若者に愛と信頼の希望を与えてくれる心暖まる青春小説 Far From The Tree

作者:Robin Benway
ハードカバー: 384ページ
出版社: HarperTeen
ASIN: 0062330624
発売日: 2017/10/3
適正年齢:PG12(中学生以上)
難易度:中級+(文章は短くて簡潔。文法的には高校英語で十分理解できる。シチュエーションは理解しにくいかもしれない)
ジャンル:YA(ヤングアダルト)/青春小説
キーワード:
文芸賞:2018年全米図書賞受賞作

グレイス(Grace)、マヤ(Maya)、ホアキン(Joaquin)は、同じ母親から生まれたが、高校生になった現在まで自分に兄や姉妹がいたことを知らなかった。

グレイスとマヤは別々の家族に引き取られたのだが、最年長のホアキンは家族に引き取られずに「foster care(フォスターケア、公的機関が養育費を出す里親)」を転々としてきた。

3人が出会うきっかけは、グレイスだった。

グレイスは愛する両親に育てられた行儀が良い優等生だったが、16歳で妊娠して出産した。相手は1年つきあったボーイフレンドのマックスだったが、本人もマックスの両親も責任をグレイスだけに押し付けた。妊娠に気づいたときの胎児がピーチ(桃)の大きさだったことから、グレイスは胎児を「ピーチ」と呼び、養子ひきとりの希望者の中からピーチが最も良い人生を送ることができるような夫婦を選んだ。

ピーチが生まれたのは、高校の重要なダンスパーティである「ホームカミング」の夜だった。グレイスが出産しているときに、「ホームカミング」に新しいガールフレンドを連れて行ったマックスは、学校で最も人気がある男子の「ホームカミング・キング」に選ばれた。女の子を妊娠させた男の子は英雄視され、妊娠した女の子はslut(あばずれ)と呼ばれる。出産後に高校に戻ったグレイスを待ち構えていたのは、女子からの冷たい視線とマックスのチームメイトの男子からの嘲笑だった。

愛するがゆえにピーチを手放したグレイスは、自分の産みの母にも事情があったのではないかと思い、会ってみたいと思うようになった。そして、自分に兄と妹がいると知り、彼らに連絡を取ることにした。

マヤを引き取った夫婦はそれまで子供ができなかったのだが、引き取った直後に妻の妊娠がわかった。両親は養子のマヤも1つ年下の実の娘も同じように愛していたが、マヤは自分だけが実の家族ではないことを意識し続けてきた。
マヤの母はアルコール依存症であることを夫に隠してきたが、離婚が決まった後に状況が悪化して施設に入所することになる。

17歳のホアキンは、100%白人のグレイスやマヤとは異なり、肌の色が浅黒い。知らない人からはメキシコ人だと思われてスペイン語で話しかけられることもあり、ヒスパニック系の血が混じっていることは確かだった。白人の女の子の赤ん坊は養子としての人気が高く、引き取りたい夫婦は多い。だが、ヒスパニック系の男の子となると機会は少なくなる。ホアキンは、ホスターケアの家を転々として育った。現在ホスターケアをしている夫婦はホアキンを息子として引き取りたがっているが、過去のある出来事が心の傷になっているホアキンは、どうしても夫婦の愛情と親切を受け入れることができない。

グレイス、マヤ、ホアキンには、それぞれ身近に自分を愛して支えてくれる家族がいる。しかし、家族が与えてくれる「無償の愛」への憧れが強すぎるために、傷つく前に愛する人たちを押しやろうとしてしまう。その気持を理解し、支えてくれるのが、出会ったばかりの「実のきょうだい」だった。

アメリカの多くのYA(ヤングアダルト)小説は、深刻な学校や家族の問題を取り扱っている。病死や事故死、自殺をテーマにしたものも少なくない。
だが、それらを美化したようなものは、どんなにうまく描かれていても、あまり薦めたくない。というのは、YAのターゲット層は、フィクションがもたらす感情に感化されやすい年頃だからだ。

Far From The Treeは、深刻な問題の数々を取り扱っているが、全体に家族や友の愛を信じさせてくれる内容だ。他人を傷つけて平気な人たちもこの世界には存在する。彼らにがっかりすることもある。だが、自分が木から落ちたときに受け止めてくれる人もちゃんといる。

そう信じさせてくれる本はそう滅多にない。それをやってのけたこの小説をなるべく多くの人に教えてあげたい。

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