インディアン保留地を抜け出した作家の泣き笑い自伝的小説 The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian

Sherman Alexie
ペーパーバック: 288ページ
出版社: Little, Brown (2007/9/12)
ヤングアダルト/現代小説/社会・時事問題
2007年全米図書賞 児童書部門受賞作品

インディアン(アメリカ先住民)のreservation(特別保留地)に住む14才の少年アーノルド・スピリット(Arnold Spirit)の日記の形で、米国先住民が抱える社会問題を語る小説。著者Alexieの自伝的小説(autobiographical novel)と言われている。


Part-time-indian ワシントン州のスポケーン・インディアン特別保留地(res)に住むArnold(通称Junior)は、水頭症を持って生まれる。左右の視力差、身体のバランスの悪さ、てんかんなどの障害があるものの、知識欲がある頭の良い子に育つ。けれども、頭が良くて身体的に欠陥があることは、インディアン特別保留地の環境では得なことではなかった。

保留地のインディアンたちは、高等教育を受けることはなく、成人の多くは、どん底の貧困層で、しかも少し稼ぐと飲んでしまう。家庭内暴力も多く、最初から「夢」を抱くことが禁じられている環境だった。

多くのインディアンはその環境を受け入れ「インディアンであること」を唯一の誇りにして生きてゆくのだが、Arnoldは心の底でそれを受け入れたくないと思っていた。ある日、それを察した保留地の白人教師がArnoldに保留地から抜け出すように薦める。

保留地から40km近く離れた白人の町の高校に通い始めたArnoldのことを、保留地の住民達は「裏切り者」として冷たく扱う。そして、新しい高校の生徒たちは、インディアンのArnoldを無視するか虐める。

けれども、新しい環境を楽しむArnoldは、最初に人種差別をしていた生徒たちと友人になり、彼らから尊敬を得るようになる。

●ここが魅力!

Mygrandmother 日本人だけでなく、多くのアメリカ人がインディアン(アメリカ先住民)のことを知りません。というのは、通常のアメリカ人が接触することがあまりないからです。

ここであまり詳しい歴史を語ることはできませんが、本書に出てくるReservation(保留地)とは、先住民だったインディアンの部族たちがアメリカ合衆国の連邦政府と条約をとりかわしたときに、自分たちの法で統治するためにreserveした土地のことです。reservation内では、たとえばギャンブルを禁じる周辺の土地の法律が通用しません。インディアンの部族が合法的に経営しているカジノは、よく知られています。

けれどもカジノでインディアンたちが金持ちになったかというと、そうではありません。多くの住民は、本書でArnoldが語るように、教育水準が低く、非常に定収入です。また、アルコール依存症、薬物依存症、家庭内暴力、なども大きな問題になっています。けれども、まちがったプライドのために、そこを抜け出せない、そして抜け出させない、という雰囲気もあります。

主人公のArnoldは、そんな世界に住みながらもユーモアのセンスを持ち続けようとします。それが、「絵日記」の形に表れています。頻出するコミックやスケッチは、プロのイラストレーターの作品ですが、まるでArnold自身が描いたかのように自然です。

また、悲劇の中にも笑いを見いだす著者のユーモアのセンスには感服します。

私が一番大笑いしたのは、fist fight(素手の殴り合い)のルールの部分です。インディアンの殴り合いのルールに慣れていたArnoldが考えに考え、覚悟を決めて挑んだ殴り合いと、白人の生徒の反応には、思わず吹き出してしまうでしょう。

Arnoldを理解し、尊敬してくれるのが、インディアンではなく白人たちだったというのも、著者が若かりし頃に体験した悲しい事実だったのではないでしょうか?バスケットボールを通じて白人の高校で友情と尊敬を得るようになったArnoldが体験するインディアンや保留地に対する愛憎には、読者は胸をえぐられるような気持ちになるでしょう。

Arnoldの今後が気になるところですが、立派な作家に育った著者のことを考えると、読者は安心して良さそうです。

●読みやすさ 中程度〜やや簡単。

漫画やイラストが多いので、その場面が想像しやすく、はいりこみやすく感じるでしょう。
また、日記の形をとった一人称の文章ですから、さらに読みやすく感じます。
res(reservation  = 保留地)とか、性的な意味を持つスラングとかでひかかるかもしれませんが、あとは特に難しい表現はないと思います。

●対象となる年齢

大部分はどの年齢でもOKですが、性的なこと(マスターベーションとか、両親の性行為とか)を語る場面がいくつかあります。ですから、中学校三年生くらい以上が対象です。

2 thoughts on “インディアン保留地を抜け出した作家の泣き笑い自伝的小説 The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian

  1. ゆかりさん、
    この本を取り上げてくれてありがとうございます。またまたAudiobookですが、私もこの本が好きです。
    この本を読みながら、アメリカに来たばかりのときに
    ルームメイトにナバホリザベーションに連れて
    いってもらい、知り合いの家族のうちに滞在したことを
    重ね合わせて読んでいたからか、どうかはよく
    わからないのですが、本当に楽しく、そして
    心にしみるように感動できる本でした。

  2. アリゾナさん、
    どうしても新しい本ばかり紹介してしまうのですが、以前に出版された本の中に、沢山良い本があり、それらも忘れないようにしなければ、と思っています。
    アリゾナさんは、実際にインディアンのリザベーションに行かれた経験があるから、もっと心にしみ込んだことでしょうね。
    日本にお住まいの方にはリザベーションのことが少し分かりにくいかもしれないな、とは思いました。
    でも、この感覚はきっと伝わるでしょうね。

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