投資家すら知らなかった超高速取引(HFT)の秘密を暴いた超話題作『Flash Boys』

著者:Michael Lewis

ハードカバー: 274ページ

出版社: W W Norton & Co Inc

ISBN-10: 0393244660

発売日: 2014/3/31

適正年齢:PG12(中学生以上、たくさんの罵り言葉あり)

難易度:中級以上(金融用語は出てくるが、基本的にはシンプルでわかりやすい文章、入り込みやすい)

ジャンル:ノンフィクション/金融/時事

キーワード:HFT(超高速・高頻度取引)、ウォール街、フラッシュ・クラッシュ

 

2010年5月6日の株価急落(Flash Crash、フラッシュ・クラッシュ)の直後、一躍注目されたのがHFT(High Frequency Trading、ハイフリークエンシートレーディング、超高速・高頻度取引)だった。HFTは高速処理ができるコンピュータを使ってミリセカンドとかマイクロセカンドといった想像を絶する高速で取引するもので、株式が乱高下する原因になっていると言われていた。

だが、一般市民にはHFTがどのようなものなのかはさっぱり見当もつかなかったし、Black-box TradingとかAlgorithmic Tradingといった用語が出てくると、それ以上知りたくなくなってしまう。これまでは、「ウォール街がやってることは、どうせろくなことではない」程度の理解でしかなかったし、理解できないから危機感もさほどなかったのである。

だが、マイケル・ルイスの新作『Flash Boys』が発売され、CBSの60 Minutes,Daily Show with Jon Stewart, Charlie Roseなどのテレビ番組に出演するようになって状況はガラリと変わった。ルイスには難しい経済や数字の話題をとてもわかりやすく説明する天賦の才能があるから、「HFTってそういうものだったのか!もっと知りたい」と素人まで興味を抱いたのだ。


ルイスの話を聞くと、客の買い注文が出た後(つまり価格が分かってから)、マイクロセカンド単位で先回りして高く売りつけるというハイフリークエンシートレーダーのやり口は、100%勝つギャンブルをしているようなものである。「それってインサイダー取引じゃないの?合法なの?なんで許されてるの?」と私などの素人も疑問に思い、憤慨する。ウォール街で働いた経験がある私の夫のような人だけでなく、ウェルス・マネジメントを投資銀行にほぼまかせきりの私のような素人までもが本を買い求め、大ベストセラーになった。

『Flash Boys』を読むと、ハイフリークエンシートレーダーへのさらなる怒りがこみあげてくる。社会のためになることをひとつもせず、顧客から堂々と盗み、全世界を混乱に陥れるクラッシュを引き起こすかもしれない者たちが、堂々と大金を稼いでいるのである。これを読んで「そんなの許せない!」と怒る人が爆発的に増えたのは当然である。

こういった世論の高まりに押されたのか、司法省、米連邦捜査局(FBI)、商品先物取引委員会(CFTC)、証券取引委員会(SEC)などが調査に乗り出したようである。

『Flash Boys』はHFTを扱っているが、素人の私にも楽しめるヒーロー物語である。そのヒーローは、日系カナダ人のブラッド・カツヤマ氏である。

カツヤマ氏は、Royal Bank of Canada(カナダロイヤル銀行)に勤務しているときにウォール街に派遣され、そこでHFTに疑問を抱いた。カツヤマ氏は持ち前の探究心でHFTの謎を追いかけたのだが、不思議なことにHFTに関わっているプロでさえ何が起こっているのかを知らないのだ。HFTの正体に気付き、その対策を考えついたカツヤマ氏は、業界の人びとに自分が発見したことを伝えるが、大手の銀行たちは現状を変えようとしないのである。こういう状況にうんざりしたカツヤマ氏は、高収入で待遇がよい仕事をやめて、公正な株取引ができるプラットホーム運営会社IEXを作ったのである(ニューヨーク証券取引所のトレードが一瞬止まったといわれる、カツヤマ氏とBATS グローバルマーケット社長ウィリアム・オブライエン氏の大激論の映像はこちら)。Flash Boysの中でもそうだが、カツヤマ氏がものすごくかっこいい。

この本には、カツヤマ氏以外にも面白いキャラクターがたくさん登場し、まるでミステリかサスペンスのようである。そして、ノンフィクションだが最後に読者への謎が残されている。

その答えを知りたい人はこちらをどうぞ。

 

本書を理解するために役立つ経済用語(2011年6月26日の日本経済新聞の記事から抜粋)

▼HFT ヘッジファンドなどがアルゴリズム取引を駆使して手掛ける超高速・高頻度取引。High Frequency Tradingの頭文字を取って「HFT」。高速売買の大半は専門の業者やヘッジファンドによる取引で、システム面で対応できない一般投資家とりわけ個人の収益機会を奪いかねないとの指摘もある。米証券取引委員会も規制導入の是非を検討しているとされる。  

▼アルゴリズム取引 アルゴリズムは「プログラムの解析手順」のこと。コンピューターシステムが価格や出来高などに応じて、自動的に発注のタイミングや数量を決めて注文を繰り返す。先行する米国では1990年代から機関投資家を中心に広まり、日本でも2002年ごろから外国証券のサービス提供が始まった。現在では国内外のほとんどの投資家が何らかの形で使っているという。  

▼コロケーション 取引所のシステムセンターに証券会社がサーバーを設置し、取引所の株式売買システムとダイレクトに接続できるようにするサービス。注文を出すまでにかかる時間は、サーバー間の物理的な距離を短くしたことで、100分の1秒単位から1000分の1秒単位に縮まった。主な利用者はHFTで、証券会社のサーバーにプログラムを組み込んで高速売買する。

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