ふつうの人間のふつうの愛と人生の偉大さを、静かに描く小説 Ask Again, Yes

作者:Mary Beth Keane
ペーパーバック: 400ページ
出版社: Scribner
ISBN-10: 1982129875
ISBN-13: 978-1982129873
発売日: 2019/5/28
適正年齢:PG15+
難易度:上級
ジャンル:現代文学
キーワード:家族関係、愛情、赦し、受容

アイルランドからの移民のフランシス・グリーソンとブライアン・スタンホープは、1970年代にNYPD(ニューヨーク警察)の新人警察官として出会った。その後は異なる部署で働いていたのだが、どちらも結婚し、偶然にも隣同士に住むことになった。フランシスの妻レナは隣に越してきた若い妻のアンと仲良くなろうとするが、じきにアンの性格に問題があることを察知する。

母親同士は口もきかない仲だったが、アンとブライアンの一人息子のピーターとフランシスとレナの末娘のケイトは、年齢が同じこともあって、毎日裏庭で一緒に過ごす親友になった。幼い時から両親の問題をひとりで抱えこんでいるピーターは、勉強も運動もできる優等生だったが、ケイト以外には打ち解けなかった。

互いに淡い恋心を感じはじめていた2人が中学校の卒業を目前にしたある夜、ドミノ倒し的に事件が起き、2つの家族を徹底的に引き裂いた。

ひとつの傷は新たな傷を作り出し、関わった人々すべての人生を破壊させそうだった。だが、ある者は過去を振り向かない決意で前進し、ある者は変貌してしまった人生を勇敢に受け入れ、ある者は愚かな失敗をおかしてから重要な何かを学び、ある者は傷と痛みを無視することで大きなツケを将来に持ち越す。そうやって、それぞれのやり方で人生に対処する。「幸せ」という大きな夢のことは追わずに……。

Keaneの新作Ask Again, Yesの中心にあるのは、ケイトとピーターのラブストーリーだが、恋愛部分はとても少ない。それよりも、彼らの両親を含む、ひとりひとりの「人生」についてのストーリーであり、それぞれが関わる集合体としての「家族」の物語だ。癒やしのストーリーでもあるが、とってつけたような「感動モノ」ではなく、ふつうの人たちが、ふつうに恨んだり、怒ったり、自分を責めたりしているうちに、「ああ、なるほど、この人にも、こういう理由があったのだな」といつの間にか受け入れている自分に気づく「癒やし」なのだ。想像しているときの「赦し」は手が届かないほど巨大だが、目の前に現れてみると、そんなに大きなものではないことに気づく登場人物たちが、とてもリアルに描かれている。

この小説では、愛も赦しも劇的ではない。でも、だからこそ、胸を揺すぶる。

ふつうの人間が送るふつうの人生は偉大なのだと、つくづく思わせてくれる小説だ。

2 thoughts on “ふつうの人間のふつうの愛と人生の偉大さを、静かに描く小説 Ask Again, Yes

  1. 1/4ほど読み終えました。まさにこのポストのタイトル通り、静かに物語が進みますね。派手さは全くないのに引き込まれてしまいます。こんなにハマりそうなのはPachinko 以来かも!

  2. 途中で中断しながら、時間をかけて読了しました(家にいる時間が長くなって、読み進められたのが良かったです笑)。どんなに悲惨なことがあって傷ついても、人間は強く進むことができる可能性がある、と思わせてくれた物語でした。また、どの登場人物にも事情があって、間違いを犯しながらも、このままではいけないと必死に生きている、それが身にしみるのが、ある程度人生経験を積んでからわかる読書の楽しみだとも思いました。最後のセリフは、いろんな経験を積んでないと味わえない!と個人的感想です。

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