リーマンショック前後のニューヨーク。アメリカンドリームに翻弄されるリーマン重役と移民の物語 Behold the Dreamers

作者:Imboro Mbue(デビュー作家)
416ページ
Publisher: Random House
ISBN-10: 0525509712
発売日:8/2016
適正年齢:PG15
難易度:上級
ジャンル:現代小説
キーワード:カメルーン、移民、アメリカンドリーム、リーマンショック、2008年金融危機、人種関係
文芸賞:2016年PEN/Faulkner賞、オプラ・ウィンフリーのブッククラブ推薦本

Jende Jongaは祖国カメルーンでは実現不可能な夢を叶えるために妻と息子を国に残してアメリカに移住した。
ようやく貯金をして妻と6才になった息子を呼び寄せた2007年、Jendeは幸運を手に入れた。
それは、リーマン・ブラザーズの重役Clark Edwardsのプライベート運転手の仕事だった。

Clarkは、運転手の条件として「時間厳守、秘密保持、忠誠心」を求め、Jendeはそれを心から誓う。
Clarkだけでなく、妻のCindyや息子たち2人を運転するうちに、Jendeは裕福で何の苦労もなさそうなEdwards一家が持つ深刻な問題を知る。

祖国ではJendeよりも上流家庭で育ったNeniには、十代で妊娠したために厳格な父から高等教育を諦めさせられた苦い思い出がある。Neniの夢は、アメリカで薬剤師になることだ。その夢の実現のために、Neniはパートタイムで働きながら家事もし、猛勉強もしていた。
ところが、せっかく良い成績を取ったというのに、再び妊娠したために、Jendeから仕事と学校をやめて育児に専念するよう命じられてしまう。しかも、弁護士が軽く約束していたJendeのグリーンカード確保の道が拒否され、退去強制の可能性が出てきた。Neniは、なんとかして、子どもたちだけでもアメリカンドリームを叶える道を残せないものかと画策する。

そんなとき、リーマンショックが起こり、ドミノ式に起こったEdwards家の問題に巻き込まれてJendeは運転手の職を失った。JendeとNeniは、夢と現実の間で争うようになる……。

作者のImboro Mbueは、本小説のJendeやNeniのようにカメルーンのリンベ出身の女流作家だ。
だが、JendeやNeriとは異なり、アメリカの大学と大学院で学び、2014年にアメリカ国籍を得た。
デビュー小説にランダムハウスから百万ドルの契約金を得ただけでなく、2016年にPEN/Faulkner賞を受賞し、今年2017年6月には、オプラ・ウィンフリーの「ブッククラブ」の小説に選ばれたのだから、「アメリカンドリーム」を実現した移民と言えるだろう。

『Behold the Dreamers』には、文芸小説にありがちな「近寄りがたさ」がなく、テレビドラマのようにすんなりと読める。
舞台は、サブプライムローンの問題が浮上してきた2007年から、リーマン・ショックと金融危機に引き続いてオバマが大統領に就任した2009年までのウォール街だ。アメリカンドリームが膨らんで弾け、多くの人が職を失った劇的な時代だ。

カメルーン移民の夫婦から見たリーマン・ブラザーズ重役一家の暮らしはきらびやかだが、彼らが決して幸福ではないことはすぐにわかる。アメリカンドリームを実現したはずの人たちなのに、その成功が彼らを不幸にしているのだ。JendeやNeniは、自分の子どもたちがアメリカで大学に行き、医師や弁護士になることを夢見ているのだが、すべてを手に入れた成功者のアメリカ人の子どもたちは、弁護士を嫌って、インドでナチュラルな暮らしを実現しようとしている。それに呆れるJendeたちの反応は、アメリカの移民一世に共通したものだ。

『Behold the Dreamers』は、とても正直な小説でもある。
アメリカンドリームの要素は「お金」だ。お金がなければ愛は存続できないが、お金があっても愛は破壊される。
Mbueは、ウォール街の重役を悪者のカリカチュアにすることもなく、カメルーン移民のJendeやNeniを天使のように描くこともない。すべての登場人物がリアルで、彼らの失敗にすら同情心を覚える。

エンディングには正直がっかりしたが、それ以外は非常によくできた現代小説だ。アメリカの移民が抱える問題は、10年後の現在も改善するどころか悪化している。そういう意味でも、タイミングが良い作品といえるだろう。

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