アマゾン出版社からデビューしてテレビ番組化。一躍有名になったSF作家の注目の新作 Dark Matter

著者:Blake Crouch (The Wayward Pines trilogy)
ハードカバー: 352ページ
出版社: Crown(ランダムハウスの一部門)
ISBN-10: 1101904224
発売日: 2016/7/26
適正年齢:PG15(多くはないが、性的な場面やトピックあり)
難易度:中級寄りの上級(英語ネイティブの普通レベル。単語のぶつ切れとかが多く、シンプル)
ジャンル:SF/スリラー
キーワード:パラレルワールド、quantum physics、ラブストーリー

先日のKindle Unlimitedに関するブログで、アマゾン出版社からベストセラー作家が生まれていることを語ったが、その一人が今年注目されている新刊『Dark Matter』の作者Blake Crouchだ。

Couchは、5冊の小説をCreative Spaceから自費出版した後、アマゾン出版社のミステリ/スリラー専門インプリント「Thomas & Mercer」からThe Wayward Pines三部作を刊行した。

この三部作は、Kindle Unlimited(キンドル読み放題)で4桁のユーザー評価(しかもほぼ5つ星の高評が多い)がつき、ランキングのトップに上がってきた。

Kindle Unlimitedでトップになると、Kindle全体のランキングでもトップになれる。そこで注目されたCouchの三部作は、フォックステレビで「Wayward Pines(ウェイワード・パインズ 出口のない街)」というドラマシリーズになった。

こうして、一躍ベストセラー作家になったCrouchは、大手ランダムハウスの傘下にあるCrownに移籍し、新刊「Dark Matter」を発売した。この本は、今年5月末のBook Expo Americaの話題作でもあり、私もAdvance Reader’s Copyを受け取った。

『Dark Matter』の主人公Jasonは、輝かしい将来を期待されていた物理学者だったが、若い時にある選択をし、その結果として、現在はぱっとしない大学教授になっている。才能あふれるアーティストだった妻も、キャリアより母としての人生を選んだ。一人息子との穏やかな幸せにほぼ満足しているふたりだが、昔の知り合いの成功を見るたび、「あのときもし……」という思いが胸をよぎるのは否めない。だが、「あのとき」の選択が異なっていたら、Jasonの世界はどうなっていたのだろうか?

パラレルワールドをテーマにした本書は、謎めいた出来事、期待を裏切る展開、スピーディなテンポと読者を惹きつける要素は十分にある。そのためだろう、アマゾンやGoodreadsでの評価も高い。しかし、SFとしてはあまり新しい発想でもないし、フィクションとはいえ科学的な部分に説得力がない。何より気になるのは、哲学的な深みがないところだ。Thomas & MercerはSFではなく、ミステリとスリラー専門だったが、『Dark Matter』もSFというよりもはスリラーの要素が強い。

『Dark Matter』を読んでいるとき、「アメリカで流行っているテレビドラマを観ているみたいだ」と感じたが、現在の若いアメリカ人読者は、複雑なニュアンスがあるSFやファンタジーよりも、わかりやすい濃い味のスリラー的なSFやファンタジーのほうが好みなのかもしれない。たとえば、人気テレビドラマの『Lost』みたいな感じの作品だ。

古典的なSFファンにはあまりお薦めできないが、Lostのタイプのスリラーが好きな人は、Blake Crouchを試す価値はあるだろう。

 

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