現代の英国で「ユダヤ人であること」を問いかける2010年ブッカー賞受賞作 The Finkler Question

Howard Jacobson
ペーパーバック: 320ページ
Bloomsbury Pub Plc USA
 (2010/10/12)
文芸小説/現代小説/トピック:ユダヤ人、哲学
2010年ブッカー賞受賞作

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さえない元BBCラジオ番組プロデューサーのJulian Tresloveには、旧知の2人のユダヤ人の友がいる。ベストセラー作家で有名な哲学者の Sam Finklerとは学校時代からの親友だが、その友情は複雑なライバル意識に支えられている。もう1人は、JulianとSamの学校時代の教師Libor Sevcikである。



非ユダヤ人であるJulianは、子ども時代にユダヤ人はすべてSam Finklerのようだと思い、内心だけでユダヤ人のことを「Finkler」と呼ぶようになっていた(ゆえに、「The Finkler Question」という題名)。チェコからの移民のLiborは親イスラエル派で、Samは反シオン主義者(anti-Zionist)である。会うたびに議論を交わす2人のユダヤ人の間で、Julianは取り残された気分を味わっていた。

ある日、Julianは路上で襲われる。そのときに見知らぬ女が残した言葉から、「反ユダヤ主義」の者にユダヤ人と間違えられたのだと思い込む。そのときから、Julianは、ユダヤ人であることについて考え始め、ついに「ユダヤ人になりたい」と思い込むようになる。

現代のロンドンを舞台に、ユダヤ人であること、男性の友情、不倫、老いること、などを描いた、軽いタッチの哲学的な小説。

●感想

ブッカー賞の最終候補になった時点ではまだ米国で紙媒体の本が発売されていなかったので、The Finkler Question(Kindle edition) で買って読んだ本です。でも、相当時間がかかりました。読み始めてから併読で読み終えた本が数冊以上ありますから、どれほど気が乗らなかったかご想像いただけるかと思います。

メインのトピックは「ユダヤ人であること」です。
中東問題の影響を受けて、ユダヤ人に対する暴力が増えるロンドンや、ユダヤ人としてイスラエルの立場を擁護する者と反対する者の複雑な内情を描いているのは、ユダヤ人やそのコミュニティをまったく知らない人には興味深いものがあるかもしれません。私も最初のうちは、「もしかするとウッディ・アレンのようなユーモアが楽しめる本かも?」と期待したのです。 作品の解説をからは、そんな感じですし。でも、実際は一番つまらないウッディ・アレンの作品をさらに5倍ほどつまらなくした感じでした。

まずストーリーらしきストーリーはありません。「ユダヤ人であること」を説明するにしても、ユダヤ人が非常に多い町に住む私にとっては、何一つ新鮮な視点はありませんでした。しかも主役格のJulianの心理にまったく信憑性がないので、感情移入が不可能です。この信憑性のなさ、つまり説得力のなさが、この作品の最大の問題点だと私は思います。また、3人の異なる男性心理の描写についても、同じことばかりを繰り返す一人の老人の独白につき合わされた感じです。異なる立場の3人を描いている筈なのに、作者がただ声色を変えて喋っているとしか思えません。ですから、(たぶん)悲しい筈の場面でもあくびが出ただけでした。

この本を読んだ人の感想には「今年読んだ本の中で一番素晴らしい」という人もいます。ですから、違う読み方をする人もいるでしょう。

けれど、よほど「ユダヤ人であるということは、どんな感じなのだろう?」という好奇心がないかぎりは、おすすめできません。私も、ブッカー賞受賞作でなければ(このブログに感想を書く目的がなければ)1/4以上は読み続けなかったと思います。

●読みやすさ 難

文法が難しいのではなく、退屈で読み進めるのが難しいのです。
これを読み終えるだけの忍耐力がある人はそういないと思うので、難易度は「難」です。

●アダルト度

circumcision(割礼)について、あくびが出そうなほどページ数を割いています。セクシーではないけれども、あからさまな表現があります。高校生以上向け。