嫌いな人にも優しくなりたくなる本 Eleanor Oliphant Is Completely Fine

作者:Gail Honeyman
ハードカバー: 400ページ
出版社: HarperCollins
ISBN-10: 0008172110
発売日: 2017/5/18
適正年齢:PG15
難易度:上級
ジャンル:現代文学/chick lit
キーワード:独身女性、孤独、児童虐待、心的外傷後ストレス障害、優しさ、人との繋がり、友情、愛情

邦訳版が出ました。

Eleanor Oliphant(エレノア・オリファント)は、過去に職場で出会った誰かを思い出させる女性だ。

自分に与えられた仕事はちゃんとこなすけれども、場の空気が読めず、頭に浮かんだことをそのまま口にするので、周囲から鬱陶しがられている「あの人」だ。

まだ若いのに、美しく着飾る努力はせず、毎日同じような服を着て、同じものを食べて暮らしている。
「そんな人生のどこが楽しいのだろう?」と不思議に思うが、「How are you?」と尋ねたら「I’m fine,thank you.」と自動的に返事をするような「あの人」である。

Eleanorは、自分が職場の同僚に嫌われているのは承知しているけれど、だからといって自分が不幸だとは思わない。仕事もせずにサボってばかりいる人たちと関わりになりたくはないから。仕事は好きだし、週末には自分へのご褒美としてピザとウォッカを楽しむ。週に一度のMummy(お母さん)からの電話は辛いけれど、それ以外は「completely fine」な人生だと思っている。

特に幸せではないが、不幸でもないEleanorの生活は、同じ会社で働くIT技術者のRaymondと出会ってから突然変化する。彼の親切さに強引に巻き込まれ、人と関わるようになって心の鎧を脱いでいくのだ。そして、読者はその鎧の下に隠れていた傷だらけのサバイバーの少女に出会う。しかも、彼女を見下していた私たちより、ずっと勇敢な少女だ。

この本は、ジャンルとしては「女性小説(Chick lit)」ということになるのだろうが、お決まりのパターンからは外れている。

読者が最初に出会うEleanorは、嫌な女でしかない。他人に手厳しく、同情のかけらもない。職場で嫌われているのも当然だと思う。だが、Eleanorの社交能力のなさを笑っているうちに、印象が変わってくる。気付いたときには、Eleanorのために涙を流し、最後には「幸せになるんだよ!」と心から声援を送るようになっていた。

Eleanorが思い出させてくれたのは、かつての職場で会った「不機嫌な同僚」たちだ。
もしかすると、彼らもEleanorのようなサバイバーなのかもしれない。だとしたら、私たちはもっとRaymondになるべきだったのだろう。

こういう気分にさせてくれる主人公や小説はめったにない。
そういう意味で、この本を書いてくれた作者には心から感謝したい。

6 thoughts on “嫌いな人にも優しくなりたくなる本 Eleanor Oliphant Is Completely Fine

  1. 読後感がとてもよかったです。読んでいる途中「Eleanor と Raymond は恋人同士になるのかな?」と思ったりしたのですが、その辺ははっきり描かれずに終わったのも好印象でした。きちんとした英語を話し、日常生活ではあまり見聞きしない単語や表現を使う Eleanor のおかげで、英語の勉強もできました(笑)。

  2. 私にとって初めは難しかったのですが、中盤から止められなくなり一気に読んでしまいました。読後すっかりEleanorロスです😅処女作でこんなに深く、考えさせられ余韻も残る作品が書ける作者のGail Honeymanにも感謝。またきっと読み返すと思う本です。洋書を読む楽しみも教えてくれた、記念すべき本てす!

  3. appleseed0108さん、
    楽しまれたようで、こちらも嬉しいです!
    こうやって洋書を読む喜びを味わってくれる方が増えるだけで、書いている価値があると思っています。
    私にも洋書を読むのが大好きになったきっかけの本があるのですが、一生忘れない宝物です。

  4. 序盤のとっつき難い性格描写になかなかページが進みませんでしたが、中盤の大きく暖かな手に安心した
    表情から、サックス博士がAn Anthropologist on Marsで紹介するテンプル・グランディン、空気圧で体を柔らかく圧迫する自宅の装置を紹介する場面を思い出しました。

    それほど親しくない他人と触れ合うのがどれほどの嫌悪感を伴うか、反面大好きな叔母にハグされるのがどれほど暖かく癒されるかを述べ、好きな時に自分でハグ出来る様、自作してしまう事ができる技術的能力と、機械以外に自分の緊張を解す術の無い状況に圧倒されました。

    終盤、Raymondの見守る中、Maria Temple博士と心理的トラウマを乗り越える場面は切ないですが、Mummyにさよならを言い渡す場面、爽やかな心境になれます。

    コミュニケーション含めた今後の展開も一波乱ありそうで、続編があっても良いかなと思えます。

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