アメリカ中西部が舞台の寓話のようなお料理物語 Kitchens of the Great Midwest

著者:J. Ryan Stradal
ハードカバー: 320ページ
出版社: Quercus Publishing
ISBN-10: 1784291935
発売日: 2015/8/6
適正年齢:PG 12 (性の話題はあれど、マイルド)
難易度:上級レベル(の中ではわかりやすいほう)
ジャンル:文芸小説/現代小説
キーワード:スカンジナビア料理、グルメ、レストラン、女性シェフ、アメリカ中西部(midwest)
賞:The New York Times Book Review, Editor’s Pick

2015年の後半、ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ多くのメディアで話題になった寓話的な雰囲気を持つ現代小説である。

かつてヨーロッパからの移民が多かったころ、ノルウェイ、フィンランド、スウェーデン、デンマークなどの北欧出身者の多くは、アメリカ中西部でもとくに冬が厳しいミネソタ州に根を下ろした。
そこでは、いまだに北欧の食の文化が引き継がれている。

この小説の主人公Evaの祖先も北欧人だ。父のLarsは、ノルウェイやスウェーデンの国民食であるLutefisk(石灰を使って処理する非常に特殊な魚料理)を子どものころから作って育ち、シェフになった。父は娘を溺愛して乳児のときから味の教育を始めたのだが、子育てよりソムリエとして活躍したい母は生まれたばかりの娘を残して姿を消してしまった。

重なる悲劇で家庭に恵まれなかったEvaだが、微妙なフレーバーを識別できる天才的な「舌」と料理への情熱を活かして類まれな人生を送る。

主人公Evaの視点ではなく、Evaの父、高校時代のボーイフレンド、年上の従姉、恋のライバル……といった彼女がある年齢で関わった人々の視線を通して綴ることで、Evaの人生があたかも伝説のように感じるようになる。その手法も面白い。
(アメリカ版と日本で入手できるバージョンでは表紙がちがうが、これはEvaの人生の別の部分を示している。この選び方も面白い)

もうひとつの魅力は、小説で描かれているアメリカ中西部に引き継がれている北欧の食文化と、レストラン業界の内情だ。
アメリカの食文化やレストラン業界というと、前にご紹介したFood Whoreのようにニューヨークのマンハッタンの話題が多い。ハリウッドやワイナリーがある西部や、ケイジャン料理がある南部を紹介する小説もけっこうあるけれど、中西部はあまりない。
そういう意味でも、この小説はとても興味深くて、まったく飽きなかった。Lutefiskは今でも食べたくないけれど(笑)。

ちょっと風変わりな、けれども読みやすい文芸小説を探している方におすすめ。

2 thoughts on “アメリカ中西部が舞台の寓話のようなお料理物語 Kitchens of the Great Midwest

  1. 一人称ではなく、三人称で間接的に伝承を聞く様なスタイルは、新鮮で面白い反面、没入感に乏しくEvaをもっと知りたいと云う思いが募ります。大昔、地理の授業で習った中西部「コーンベルト」という言葉を思い出すと同時に、トウモロコシの味の違いや、トマトの美味しさ、極めるとこんなに違うこと、面白く読了しました。

    1. blancasさん、
      そうですよね。「もっと知りたい!」というもどかしさも、実はこの小説が狙っているところなのだと思います。そこが「伝説の人物」的ですよね。

      この本のことが頭に残っていたので、シカゴでのブックエキスポでは、中西部の特徴がある料理を出すレストランに行きました。いろんな移民の味がミックスされたもので、満足度高かったです!

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