税金滞納で自宅差し押さえ。近郊のリッチな中級階級からヒルビリーになった夫婦の、いかにもアメリカ的な回想録 

作者:Jennifer McGaha
ペーパーバック: 356ページ
出版社: Sourcebooks Inc
ISBN-10: 1492655384
発売日: 2018/1/23
適正年齢:PG15+(性的な話題はあるがマイルド)
難易度:中級+〜上級(シンプルな文章スタイルで理解しやすい)
ジャンル:回想録
キーワード:税金滞納、自宅差し押さえ、夫婦の危機、アパラチア山脈地帯、にわか農家

2009年の金融危機で全米の経済が大きくぐらついたが、特に影響を受けたのが『ヒルビリー・エレジー(Hillbilly Elergy)』に登場するアパラチア山脈の地域だった。労働者階級の多くが職を失い、ドミノ効果で中流階級も収入が激減した。

今年1月に発売された回想録Flat Broke with Two Goatsの作者夫婦もそうだった。
妻のジェニファーは大学の准教授で夫のディヴィッドは会計士/税理士。友人夫婦から購入した自慢の自宅に住み、子供3人を授業料が高い私立学校に通わせていた。著者自身が書いているように、ノースカロライナの郊外の町では、典型的なupper-middle class(高収入/専門職の中流階級)の一家だった。

収入に余裕があったわけではない。常に借金のほうが多く、老後の蓄えのない生活だったが、「いつか蓄え始めればいい」という(根拠がない)楽観主義で生きていた。

しかし、金融危機と経済難で中小企業が潰れてゆき、顧客の多くを失ったディヴィッドの収入も激減した。ジェニファーのパートタイムの准教授の給料はわずかであり、それをカバーするほどではない。支払いの請求書を無視しているうちに電気も止められ、家のローンを払えなくなりforeclosure(抵当流れ)せざるを得なくなった。

それだけではない。お金のことをすべて税理士の夫にまかせてきたジェニファーは、ディヴィッドが税金を何年も滞納してきたことを初めて知らされた。罰金を合わせると、何千万円の巨額だ。クレジットカードはすべて限度額まで使い果たしており、それを返済する方法も考えられない。

家を失った夫婦は、夫の親族が使っていないアパラチア山中の小屋に移ることにする。

誰も住んでいなかった小屋は、狭くて暗いだけでなく、ネズミや大きな蜘蛛が巣を作り、毒蛇も入り込んでくる。ディヴィッドはこの変化を楽しんでいるようだが、恵まれた中流階級の生活からの転落をジェニファーは受け入れがたく思う。ジェニファーは、この環境から逃げ出したくなる……。

 

アメリカの図書館は、近年出版社との提携で「Big Library Read」という全米規模のネット読書会を試みている。課題図書は電子書籍やオーディオブックの形で、自分がカードを持っている地元の図書館から待たずにタダで借りられる。4月2日から16日までの課題図書が、このFlat Broke with Two Goatsだ。

「こんなに多くの人にタダで貸してしまったら収入が減るではないか」と思う人がいるかもしれない。
だが、全米でネット読書会をすることで話題になり、それで注目されて、結果的にもっと売れる。無名の作家にとっては、非常に魅力的な無料マーケティングなのだ。

まず、本書のタイトルと表紙はなかなか上出来だと思う。
また、大学で英語(日本でいう国語)と作文を教えているだけあって、文章力もある。ネット読書会に参加している人の多くは、「面白い」「共感した」と感想を書いている。

しかし、この回想録に対しては「まあまあ良かった」という反応がほとんどない。好きか嫌いかのどちらかに別れるのだ。それは、作者の言動に対するものだろう。

私はどちらかというと「好きではない」派だ。

なぜかというと、作者があまりにも「アメリカの裕福な中流家庭で甘やかされて育ったリベラル白人」の典型だからだ。優しい家族に恵まれ、何の不自由もせずに育ったジェニファーは、結婚後も夫がすべて面倒をみてくれると思いこんでいた。そして、夫がそれを裏切った怒りをいつまでもひきずっている。

たしかにディヴィッドは税理士なんだからもっとちゃんとしていてほしいものだ。しかし、税金滞納はちゃんと通知が来るのだから「知らなかった」とは言えないと思う。経済的余裕がないのに子供を私立学校に行かせたのも、本当に子供のためなのか、見栄なのか、疑問に感じる。また、夫が彼女にお金の問題を語らなかったのは、自分に頼り切っている妻をがっかりさせたくなかったからではないか。読んでいると、そういう気がしてくる。

それ以外にも、ジェニファーの生半可な動物愛護者ぶりが鼻につく。
夫にドブネズミをなんとかするよう求めるのに、「殺すな」とも要求するのだ。
それに、借金を返す目処も立っていない経済状況なのに、ニワトリにオーガニックのヨーグルトを買って与えたりするのだ。

ニワトリだけならまだしも、まったく農業の経験がないのに、ミルクを得るために妊娠したヤギを買い、グーグルで検索して勉強しただけで出産まで自分でやろうとする。動物愛護者のくせに、ヤギにとっての「安全に出産する」ヤギ権問題は無視してよいのか?

それに、ヤギとニワトリに囲まれている現在の暮らしはヒルビリーに近いかもしれないが、文章の端々から「私は本当のヒルビリーじゃないのよ」という妙な優越感を感じる。

ひとつの失敗から学ばずに次から次へと思いつきだけの呆れた選択をする作者に、読者の私は疲弊してしまった。

でも、それは「作者に共感したい」と思って読んだ私が悪いのかもしれない。
距離を置いて、「いやはや、アメリカの高学歴ヒッピーはこれだから〜」と笑いとばすつもりで読めばよかったのだ。

それにしても、「ふつうの人」の回想録がよく出版され、よく売れるところが日本とアメリカの大きな違いだ。その違いを感じるためにも、読んで損はないかもしれない。

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