高校最後の日に敵対していたライバルがようやく理解しあう…という2020年注目のYAロマンス Today Tonight Tomorrow

作者:Rachel Lynn Solomon
Hardcover : 384 pages
ISBN-10 : 1534440240
ISBN-13 : 978-1534440241
Publisher : Simon Pulse
発売日:July 28, 2020
適正年齢:PG15+(高校生向けのジャンルだが、性についての話題や描写あり)
難易度:上級(7/10)文章は難しくないが、アメリカの高校のシステム、英語のSNSなどに慣れていないと理解しにくいと思われる
ジャンル:YAロマンス/青春小説
キーワード:敵から恋人、ライバル、思春期、家族、友情、卒業

洋書のロマンスの定番に、Enemy to Loverというジャンルがある。古くはジェイン・オースティンのPride and Prejudice がそのパターンだ。今年の夏に刊行されたYA Rom-com(高校生対象のロマンチック・コメディ小説)のToday Tonight Tomorrowはあちこちで話題になっていて、読者の評価も高い。大統領選挙を控えて不穏なアメリカで現実逃避するのにはぴったりの小説だと思い、試してみた。シアトルに住む女子高校生のRowan Rothは、学業、生徒会、ボランティアなど全てにおいてずば抜けて優秀な優等生だ。高校4年を通じての最大のライバルNeil McNairがRowanの達成を邪魔し続けてきたが、Rowanは最後の最後に「valedictorian(日本の高校にはないシステムなので、『卒業生代業』と翻訳されているが、高校をトップの成績で卒業する者に送られる称号)」になることでやり返そうと思っていた。

ところが、高校最後の日は、Rowanの思い通りにはいかなかった。それだけではない。高校生になった14歳のときに作った理想の目標リストを読み返すと、何一つ達成していなかったのである。

しかし、それを挽回する最後の機会がまだ残されていた。それは、後輩たちが計画し、卒業生が行う『Howl』という壮大なゲームだ。卒業生たちは、それぞれに暗殺リストを渡され、そのリストにある別の卒業生からバンダナを奪い取ることで「暗殺」する。暗殺された者はゲームを脱落し、生き残った者は、シアトル中を駆け回って後輩たちから与えられた難問を解く、というものだ。勝者には5000ドル(約50万円)の報酬もある。

RowanはNeilを「敵」として憎み続けてきたが、ゲームに勝つために最後の部分までNeilとチームを組むことを提案した。チームメイトとして一緒に過ごすうちに、2人はライバルの隠れた姿を知り、これまでとは異なる感情を抱くようになる……。

設定は面白いし、シアトルを駆け回るところは観光のようで楽しい。けれども、私の感想はマジョリティの読者とは異なる。Neilのキャラクターには好感が抱けるが、残念なことに主人公のRowanに感情移入できない。何十年も生きてきた大人が女子高校生と同じ考え方をするわけはないし、それは承知しているが、私が高校生の時に読んだとしても共感できなかったと思うのだ。RowanとNeilが、この学校では数少ないユダヤ系というところをRowanは何度も強調しているが、彼女の嫌な体験など、この国で多くのマイノリティの子どもが体験する差別に比べたら擦り傷程度だ。何よりもがっかりしたのは、ロマンチック・コメディなのにつまらなくて、他の本に浮気ばかりしていて読み終えるのに数日もかかったことだ。

この本で唯一良かったのはNeilの最も好きな言葉が「積ん読(tsundoku)」だったことくらいだが、これは少数派である私の感想にすぎない。アメリカでは特に高校時代をノスタルジックに振り返る大人の女性が高評価をしているようだから、体験の差が出ているのかもしれない。日本の高校にはないシステムや恋愛への割り切り方、卒業生が行うゲーム(娘の学校にも異なるものがあった)とかは興味深いと思うので、それを楽しみたい方にはおすすめ。

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