風刺ニュース番組「The Daily Show」の司会者Trevor Noahが語る、アパルトヘイト時代の南アフリカでの少年時代『Born A Crime』

著者:Trevor Noah
ハードカバー: 304ページ
出版社: Spiegel & Grau
ISBN-10: 0399588175
発売日: 2016/11/15
適正年齢:PG15(高校生以上)
難易度:上級
ジャンル:回想録
キーワード:南アフリカ、アパルトヘイト、人種隔離政策、カラード、The Daily Show、コメディアン、ドメスティック・バイオレンス
オーディオブックに適した本(コメディアンの著者が読んでいる)

邦訳版が出ました!(2018年5月)
帯の推薦文も書いていますので、ぜひ手に取ってくださいね!

アメリカ在住の人や、アメリカ文化に詳しい人なら、『The Daily Show』というテレビ番組のことはよくご存知だろう。1999年から2015年までJon Stewart(ジョン・スチュワート)が司会をしていた風刺ニュース番組で、実際のニュース番組より若者に影響力を持つとまで言われていた。スチュワートが引退を発表したときには、多くのファンが「彼のあとを継げるようなコメディアンはいない」と嘆いた。

南アフリカのコメディアンTrevor Noah(トレヴァー・ノア)がスチュワートの後継者に決まったとき、ノアに期待するより、彼の力量を疑う人のほうが多かった。私もそのひとりだった。だが、彼はスチュワートのファンを納得させ、新たに若い世代を取り込むようになっている。

それまでノアのことをまったく知らなかったのだが、この回想録と、彼がニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したコラムを読んで、彼への評価が変わった。学者と教育者の両親に育てられ、ウィリアム・アンド・メアリー大学で学んだスチュワートとは異なり、ノアはアパルトヘイト時代の南アフリカで黒人のシングルマザーに育てられたカラード(白人と黒人の混血)だ。大学教育は受けていない。

ノアの達成がどれほど驚異的なものなのかを知るためには、彼が生まれた時代の南アフリカを知る必要がある。
アパルトヘイト時代の南アフリカでは、国民は4つの人種カテゴリー(白人、黒人、カラード、インドやパキスタンなどからのアジア系)に分けられ、それぞれの権利が異なった。また、異なる人種間(とくに白人と黒人)の結婚は違法であり、混血の子ども産むのは、厳しい懲罰がある「犯罪」だった。ノアの母親は、スイス人の友人に依頼し、故意にその犯罪をおかして息子を産んだのだった。

「カラード」と呼ばれる混血のトレヴァー少年は、存在そのものが犯罪なので、アパルトヘイトが撤廃されるまでは、人目につかないように隠されていた。そして、その後もどのグループにも属せない孤独さを経験した。

ノアの回想録には、飢えて毛虫を食べるような貧困生活や、盗難物品を売る闇商売の経験など辛い逸話が多い。なのに、それを明るく、ユーモアたっぷりに語る。ノアの母親が義父から受けたドメスティック・バイオレンスは凄まじいものだが、それにさえ笑いを交えているのだ。これほどの文章力を独学で得たノアは、きっと外には見せないすごい努力を積み重ねてきたのだろう。

アパルトヘイト時代の不条理な社会と、撤廃後の黒人同志の対立を、クリアな視線で見据えているところにも、ノアの深い知性を感じる。

ノアは暇さえあったら好きな読書をしているようだが、自分の意見を持つことができる人は、やはり多くの本を読んでいるのだと思った。

私はオーディオブックで読んだのだが、大正解だった。
英語とアフリカーンス語だけでなく、その他多くの公用語を流暢に使い分けるノアの語りは感動的だし、俳優だった経験もあるノアの表現力がすばらしい。
紙媒体でもきっと楽しめると思うが、オーディオブックをあえてお薦めしたい作品だ。

5 thoughts on “風刺ニュース番組「The Daily Show」の司会者Trevor Noahが語る、アパルトヘイト時代の南アフリカでの少年時代『Born A Crime』

  1. いつも楽しくブログやコラムを拝読しております。Trevor NoahのBorn a Crimeは、お勧めに従いオーディオブックをセレクトし、数日前に聞き終わりました。実はこれまで一般的にオーディオブックは余り得意ではなかったのですが、通勤時にいつもスマホやPCの画面ばかり見ているので目を休ませようと思いチャレンジしてみたところ大正解!本の面白さとNoahの演技力に引き込まれ、通勤時間が楽しみになりました。家事をしながら聞けるのもいいですね。他にもお勧めのオーディオブックがあれば是非ご紹介ください!

    しかしまあ、Trevor Noahの生い立ちは凄まじいですね。ロンドン在住につき南アフリカ人と触れ合う機会は多いものの、私の知り合いの南ア人は全員ヨーロッパ系の白人、これまで見た映画はマンデラやビコなどの活動家関連のものだったので、この本を通じて全く知らない南アフリカの庶民の生活を垣間見れたのも興味深かったです。Noahの母親は現在の南アに産まれていれば、国政に関るような女性になったかもしれませんね。

    1. Lumiさん、
      なぜかコメントを見落としていてすみませんでした!

      ほんとこの本大好きで、娘にオーディオブックをあげてしまって後悔(1回だけは他人にあげることができるんです)。
      そこで、また図書館で借りて読みました😁
      Trevorのお母さんがすごいですよね。彼女が育てたからこそ、Trevorはこんなにすごい人になったのじゃないかと思います。

  2. 昨年の「これ読ま」大賞受賞作、やっと読めました。トレヴァー・ノアについては全く知らなかったので、渡辺さんの書評を読んでいなかったら、おそらく出会えなかった本でした。感謝、感謝です。大笑いさせておいて返す刀でスパっと斬ってくる、ユーモアと風刺・皮肉に満ちた語り口に降参しました。

  3. 友人たちから読むことを薦められていたら、ここでオーディオブックを薦めておられたので、オーディオブックにしたら大正解。様々な南アの言語も聞けたし、いろんな声色を使う芸、歌も上手ですし、知性あふるる内容も聴き甲斐がありました。大気汚染と渋滞の中、ノアさんの語りを聞いて笑顔になりました。彼の目からみた他民族国家、階層国家である南アを知ることで考えさせられることが多かったです。今後彼がどういう活躍をしていくのか楽しみです。

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