出版業界の常識を覆して「前例」を作った記念すべきYAファンタジーのベストセラー Children of Blood and Bone

作者:Tomi Adeyami
ハードカバー: 531ページ
出版社: Henry Holt Books for Young Readers
ISBN-10: 1250170974
ISBN-13: 978-1250170972
発売日: 2018/3/6
適正年齢:PG14(中高校生向け)
難易度:中級+(文法と文章構成はシンプル。創作単語や固有名詞が多く、そこで躓く可能性あり)
ジャンル:ファンタジー(YAファンタジー)
キーワード:アフリカの伝説、魔法、ロマンス、国政、抑圧
賞:数多くの新聞社の「2018年ベストYA」リストに入った

アメリカでは、映画でもそうだが、出版でも「主人公が白人ではないジャンル小説や大衆小説は売れない」という業界人の間の「常識」があった。主人公が有色人種の場合は、「移民体験」や「異国の文化」をテーマにした文芸小説という売り方がメインだった。

だが、映画『ブラックパンサー』が爆発的に売れたことで、映画界では「登場人物が黒人ばかりの映画はメインストリームとしてベストセラーになれない」という常識は覆された。そして、出版業界でもその常識を覆したのが、2018年ベストセラーの『Children of Blood and Bone』だ。これは、YAファンタジーのジャンルでありながら、大人の読者も魅了し、ジミー・ファロンの人気トーク番組で推薦書に取り上げられ、視聴者投票で1位になった。

Children of Blood and Boneは、「Lagacy of Orïsha」という(たぶん三部作になると思われる)シリーズの第一巻で、西アフリカの伝説にインスピレーションを得た魔法ファンタジーだ。

オリーシャ(Orïsha)国には、かつて魔法が存在した。神から魔力を与えられる者はマジ(maji)と呼ばれ、真っ白な髪を持って生まれる。主人公の少女ゼリー(Zélie)もその一人だが、彼女が子どものころに魔法を憎むオリーシャの国王が国中のマジを皆殺しし、魔法は消えた。ゼリーの母も、国王が送り込んだ兵士に惨殺された一人だった。子どもだったマジは殺害を逃れたが、一般の国民と同じ権利を持たず抑圧され、差別される存在になっていた。

国王の息子イナン(Inan)と娘アマリ(Amari)は、厳しく冷たい父から「何よりも国を優先する」ことを叩き込まれて育った。だが、父から認められるためには何でもするイナンとは異なり、アマリは心優しさを失うことができなかった。ある日、唯一の友人に対する父の残酷な仕打ちを目撃したアマリは、国に魔法が戻ってくる可能性がある重要な物を持って宮殿から逃亡した。

ゼリーは偶然の経緯でアマリと一緒に逃亡することになり、その2人をイナンが追い詰めていく……。

登場人物はすべて黒人なのだが、この世界にも髪が白いマジに対する「人種差別」は存在する。その不条理さは、白人がマジョリティとして歴史的にパワーを築いていたアメリカに存在する不条理と同じだ。その部分でも、読者はすんなりとメッセージを受け取ることができる。

だが、メッセージ性よりも、娯楽小説として面白いからこの本はベストセラーになったのだ。

ハリー・ポッター的な魔法学校もの、Twilightのようなバンパイアもの、The Hunger Gameのようなディストピアものは読者も飽きている。中世の国盗り物語のようなGame of Thronesの影響を受けたファンタジーも出尽くした感がある。そんなときに、アフリカ(この本の場合には西アフリカ)の伝説をベースにしたファンタジーというのは新鮮である。スピーディな展開であり、映画化できそうなセッティングも広い読者層にアピールしたと思われる。

作者のTomi Adeyamiの両親はナイジェリアからの移民で、Tomiはハーバード大で英文学を選考した後に西アフリカの神話学を学んだ。まだ25歳の若い女性であり、今後がとても楽しみだ。

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