現代アメリカの政治問題を背景にした、切なくて心暖まる恋の物語 Sun is Also a Star

著者:Nicola Yoon
ハードカバー: 384ページ
出版社: Delacorte Press
ISBN-10: 0553496689
発売日: 2016/11/1
適正年齢:PG12(やや性的な場面あり)
難易度:中級+ (散文詩のような文体で、とてもシンプル。よみやすく、わかりやすい。)
ジャンル:YA(ヤングアダルト、リアリスティック)/青春小説/ラブストーリー
キーワード:黒人、韓国系アメリカ人、移民問題、人種問題、家族関係


Danielの両親は、貧困から抜け出すチャンスをつかむために韓国からアメリカに移住し、黒人女性のためのカツラやヘアケア製品の店を営んできた。そして、多くのアジア系移民の親がそうであるように、わが子が有名大学を卒業して医師になることを望んでいる。

ハーバード(Danielの両親によると「1番」の大学)に入学したDanielの兄は、子どもの頃からアジア的なものを極点に嫌悪し、家族、特に弟を粗末に扱ってきた。しかし、これまで優越感たっぷりだった兄が何らかの理由でハーバード大から停学を言い渡され、両親はDanielへのプレッシャーを強める。イェール(両親によると「2番」の大学)に入学して医者になる、というものだ。

でも、Danielの夢は詩人になることだ。医者になりたいとは思ったことはない。でも、良い息子としてDanielはイェール大学の面接に向う(アメリカの大学の面接は、その大学の卒業生がボランティアで行う)。

その途中で、Danielは黒人の少女に出会った。

Natashaはジャマイカ生まれの違法移民だ。
有名な役者になる夢を抱いていた父がアメリカに移住し、その後、母と一緒にあとを追ったのが10年前のことだった。違法移民とはいえ、17歳のNatashaにとって故郷はもうアメリカでしかない。勉強(特に科学)が大好きなNatashaなのに、大学進学を目前にして父のせいで違法移民であることが明らかになり、国外退去されることが決まっていた。

自分にとっての故郷であるアメリカを諦められないNatashaは、国土安全保障省 市民権・移民局で嘆願の予約を取っていた。

その途中、NatashaはDanielに出会った。

詩人の心を持つDanielは、論理的で現実主義なNatashaに、出会ったときから一生続く愛の存在を説得しようとする……。

アジア系移民も黒人も、アメリカ社会で偏見や差別の対象になるという点では共通している。けれども、互いのグループへの偏見を持っているのも事実だ。それが、アメリカの複雑な現実である。NatashaとDanielの若くて切ない恋は、現代アメリカのあちこちで起こっているリアルな現象なのだ。

切ないところは多いけれども、全体的に愛や希望に満ちた小説だ。著者のNicola YoonがNatashaと同様にジャマイカ系のアメリカ人で、夫が韓国系アメリカ人だというのも、読者に暖かな希望を抱かせてくれるだろう。

「アップルパイを最初から作るためには、まず宇宙を作るところから始めなければならない」というカール・セーガンの言葉が最初に紹介されるが、その意味がとてもよくわかる小説だ。

洋書を読み慣れていない読者にもよみやすく、しかも社会性があり、ポジティブな小説なので、「ヤングアダルト」というジャンルを気にせず、「現代小説」として試していただきたい。

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