ごみ屋敷を作る人々の謎ーStuff

Randy O. Frost
Gail Steketee

304ページ(ハードカバー)
Houghton Mifflin
 2010/4/20
心理学/精神医学/事例

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誰でも一度は「ごみ屋敷から死体発見」といったニュースを耳にしたことがあるのではないでしょうか。家中ぎっしり天井までうずたかく物が積み上げられているような状態の家は世界中にけっこう存在するようで、そういったためこみ行動を英語ではhoardingと呼びます。スミス大学の心理学教授Frostとボストン大学の学者Steketeeの2人が、病的なレベルまで物をためこむ興味深い症例を通じて分析を試みたのがこの本です。

病的なhoardingにはある種の共通点があるようです。
ひとつは、ため込みをする人の多くが、知性が高く、好奇心が旺盛で、すべてのオブジェクトに特性を見いだすことができ、チャンスを逃すのが嫌い、ということです。コレクターはこの特長にぴったり当てはまります。物に対して「一期一会」と思うので、見つけると入手せずにはいられず、物へ感情移入し、決断力がないから捨てられません。

これまでhoardingはOCD(Obsessive Compulsive Disorder, 強迫性障害)の一部として扱われてきましたが、FrostとSteketeeは、それに疑問を抱いていました。というのは、OCDの場合の儀式は不安を取り除くための強迫行為なのですが、ためこみをする人はためこむことに喜びを感じます。そもそも、物を手に入れてため込む、というのは衝動なので、ギャンブルのようなImpulse Control Disorder(ICD、衝動制御障害)に分類されるべきではないか、というのが著者たちの推測でした。そこでギャンブラーたちを広告で集めたところ、予想通りためこみの衝動がみられたのですが、hoardingにはそれ以外に、「整理整頓ができない」という問題があります。また、遺伝する傾向もあります。ため込む人の兄弟や姉妹を調査すると、多くの確率でため込む者がいます。hoardingをする家系には14番染色体のある部分にパターンがあることも分かっています。また、トゥーレット症候群との関係もあるようです。あまりにもいろいろな要素があり現行の疾患分類に組み込むことができないので、hoardingはそれだけで独立した疾患として分類されるべきではないか、というのが著者たちの見解です。

実は、わが家にも深刻なコレクター(夫)がいます。出会った頃は、アンティークの時計、ピン、程度でしたが、今はアポロ計画の宇宙飛行士とも顔見知りになっているほどのアポロ収集家です。月の砂つきのベルクロ、宇宙に行って戻って来たアポロ4号の窓、飛行士がトレーニングに使ったパネル、エンジン、といった無数のコレクションがリンビグルームにのさばっています。趣味が移行したのだから昔のコレクションを処分するかというと、そうでもありません。アンティークの時計やアポロのエンジンを捨てろとは言いませんが、京都に留学した高校生のときに近所のパチンコ屋さんからプレゼントされたパチンコ台と玉、昔のガールフレンドからプレゼントされたテディベア、なども絶対に捨てないのです。捨てるどころか、ロックコンサートやオークションに行くと必ず土産を持ち帰ります。私がぶつぶつ文句を言うので片付け上手の友達が「私が捨ててあげよう」と提案してくれるのですが、それをするとたぶん離婚だと思うので耐えています。

実は、夫だけでなく私もやや危ないのです。まず、本を捨てることができません。その理由は「また読むかもしれない」から。実際読むので、本当に捨てられません。そして、家族の所有物だったものも捨てられません。家を綺麗に保ちたい姑が、彼女の母親のものまで(捨てたくないから)私に渡すので、それも捨てることができません。こういった私たちには、本書Stuffに登場する事例たちが決して他人ごとには思えないのです。

けれども、この本に登場する事例はハンパではありません。

雑誌や新聞の切り抜きを捨てられない事例の心情は理解できますが、万引きしたものをためこむ女性や、猫を何百匹も集めて飼っていた精神科医、借金地獄なのに買い物をしてしまう女性の事例は、やはりスケールが違います。FrostとSteketeeによるhoardingのレベル分類(下記)を見て、上には上がある、と感心しましたが、この本を読んで身につまされた私は、暇ができたら家の中の収集物の整理整頓をしようと(一応)決意しました。この写真の4以上だと専門家の治療を受けたほうが良いみたいです。 

*写真の引用 by Randy Frost & Gail Steketee (photos © Oxford
University Press)

1.問題なし

LivingRm1_text

2.初期症状あり?
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3.もしいつもこの状態であれば軽度のhoarding。
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4.中程度
LivingRm4_1

5.深刻
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6.非常に深刻
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7.重症
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8.とても重症
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9.極度のhoarding
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●読みやすさ 中程度

文法的には簡潔です。けれども、一般向けとはいえ心理学の本なのでネイティブでも小説ばかり読む人には難しく感じるようです。逆に、専門書を読み慣れている日本人にとっては、解釈がいらないこの本のほうが児童書の小説よりも読みやすいのではないかと思います。

9 thoughts on “ごみ屋敷を作る人々の謎ーStuff

  1. ゆかり様、こんにちは。
    お久しぶりでございます。
    興味深い本のご紹介ありがとうございます。
    日本でも全国各地に“ごみ屋敷”が散在して、
    隣人が迷惑を被っているというニュースが度々報道されているんですが、
    hoardingをする人の主な特徴に“知性が高い”というのがあったのは新鮮なオドロキでした。
    もちろん、ゆかりさんご夫妻には大いに頷けるのですが。。。
    (あれ? ちょっと失礼なことを言ってはいないでしょうか。。。おそる、おそる。。。)

  2. Nemoさん、お久しぶりです!
    ごみ屋敷にする人の中には発達障害の人もいます。
    ですが、意外と知られていないのが、お金持ちで知性の高いhoardersたちなのです。ここに出てくる症例でも、ものすごくお金持ちの双子の兄弟とか、面白いですよ。
    夫はコレクターで自分のものを捨てませんが、他人のものは平気です。また、新聞とか雑誌は読んだその日のものから捨てますし、整理整頓やゴミ出しが得意です。私はコレクターではないのですが、他人のものでも捨てられない。この組み合わせが微妙に困るのですよねえ。夫の「整理整頓した」物がわが家の(本棚を含め、きちんとした)スペースを独占しているので、私の本とかが行き場なくなってしまう。どう考えても、私のほうが損をしている感あり。

  3. はじめまして。nina(佐伯新和)と申します。
    興味深い本のご紹介ありがとうございます!
    私はライフオーガナイザーという仕事をしております。
    http://jalo.jp/
    http://ameblo.jp/rakukaji/
    アメリカでは一般的なプロフェッショナルオーガナイザーの考え方を今の日本にあった形で広げて行こうとしております。
    http://www.napo.net/
    http://www.nsgcd.org/conferences/current_conference.php
    私は様々なお宅にオーガナイズ作業で伺っておりますが、やはりそこには住む人の考え方/行動パターン/人間関係etc.などが凝縮されております。
    Chronic Disorganizedタイプ(機能障害などが原因)のクライアントも多いのですが、無遠慮に入ってくる情報やモノを自分に合うように取捨選択する技術を身につけないと生きにくい時代になっているのだなということを肌で感じます。
    普通の人でも油断すればすぐに写真4~5になってしまうことも多いと思います。
    ブログ、またお邪魔いたします〜♪
    ありがとうございました!

  4. こんにちは。
    アメリカにはオーガナイザー、多いですよね。
    私も仕事が忙しいと仕事をしてる部屋が4状態です。
    本と資料とが山積み。
    今ちょっと大きな仕事に目処がついたので、これから1に戻さねばなりません。
    モノが溢れ過ぎた時代ですから、普通の人でも取捨選択をする技能を身につけないとならないですよね。

  5. 現在読んでおります。とってもおもしろくてやめられません。それにしても、「ゴミ屋敷」という現象の背景となる心理がとても興味深く、詳細に書かれていて、驚きました。病的なまでのこの現象を外から見るのではなく、その人の内面からアプローチしているので、痛いほど理解できます。日本の「ゴミ屋敷」の人にも、こんなドクターがいればいいなと思います。

  6. Shim_mさん、こんにちは。
    ほんとうに面白い本ですよね!
    ドクター・フロストとはメールを交わしたことがあります。
    この分野は、まだまだこれからが楽しみですね!

  7. 自分の部屋は、極度のhoarding、の更に4倍以上上
    もう生きてる資格のないhoarding、なんだろうな
    片付作業は好きだし得意だが、自分の部屋だけがダメ
    20年ほど前からゴミ屋敷化するようになった
    片付けるぞ、と思った途端、突然尋常でない疲労感に
    襲われ、ガクンと落ちる様に眠ってしまうのだ
    気づいたら階段で、しかも頭部を下にして寝てたり
    原因は大体自覚している
    自分は性同一性障害なのだが、家族や職場や理解者に
    恵まれた同症者がサクサク性転換~戸籍変更~結婚、
    等と完全救済され、そのサクセスストーリーばかりが
    世間に蔓延してく中で、半世紀近く前から苦痛を
    訴え続け、手術切望の意志も一切変化してない自分が
    専門家たちから見捨てられ続け、全く無意味な事柄に
    マイホームが即金で買えるほどの金額まき上げられ、
    結果、体も壊れ無理がきかなくなり、戸籍などという
    馬鹿げたクソ制度のために正職にも付けず、税金分を
    考えたら生活保護の半分以下にしかならない収入の
    ワーキングプアになっていた
    そして、この年令だともう、たんまり貯金がない限り
    治療はほとんど与えてもらえない現実
    日本では基本的に性同一性障害の医療救済は
    「未来ある若者のため」に行われるのだから
    この絶望と怒りと悲しみと疎外感と慟哭
    それらに対してのダムというか防波堤として
    大量の物品でバリケードを築いているのだ
    事実、治療への希望がほんの少しでも見えた時には
    別に片付けた覚えもないのに
    部屋の一部だけがモデルルームのようにキレイに
    なってたりもするわけで
    でも、その期待が裏切られると、以前以上にそこは
    酷い有様になる、というお約束
    いろんなパターンあると思いますが
    自分の場合、ゴミ屋敷化した部屋の意味は
    生命維持の限界です!誰か助けて!!という意味だな
    でも誰も助けてくれないどころか、蔑視嘲笑し、
    早急に死ぬ事を望まれてる、てぇ現実も解ってるよ
    性転換手術が得られないなら、どうか殺して下さい!!

  8. GIDさん、
    とっても苦しんでいらっしゃる様子が伝わってきます。
    hoadingと心理的な問題とは深く関係しているんですよね。
    私も、リビングルームとかは整理整頓できているのに、仕事場がすごいです。
    とても集中できないので掃除をしたいのですが、すぐに萎えてしまいます。
    それで今年の夏は台所に逃げて仕事しています。
    つらいときには、専門家の人に話を聴いてもらうのが一番だと思います。
    1回めの人がダメでも諦めないでください。
    専門家といってもただの人間ですから、相性があります。
    アメリカ人の知人は、自分に会ったカウンセラーをみつけるまで、探し続けました。
    日本では見つかりにくいかもしれませんが、ボランティアで相談を受け付けているところも探せばきっとある筈です。理由はことなれ、苦しんでいる人は、意外に多いようです。周りからいっぱい悲鳴が聞こえてきます。ですから、どうぞあきらめないで、助けてくれる人を探してくださるよう願っています。

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