オタクな会計士の青年が吸血鬼になってしまったら…..? The Utterly Uninteresting and Unadventurous Tales of Fred, the Vampire Accountant

著者:Drew Hayes
ペーパーバック: 300ページ
出版社: Reuts Publications
ISBN-10: 0989649997
発売日: 2014/8/12
適正年齢:PG 12(バイオレンスや性的話題はあるけれど、性的シーンはキス程度)
難易度:中級(一人称の語りで、ファンタジー用語に慣れていなら読みやすい)
ジャンル:YAファンタジー/パラノーマル・ファンタジー
キーワード:バンパイア、ゾンビ、シェイプシフター、パラノーマル、恋、戦い、ユーモア、vampire, Urban Fantasy

ドラキュラ伯爵からアン・ライス、とバンパイアものは昔からあったが、YA(ヤングアダルト)での大ブームを引き起こしたのはTwilightだった。
このTwilightのおかげで、かつてからあった「バンパイアは美しくてセクシー」というイメージは(ファンタジーに興味がない人の間にも)定着した。

美しくてセクシーなだけでなく、典型的なバンパイアは「無慈悲で自己チュー」だ。生身の人間たちは自分より劣った「餌」と見なしていている。

だが、この小説の主人公は、バンパイアのイメージから程遠いオタク青年なのだ。
子どもの頃から太めで運動神経ゼロのFredは、学校ではスポーツができる人気者たちにイジメられ、シカトされ、友だちはほとんどいなかった。人付き合いが苦手で数字が好きなので「accountant(会計士。アメリカでは最も退屈な職業としてジョークのネタにされている)」になり、税金申告のクライアントと会うほかは、コンビニとアパートを行き来するのが唯一の「外出」だった。

Fredは、ある夜コンビニからの戻り道で襲われてバンパイアになってしまったのだけれど、血を吸うために人を襲うような無慈悲さが欠けている。飢え死にしないために思いついたのが、脱税をしている医院の税金申告を引き受けるかわりに輸血用の血液をもらうという対策だった。バンパイアの栄養源は血液だけなので、ストレスによる過食ができない。おかげでスリムになったのは意外な副産物だったが、人付き合いが苦手で引きこもりの退屈な人生は以前とまったく同じだ。

けれども、Fredは初めて冒険をすることにする。それは、高校の同窓会だ。そこで見違えるように美しくなった元同級生の女の子に再会し、Fredの退屈な生活はすっかり変化してしまう。

Fredには人助けをしてヒーローになる願望もなく、どちらかというと「面倒なことにはかかわりたくない」と逃げ隠れするタイプだ。でも、Krystalというホットな元同級生のおかげで危険なことに巻き込まれるうちに、だんだん勇敢になっていく。よくあるストーリー展開とはいえ、Fredのオタクぶりは飽きずに楽しめる。特に男性読者はそうだと思うが、「自信がないふつうの青年」だからこそ感情移入しやすいヒーローだ。
ルックスも力もなかった青年が、しだいに心優しきヒーローになっていくこの物語は娯楽作品としてなかなか良く出来ている。だからこそ、インディな本なのに、アメリカでは非常に読者の受けがいい。私も口コミで知って読んだ。

300ページというと長い印象を受けるだろうが、中身は5つのエピソードに分かれていて、海外テレビドラマのように1エピソードごとにちゃんと終わりがある。

1エピソードをすぐに読み切ることができ、満足感もあるので、日本の読者にはとくにおすすめである。オーディオブックもなかなかいい。

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