あまり知られていないノルディック諸国を英国人作家がユーモアたっぷりに紹介 The Almost Nearly Perfect People

著者:Michael Booth
ペーパーバック: 416ページ
出版社: Vintage (2015/2/12)
ISBN-10: 0099546078
発売日: 2015/2/12 (英国では2014/2)
適正年齢:PG15(大人でないとニュアンスはわからないとは思うけど)
難易度:中級+(学校英語だけの人には、小説より読みやすいと思う。ただし、ニュアンスの理解は難しいと思う)
ジャンル:ノンフィクション/エッセイ(ユーモア)
キーワード:北欧、歴史、文化、文化人類学、Scandinavia, Denmark, Norway, Sweden, Finland, Iceland

日本では、『英国一家、日本を食べる』でお馴染みの英国人作家マイケル・ブースが北欧と北欧人について語るユーモアたっぷりのエッセイ。

私はかつてデンマークの医療品製造会社の日本支社に勤務していたことがある。
オープンのときには駐日デンマーク大使の祝辞を通訳し、本社のCEOや重役が来日するときには通訳、世話係を引き受け、単独でデンマーク本社に出張した。

その体験で知ったのは、日本人が「北欧」とひとくくりしているけれども、デンマーク人はスウェーデン人と混同されたくないということだった。スウェーデン人をネタにしたジョークがとても多い。でも、北欧人じゃない私にはオチがよくわからなかった。

後にスウェーデンとフィンランドを訪問する機会に恵まれ、本当に彼らが違うということがわかってきた。
そして、スウェーデン人がデンマーク人をネタにしたジョークを言うということも知った。
彼らの関係は「レッドソックス vs ニューヨーク・ヤンキース」みたいな感じだ。

この本の著者マイケル・ブースは、デンマーク人と結婚して何年かデンマークに住んでいたことがある。だから、デンマークの部分が多くて、本当によく描かれている。

ところで、私たちは「北欧」と曖昧に表現しているけれど、彼らにとってScandinaviaとNordic Countriesの定義は違う。

北欧の地図と国旗(Wikipediaより 作者:RoyalKiev
北欧の地図と国旗(Wikipediaより。 作者:RoyalKiev

Scandinavia(スカンジナビア)を文化と原語で定義するとDenmark, Norway, Swedenの三国に限定され、スカンジナビア半島で分けるならNorway, Sweden,Finlandの一部になる。

いっぽう、Nordic Countries (ノルディック諸国)の定義だと、Denmark, Finland, Iceland, Norway, Sweden, そしてそれらの国々に属する島 (Greenland, the Faroe Islands, the Åland Islands)が含まれる。

外の人にとっては些細な差だが、中の人にとっては重要な差だ。たとえばFinlandだけれど、訪問しただけでDenmarkやSwedenとは全然違うことがわかる。
生粋のスカンジナビア諸国にとっては、フィンランドは「圏外」なのである。

そういうことが、ユーモアたっぷりに、しかも詳細にわたって描かれているのがThe Almost Nearly Perfect Peopleだ。

社会保障が充実していることや、幸福度ランキングではいつもノルディック諸国が上位になる。デンマークが「世界で一番幸福な国」として注目されたのを覚えている方がいるはずだ。けれども、著者はこのランキングの問題点に触れている。

たとえば、英国の社会学者Richard Wilkinsonの次のような意見だ。「アメリカ人にとっては『幸福ではない』と言うのは自分が落伍者だと認めるように感じるかもしれないし、日本人は『幸福だ』と認めると 自慢しているように感じるかもしれない。だから、主観的な意見で幸福度を測るのは危険」

北欧は互いの信頼度も高い場所で、財布を置き忘れる実験でノルウェイとデンマークでは100%戻ってきている。そういった北欧の信頼性に合致するのが日本だということだが、それなのに日本人は互いを信じていない。そこが北欧との違いだということも書いてあって面白かった。著者は日本のことを”honorary Nordic country, Japan(名誉ノルディック国、日本)”と表現しているが、たしかにアジア諸国の中では日本は一番北欧に近いと思う。

先日、私たち夫婦とは30年近い付き合いになるデンマーク出身の友人と夕食をともにした。

そのとき、高齢になった友人の父親の視力が落ちていているという話になった。
「デンマークって、障がい者や病気の人への社会福祉がものすごく充実しているの。至れり尽くせり。アメリカとは全然違うわ!」と友人のパートナーが母国アメリカへの憤慨を露わに語る。
「病人が要求したら、国は何だってくれるのよ」
そこでデンマーク人の友人がすかさず付け加えた。
「・・・・・・スウェーデン人ですらね」
私がつい吹出すと、私がデンマークの会社で働いていた頃から知り合いの友人はウィンクしてハイタッチをした。
スウェーデンの方には申し訳ないが、「名誉デンマーク人」なので許していただきたい。

2 thoughts on “あまり知られていないノルディック諸国を英国人作家がユーモアたっぷりに紹介 The Almost Nearly Perfect People

  1. ブログのお引越し、リニューアル、おめでとうございます!ホームトップのイラストが可愛い~。
    この本、面白そうです。北欧諸国、前から行って見たいと思っているのですが、なかなか行きだせず。今テレビシリーズのVikingsを見ているのですが、中心になっている拠点地がデンマークで、私はVikingというと、ずっとノルウェーかスウェーデンのイメージだったので、ちょっとびっくりでした。デンマークはハムレットのイメージしかなかった国でしたが、王太子がオーストラリア出身の女性を妃に迎えてぐっと身近に感じられるようになりました。
    いつか行くことができることを夢見て本読んでみたいと思います。

    1. JonnyCakeさん、コメントありがとうございます。

      Jonnyさんがおっしゃっている番組は知らないのですが、デンマークのVikingぶりも本に出てきますよ〜。ぼちぼち読むのに適した本です。

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