シンクロニシティをテーマにしたガーディアン賞候補のミステリ『She Is Not Invisible』

著者:Marcus Sedgwick (Midwinterbloodで2014年プリンツ賞受賞)
ハードカバー: 218ページ
出版社: Roaring Brook
ISBN-10: 1596438010
発売日: 2014/4/22
適正年齡:PG12(中学生以上、性的コンテンツやバイオレンスはない)
難易度:中級〜上級レベル(文章はシンプルだが、難しい単語やコンセプトがある)
ジャンル:YA/サスペンス/冒険
キーワード:全盲のヒロイン、coincident, synchronicity, シンクロニシティ、共時性、カール・ユング
賞:2014年ガーディアン賞(児童書対象)候補

 

ロンドンに住んでいるLaureth Peakの父はユーモア小説の有名作家だ。でも、近年では暗くてシリアスな作品ばかり書いていて、さっぱり売れない。経済的に困ってきているのに、何かに取り憑かれたようにまた暗い作品にとりかかっている。家計を支えるために看護師をしている母親は、子どもの世話と仕事で疲れきっていて、両親の仲はギクシャクしている。

父親が受け取るファンEメールの対応を引き受けている16歳のLaurethは、ある日奇妙なEメールを受け取った。父が作品のアイディアを書き込んでいるノートを見つけたので、そこに書いてある報酬が欲しいというものだ。それ自体は不思議ではないが、Laurethの父はスイスにいるはずなのに、メールの送り主はニューヨークに住んでいるのだ。父が何らかの事件に巻き込まれたと察知したLaurethは、父の安否に無関心な母には内緒でニューヨークに向かうことにする。


自立しているし、年齡よりも成熟して見られるLaurethだが、ひとつ困ったことがあった。Laurethは全盲なのだ。メールやネットは音声読み上げ機能で読めるし、立ち回りもけっこう慣れていて普段の生活に不便はしていないが、未成年でしかも全盲の自分が成人の付き添いなしに海外旅行をできるかどうかの保証はない。そこで、いけないとは知りつつも、7歳の弟を一緒に連れて行くことにする。

 

語り手は、未熟児として誕生し、生まれつき全盲の16歳の少女なので、彼女と一緒にドキドキしながら空港でセキュリティを通り、心ない人に罵倒されて悔しい思いをし、飛行機で差別の深さに心を痛め、大きさでまったく区別ができないアメリカの紙幣に戸惑い(私もこれは本当にひどいといつも思っている)、大都市のニューヨーク市内を走り回ることで、人々の不親切さ、優しさなどを実感する。

文中にも「座頭市」の映画について語られていたが、目が見えないからといって、その他の部分であんなスーパーヒーロー的な力がつくわけではない。でも、フィクションに出てくる盲目の主人公たちは、特別な力を持つ者ばかりだ。健常な人たちは、障がい者を特殊な者として見るが、そうではない。障がいがあっても、普通の人間なのだということを、ふつうの16歳の少女Laurethが身を持って語ってくれるのがいい。

物語は「coincident」と「Synchronicity」という「共時性」をテーマにしたサスペンスだ。サスペンスとしてはやや物足りないところもあったが、小学校高学年か中学生が読んでもいいYAサスペンスとしては非常にお薦めである。

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