超人を育てる長期計画を立てた父。その過酷な人生から逃げた娘の回想録The Only Girl in the World

作者:Maude Julien
ハードカバー: 288ページ
出版社: Little, Brown and Company
ISBN-10: 031646662X
ISBN-13: 978-0316466622
発売日: 2017/12/12(アメリカでは2018/1)
適正年齢:PG15
難易度:上級(ネイティブ普通レベル。フランス語からの翻訳なので日本人にはやや読みやすい)
ジャンル:回想録
キーワード:児童虐待、カルト、心的外傷、心理問題

発売のずっと前に何らかの理由でキンドル本を予約していたようだが、自動的にキンドルにダウンロードされたときにはどういう本なのか忘れていた。

読み始めてしばらくは、ダークなファンタジーだと思いこんでいた。途中でようやくこれが「ノンフィクションの回想録」だと気づき、唖然とした。それほど常識を超えた実話なのだ。

作者のMaude Lulienの父親Louis Didierは、無教養でありながらもある程度の富を作り、ある壮大な計画を立てた。
それは、自分の子供を人類でもっとも卓越した超人に育て上げることだ。

Didierは、貧しい農民から6歳の娘を買い上げ、超人の子供を育てるための「理想的な母」として育てあげた。その娘が教養を身に着けて成人してから結婚し、娘のMaudeが生まれると、3人でフランスの田舎に引きこもった。娘が外部から悪い影響を受けないためだ。

密教的な秘密結社を信じていたDidierは、独自のスパルタ教育を編み出し、母親を教師にして幼児期から長時間学問をさせ、肉体労働もさせた。アル中の彼は「酒に強い」ことも超人に欠かせない才能と信じ、幼いときからMaudeに酒を飲ませた。そのため、彼女は後に肝臓障害を持つことになった。

また、精神的に強靭になり、感情を表に出さないのが超人だと信じる父は、娘が6歳のときから真っ暗な地下室に閉じ込めて「死について瞑想する」ことを強要した。電気柵を両手で掴ませ、どれほど痛くても無表情でいる訓練もさせた。

そのくせ、娘の安全を思いやることに欠けていた父は、手伝いの男が児童性愛者だということを想像もせずにいやがる娘と二人きりにさせた。そのために、Maudeは3歳から13歳まで性的虐待を受け続けた。

Maudeを救ったのは音楽教師だった。Didierの信頼を培ったうえで、Maudeを自宅から引き出し、自分の家に居候させているうちに若い音楽家と引き合わせた。この若者と結婚したことで、Maudeは18歳にしてようやく家から離れることに成功したのだった。

「信者3人のカルト」とMaudeは呼ぶが、本当にそうだと思った。彼女がそこから逃げ出し、ちゃんと大人になって心理学者になったというのは、フィクションよりもすごいことではないかと思った。

Maudeが自分のように虐待を受けた子供を助ける心理学者になったという後日談には救われる思いだったが、そこに至るまでには、大変な思いをしたようだ。

非常に興味深い回想録だが、難があるとすれば、唐突に終わることだ。父から逃げた後日談がほとんどないので、なんだか突き放されたような気がした。自分以外の子供と会ったことがないMaudeがどうやって社会とおりあいをつけていったのか、知りたいと思った。

できれば、その後どうやって回復したのか、ぜひ続編を書いていただきたいものだ。

2 Comments

  1. 日本語訳の本が出てますよ。2016年『父という檻の中で』というタイトルで。

  2. そうなんですか。邦訳のほうが英訳より速かったのですね。
    私は日本に住んでいないし、日本語の本は通常読まないので知りませんでした。
    お知らせありがとうございます。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott にコメントする コメントをキャンセル