「助けて」となかなか言えない人に読んでほしいアマンダ・パーマーの自伝 The Art of Asking

著者:Amanda Palmer(アマンダ・パーマー)
ペーパーバック: 352ページ
出版社: Grand Central Publishing; Reprint版
ISBN-10: 1455581097
発売日:2015年10月20日
適正年齢:PG15(性やドラッグについての話題あり)
難易度:上級レベル(英語のネイティブでないとわかりにくいスラングがある)
ジャンル:回想記/自己啓発
キーワード:TEDトーク、クラウドファンディング、キックスターター、ドレスデン・ドールズ、インディ・ロック、アマンダ・パーマー、ニール・ゲイマン


インディなロックミュージシャンのアマンダ・パーマーは、アメリカで私が22年住んでいる町で生まれ育ち、町の公立学校で私の娘と同じ教師に教わったこともあり、ずいぶん昔から知っている。情報公開すると、家族全員が彼女と会っており、私の夫は彼女を何度かインタビューし、TEDトークの前には少しアドバイスしている。

アマンダは、自分も認めているが、子どもの頃から少し尖っていて、周囲と馴染めず、高校の時には、友だちは演劇の教師とラテン語の教師だけだったという。

けれども、「ドレスデン・ドールズ」という(パンク・キャバレーという不思議なジャンルの)ロックバンドで活躍し始めてから、アマンダは母校の高校生たちとの繋がりを深めていった。コンサートでは彼らを舞台に呼び、演劇部の生徒たちを自分のミュージックビデオに使い、ボランティアで母校の演劇を創作・監督した。(この演劇で、私は保護者ボランティアをしてアマンダに会っている)
そういった、見返りのことなど考えず、「与える」アマンダを、私は実際にこの目で見てきた。

アマンダは、外からは鋼鉄の神経の持ち主のように見える。眉を剃り落として手描きし、ミュージックビデオで平気で裸になる。音楽活動のためにストリッパーをやっていたこともあるらしい。ふつうの女性なら裸になるならダイエットをするものだが、お腹の脂肪を平気で公開するだけでなく、それをカットしようとした音楽レーベルと公に喧嘩をする。

けれども、本当は傷つきやすく、いろいろなことで悩む女性でもある。

彼女は、「私を解放して!」と公の場でアピールして、レーベルを離れて独立し、国際的に有名なSF作家のニール・ゲイマンと結婚し、クラウドファンディングのキックスターターで100万ドルの資金を集め、TEDトークで一躍注目された。

だが、それにつれてアマンダへのネットやソーシャルメディアでの風当たりも強くなった。「リッチな夫に面倒を見てもらっているだけの、目立ちたがり屋」といった感じの批判が押し寄せた。

この本には、それらの顛末と、背後にあるアマンダの苦悩が包み隠さず書かれている。大胆なことをするのに、一方で徹底的に落ち込み、それを正直すぎるほど正直に打ち明ける。そんなアマンダの言葉に、「私もそうだ」と共感する人は多いだろう。

嬉しいことに、早川書房から日本語版が出た。
お願いの女王』という本書のタイトルだけを見ると、彼女が「お願い上手」だという印象を受けるだろうが、そうではない。これは、お願いが下手なアマンダが、周囲の大切な人々からその術(アート)を学んでいくプロセスを描いたものである。迷いや脆弱さが際立つからこそ、読みごたえがある。

「助けて」となかなか言えない、生きるのが下手な人にこそ読んでいただきたい本だ。

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