もし人生を生き直すことができたら… Life After Life

著者:Kate Atkinson
ハードカバー544ページ
出版日:2013/4
SF(Speculative Fiction)/歴史小説
難易度<最上級レベル>
適正年齢:PG 15(高校生以上)
 

1910年の大雪の日に生まれたUrsulaはすぐに死ぬが、また1910年の雪の日に生まれ直し、救命の処置をされて生きるチャンスを与えられる。だが、幼いうちに溺れ死に、再び大雪の朝に生まれる。Ursulaは、あるときにはインフルエンザで死に、あるときは暴力の犠牲になる。でも次の人生ではデジャヴュのような感覚がその選択を避けさせてくれる。個人の選択では変えられないふたつの戦争に影響を受けるが、そこにも彼女自身の選択はある。


人生を振り返ると「What if…」という瞬間がある。そして「あのとき、ああしていたら、私の人生はすっかり変わっていたのではないか」と後悔する。Ursulaの物語は、その「あのとき、ああしていたら」を何度もやり直させてくれるものである。Ursulaにはデジャヴュとしてかすかな記憶が残っている。それゆえ、子どもなのにどこか人生に達観しているというか疲れたところがあり、「old soul」と呼ばれる。弟が「もし、何度も生き直せるとしたら、完璧になるまでやり直すか?」と問うところがあるが、読者も自分にそう訊ねるだろう。

Atkinsonは才能あふれる作家である。だが、いずれの作品にも、主人公が歯科の麻酔がきれかけた状況で生きているような印象がつきまとう。「わはは」とお腹の底から笑えず「どうしようもないなあ」とニヤリとする、身体が重くなるような悲しみは感じるが号泣はできない。なぜ、もっと積極的な選択をしないのかともどかしくなる。私がAtkinsonに惚れ込めないのはその点なのだが、それは私だけではないだろう。本書にも似たような感覚を抱くが、いくつもあるUrsulaのストーリーはどの読者にとっても面白いと思う。著者の作品の中ではもっともストレートに楽しめた。

●その他の著者の作品

Whitbread Book賞を受賞したBehind the Scenes at the Museum

文学的なミステリー小説Case Histories

2 thoughts on “もし人生を生き直すことができたら… Life After Life

  1. 渡辺さんが最近お書きになった『A God in Ruins』についての書評を読んで興味を持っていたところ、先日図書館で『Life after Life』を見かけたので、喜び勇んで借りてきました。おもしろかったです。読み進むにつれて「あれ、この情景は前にも描かれていたなぁ」とか「このセリフは前に誰が言ったんだっけ?」と私もUrsulaの既視感を追体験しているような気持になりました。ページを繰り直して確かめたいような気分になりつつも、「いやいや、そうせずに人生、先に進まなければ!」と思ったり(笑)。

    物語の基本設定が似ているClaire North 著『The First Fifteen Lives of Harry August』を(出版されたのはこちらの方が後ですが)先に読んでいたので「似たような話だとつまらないかな」と思っていましたが、全然違っていました。私はどちらの作品も楽しめました。

    『A God in Ruins』もぜひ読んでみたいです。「フィクションとしての壮大な仕掛け」がちゃんと理解できるといいのですが・・・

  2. Sparkyさん、こんにちは。私も、何度か後に戻ってチェックしたくなりました。A God in Ruinsでも、そうだったのですが、「そんなことに時間を費やしていたら別の本が読めない」と思って諦めたり。。。でも、またいつか時間をたっぷりかけて2冊読みなおしてみたい気がします。そこにきっと以前気づかなかった仕掛けもありそうな気がするので。

Leave a Reply to 渡辺由佳里 Yukari Watanabe ScottCancel reply