影響で私はGoogleの初期からのユーザーでした。インターネットを立ち上げたときのホームページはGoogle(現在はiGoogle)、Gmailはまだ一般に紹介されていないときに始めました。おかげでよくある名前にもかかわらず数字抜きのすべてのバージョンを押さえることができたのです。

いつのことだったか記憶が定かではないのですが、Googleが出現する前のたぶん97年か98年頃にAltaVista(Yahooの検索エンジンを提供しており、現在はYahooに買収されている)のDigital Equipment時代からのメンバーだった人からパーティで検索エンジンについてあれこれ尋ねられたことがあります。私は技術オンチなので「何の話してるんですか〜?」という感じで、ただひたすら「なるほど、なるほど」とわかってもいないのに頷き、誰かに救出していただくのを待っていました。
そのころの私はYahoo、exciteといった検索エンジンを気の向くままに使っていただけ。Ask Jeeves なんてのもあった(今もある)けれど、いずれにもさほどの魅力を感じなかったので定着もしませんでした。当時の検索エンジンはポータルの考え方が常識だったらしいのですが、もちろん私はそんなこととは知りません。Google出現でGoogleオンリーになったのは、これまでのものより桁違いに使いやすくて魅力的だったからです。

前置きが長くなりましたが、ベテランジャーナリストのKen AulettaによるGoogledを読んで個人的に「なるほど」と納得したのは、私がGoogleに惹かれた理由が、創始者たちの既成の常識を覆す発想だったということです。
創始者のLarry PageとSergey Brinの生い立ちと出会い、Google創始にいたるいきさつを読んでいると、こういう類い稀な才能と奇想天外な発想が潰されることなく実現できる環境がある米国への尊敬の念を新たにします。日本ならこういう才能があっっても学校を卒業するまでにまず潰されてしまうでしょう。

若き天才エンジニアPageとBrinの「常識はずれ」の発想こそがGoogleのGoogleたるべきところなのですが、どんどん大きくなる企業をコントロールすることはできません。出資者たちの圧力で、彼らよりも20歳年長のEric SchmidtがCEOとして雇用したのですが、それでもGoogleは若い常識はずれの発想が機動力。それが良い結果をもたらすこともあれば悪い結果をもたらすこともあります。
悪い結果の一例が、Google Booksと著作権の問題です。このGoogle Booksがいかにして始まったのかというエピソードには、その単純さに唖然としました。こういう幼稚な発想を即座に実現できる彼らに独占的な力を与えてしまうのは怖い、と感じるエピソードです(ただし、その後のGoogleの努力は評価しています)。

著者の Ken AulettaがCNN Moneyに「10 things Google has taught us」という記事を載せています。時間が足りないので全部を翻訳できず申し訳ないのですが、Googleから我々が学ぶことのできる10項目は次のようなものです。

1) 情熱が勝つ

初期のYahooとGoogleの両方に投資したベンチャーキャピタリストの Michael Moritz が両者の差を「Googleは、LarryとSergeyの知的追求を基盤として築き上げられている」と情熱の差を示唆している。

2) フォーカスが必要である

フォーカスのない情熱はとんでもない方向に向かう恐れがある。Googleの焦点を絞った情熱が成功の秘訣だが、創始者たちの情熱にフォーカスをもたらしたのはSchmidtである。

3) ビジョンも必要である

ビジョンなしの情熱は焦点が絞れていても電池が入っていない機械のようなものである。Googleは "Don't be evil"というモットーを掲げたがこれは少々あやふや。それよりも「世界のすべての情報にアクセスできること」と「ユーザー優先」というのが創始者たちのビジョンである。

4) チームの文化こそが肝要である

創始者のPageは、「科学者やエンジニアといった実際に仕事をしている者に権限を与える企業文化があるべきだ。また、彼ら(科学者やエンジニア)が何をしているのかを深く理解する者が管理すべき」と言っている。

5) エンジニアたちを「王様」として扱う

通常のメディア企業では、エンジニアは中心的存在ではなく、隅に追いやられている。Googleのようにエンジニアを Chief Technical OfficerとしてCEOの片腕にするべきである。

6) ユーザーを「王様」として扱う

「ユーザーは常に正しい」というGoogleの姿勢。「もし自分たちがユーザーの要望に耳を傾けなければ、他の者がそれをする」。(この姿勢ゆえに成功したという見方は私の体験とも一致する)
7) すべての企業を「frenemy(frend とenemyの合成語)」として扱う
すべてがめまぐるしく変化する現代、企業間の関係も恒久的ではない。どの企業もいつか提携する共であり、競合する敵になり得る。

8) 人間性の要素を無視してはならない

多くの決断は「合理性」で下されたものではなく、人間性を反映したものである。「古いやり方はまちがっている」という見解をすべてに適応すると、Google Booksのように賢明ではない決断を下すことになる。

9) (現在独占企業的に見えても)確信はない。

現在難攻不落に見えるGoogleだが、かつてその地位にいたAOLの現況を考えると、この状況が永久に続く保障はない。

10)  "Life is long but time is short."

これはCEOのEric Schmidtの言葉である。どういう意味かというと、「記憶が長年続くという意味で人生は長い。素早く行動しなければならないという意味で時間は短い。最も重要なのは、人生というものは結局なんとかなるものだということ。3年か4年前の問題はもう忘れている。だから人生のすべての問題は好機だというのが私の個人的見解」
ゆえにGoogleは長い記憶に固定されず、大胆な発想と行動を取るのである。

サブタイトルが「The End of the World as We Know It」なので、今後のGoogleがいかに世界を制覇していくのかといったことまで言及されていると想像しますが、そうでもありません。また、ITに詳しい人にとっては技術的な考察が足りないらしく、それらが米国の読者の批判になっているようです。ですが、社会現象に好奇心を抱く私のようなタイプにはそれぞれの人間性にも触れることができ、非常に面白い本です。これまでに多くのGoogle本が出ていますが、ぐいぐい引き込ませる文章力ではAulettaがたぶんトップでしょう。

●読みやすさ ★★★☆☆

ジャーナリストとしての取材力に加え、話に引き込む文章力が優れています。
まるでその場に同席しているような気分にさせてくれます。
ノンフィクションを読み慣れている方には非常に読みやすく感じるでしょう。

4 thoughts on “20代の若者二人のビジョンがいかにして世界を変えたのか – Googled

  1. 読んでみたいですね、この手の本。なんだか、ワクワクします。以前、Steven Levy著の“Insanely Great”にワクワクしました。いまでもワクワクしたいときに、引っ張り出して読んでいます。
    21世紀の「産業革命」は、なんといってもITでしょう。歴史に残る時代です。

  2. この本の優れたところは、そういうワクワク感をちゃんと伝えているところです。日本でもそういう本はあると思うのですが、ここまでの詳細は書けませんよね(日本語にすると本3冊分くらいになっちゃいますから)。また読み直したい本のひとつです。

  3. 私も検索エンジンはGoogleを愛用しています~。興味のある本です。

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