これからはBecause the Nightを聴くたびに、泣きたくなるだろう Just Kids

Patti Smith
304 pages(ハードカバー)
Ecco; 1ST edition
 (January 19, 2010)
回想録/自伝/ノンフィクション

2010年全米図書賞受賞!
 

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私がパティ・スミスの名前を知ったのは、1980年代前半だった。高校時代から大の英国ロックファンで81年に英国に行った私は、それまでいくつかの例外をのぞき、米国のロックにはまったく興味がなかった。だが、ロック雑誌に載っていた彼女の写真があまりにも強烈だったために、彼女に興味を抱いて音楽を聴いてみた。若すぎたのか、当時は正直言ってヒット曲のBecause the Night以外の曲の良さをあまり理解できなかったのだが、印象的な声と異様にやせこけた女性のパワフルな視線が、ずっと脳裏に焼き付いていた。
その写真は、じつは有名な写真家ロバート・メイプルソープが撮ったものだったのだ。


  
Patti-smith-horses-lp 42歳の若さでAIDSで死去したメイプルソープは、生前にパティに彼らの物語を書いてくれるように頼んだ。けれどもパティがついにその約束を果たしたのは、20年以上たった今年の1月だった。たぶん、それだけの時間が必要だったのだろう。

「アーティストになる」という漠然とした、けれども確固たる夢を抱いてニュージャージーの田舎から無一文で飛び出してきたパティが運命的に出会ったシャイな青年が、過激に性的な写真で有名なかのメイプルソープの真の姿だったとは想像しがたいものがある。しかも、同性愛に対して相当な偏見を抱き、初期は悩み続けたのである。この複雑な青年の変身をこれほどテンダーに描けるのは、彼の恋人として、そして一生の理解者として最も近い場所にいた、詩人のパティだけであろう。

Patti-smith-summer-in-the-city 労働者階級出身で、高等教育も受けておらず、「パンクロックの母」とも呼ばれるパティしか知らない者は、詩人としてスタートした彼女の文章力に衝撃を受けるであろう。

彼女の詩的かつミニマリストな文章力は、若かりし頃のパティとロバートのたどった道を自分自身が歩いているような気持ちにさせてくれる。カトリックとして育ったために「同性愛」の観念に嫌悪を抱き、恐れ、パティを愛しながらも同性愛とSMの世界に入り込んで行く若きロバートの苦悩は破壊的だ。そんな彼に怒りを覚えるどころか、「一生互いのために存在する」という初期に交わした約束を守り続けるパティ…。淡々とした口調だが、切なさで胸がつまる。

「成功したい。認められたい」という野心にかられ、生き急いだロバートとは対照的に、パティは「気乗りしないままに」有名になったきらいがある。純粋に詩を書くことや表現することだけを求めて来たパティは、私たち誰もが知っているような有名人たちをも、常に醒めた、しかし寛容な目でみつめてきた。その視線も、この本の面白さだ。

パティがロバートと別れた後につき合う男性陣(ブルー・オイスター・カルトのアラン・レイニアや劇作家で俳優のサム・シェパードなど)も錚々たる顔ぶれだ。だが、パティほど劇的な過去や過去の恋人を持たない私たちであっても、多くの場面で自分の過去を思い出し、涙ぐむのではないだろうか。

なかなか読了できなかった(しなかった)のは、そんな場面で止まってはweepしていたかったからである。

「Just Kids」は、ベストセラーになるようなラブストーリーよりも、ずっと胸にずしんとくるラブストーリーだ。

With love we sleep
With doubt the vicious circle
Turns and burns
Without you I cannot live
Forgive, the yearning burning
I believe it's time, too real to feel

(Because the Nightの歌詞より抜粋)

これからはBecause the Nightを聴くたびに、泣きたくなるだろう。

●読みやすさ やや難

わざと難しくしているわけではありませんが、すんなりとこの文章を読み、楽しむためには、ある程度英語に慣れている必要があると思います。
けれども、だいたいの意味を把握するだけであれば、中程度の英語力で大丈夫でしょう。写真も沢山ありますし。

●アダルト度

露骨ではないのですが、ロバート・メイプルソープの生活や芸術を説明していますので、性的な話題は避けられません。ゆえに高校生以上が対象です。

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6 Comments

  1. 感想が言葉にならないです。
    それにまだちょっと本から抜け切れてない感じです。
    買って手元に置かずにはいられない本に毎年2、3冊出会いますが、Just Kidsはハードカバーを買います。
    この本は渡辺さんのレビューを読まなかったら
    間違いなく出会ってません。本当に感謝です。

  2. いやもうほんとに。
    この本に関するツイートは、自分の作品の宣伝ツイートより多かったんじゃないかというくらい沢山しました。
    だって、多くの人に読んで欲しかったから。
    もっと早く読んでおけば良かったと後悔した作品です。
    今も思い出すと涙腺がゆるみます…

  3. 渡辺さん、大発見です!
    どのエディションを買おうか悩んでAmazonのページをうろうろしていたのですが、つい先日出たペーパーバックのエディションには加筆があるようです。Look Inside!で見てみたら、The Deskというタイトルで、出版後の素晴しいエピソードが加わっていました。その他に追加があるのかは分かりませんが、一応New Material Withinとのことです。

  4. このBlog見てもう居ても立ってもいられなくなり・・・
    AMAZONで物色中でした。
    コメント欄をもう一度見てな、な、なに!!
    それにします

  5. あらIsisiさん、お久しぶり、というかブログでは初めてかも?
    私はハードカバーの表紙の写真が好きなんですが、ソフトカバーには加筆という強い味方がいますよね。
    どちらにしても、良い本ですよ。自分の若かりし頃のセンチメントがどどっと押し寄せます。確約!

渡辺由佳里 にコメントする コメントをキャンセル