子どもの誘拐事件の複雑さがリアルなミステリ What She Knew

著者:Gilly Macmillan
ペーパーバック: 496ページ
出版社: William Morrow Paperbacks
ISBN-10: 0062413864
発売日: 2015/12/1
適正年齢:PG 15(大人向けの小説だが、中学生が読んでも特に問題はない)
難易度:中級〜上級(英語ネイティブの普通レベルだが、ストーリーに入り込みやすいので読みやすく感じるだろう)
ジャンル:ミステリ
キーワード:子どもの誘拐、親の離婚、シングルマザー、ネットでの吊し上げ、ゴシップ、警察

*イギリスでは『Burnt Paper Sky』というタイトルです。

イギリスBristolに住むシングルマザーのRachelは、夫との離婚からようやく立ち直りかけていたときに息子のBenを誘拐されてしまう。
いつものように森を散歩しているとき、8歳の息子から「先に行っていてもいい?」と尋ねられ、「だめよ。あぶないから」と言いたい母親としての気持ちを抑え、「この場合に父親だったらどう言うだろう?」と自問して自由を与えたのだった。

取り乱す母親に同情するどころか、マスコミと一般市民は「子どもから目を離すなんて、母親失格だ」とか「母親がやったにちがいない」と攻撃しはじめた。
いっぽう、初めての大事件を担当した刑事は解決への意欲を持ちすぎたばかりに数々の失敗を起こし、姉や親友すらも信用できなくなる。孤独になったRachelは、息子を見つけられるのは自分だけだと信じて行動する。…..。

わが子が行方不明になるというのは、親にとって想像したくもない悪夢だ。
(私にも15分その体験があるので、この部分は読むだけで胸が凍り付きそうになる)
すでにどん底の心理状態にある母親、とくにシングルマザーを「母親失格」、「母親が悪いから誘拐されたのだ」、「母親が犯人にちがいない」決めつけてさらに傷つけるのがマスコミであり、一般市民なのだ。二人を置き去りにした夫と再婚相手のほうは同情の対象になるのに。
Rachelを制裁するのは、タブロイド紙やテレビだけではない。いまはインターネットという武器がある。
誰かが作った事件ブログに、多くの人がRachelを犯人と決めつける書き込みを始める。しかも、そこには警察関係者のリークと思われる情報までもが……。

これまでにも子どもの誘拐事件をテーマにしたミステリはたくさんあったが、このミステリは、事件があったときにすぐに犯人を決めつけて制裁したがる群集心理を描いているところがいい(これを読んで反省してくれる人が増えればさらにいいのだが)。そして、警察に「事件を解決したい」という意欲があっても、それが間違った方向にむかうことがあるのもリアリスティックだ。

「誰がやったのか?」という犯人探しや、Benの行方を追うスリルもさることながら、登場人物たちの複雑な心理ドラマで最後まで一気に読ませてくれる上質のミステリだ。

デビュー作家だが、すでに本国のイギリスでは話題になっており、アメリカでもこれから売れることが予想される。
家族ドラマをまじえた心理スリラー/ミステリにかけては、アメリカよりもイギリスの女性作家の作品が面白いような気がしてならない。

同じ作者の第二作が3月に発売されるということで、それを楽しみにしている。

4 thoughts on “子どもの誘拐事件の複雑さがリアルなミステリ What She Knew

  1. この本を今読んでいる途中なのですが、洋書はスリラー系の本が多い気がします。それに社会的要素が盛り込まれている小説が多くてすごく好きです。逆に日本の本はあまりそういうのがないような……最近不思議に思います。

  2. 古典的なミステリが昔は好きだったのですが、最近は最後まで何が起こっているのかハラハラさせられる心理スリラーが好きになっているのを感じます。
    とくに社会的な要素が多いものが面白いです。
    日本では、それを好む読者が少ないから作家もあまり書かないのかもしれませんね。
    海外のことにあまり興味がなくなっているような気もしています。それが翻訳文学がなかなか出版されない状況に繋がっているとも聞きました。

    1. そうなんですね、知りませんでした。私は英語以外は翻訳小説で読むんですが、フランス文学、ロシア文学、それぞれに違った雰囲気があって面白いです。特に何世紀か前の小説は翻訳の方が現代語になっているものが多いので、むしろ名作にチャレンジしやすいのかな、とも思います。色々な違いを楽しむことのできる人が増えればいいですね。

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