美しい悪夢のようなミニチュア宗教世界の聖人 Piranesi

作者:Susanna Clarke (Jonathan Strange and Mr Norrell の作者)
発売日 : 2020/9/15
ハードカバー : 272ページ
ISBN-10 : 1526622424
ISBN-13 : 978-1526622426
出版社 : Bloomsbury Publishing PLC 
適正年齢:PG 12(大人向けのファンタジーだが中学生でもOK)
難易度:8/10(文章はシンプルだけれど、何が起こっているのかを理解するためには英語力も読解力も必要)
ジャンル:ファンタジー
キーワード:古代宗教、カルト、ラビリンス(迷路)、閉じた世界、ジョヴァンニ・バティスタ・ピラネージ

Piranesiは、廊下が永遠に続く迷路のような建物の世界に住んでいる。その建物の下の階には海が閉じ込められ、上階には雲が立ち込める。閉じ込められた海はときおり洪水を引き起こす。この世界には鳥と魚はたくさん住んでいるが、生きている人間はPiranesiと”The Other”と彼が呼ぶ男だけだ。The Otherは、週に2回だけPiranesiを訪問するが、彼に調査の依頼をするだけで1時間以内しかとどまらない。これまでに人間が住んでいたことはあるようで、Piranesiは13人ぶんの骨を見つけた。この世界の人間は15人だけだということになる。でも、Piranesiの日常では、それぞれの部屋に立っている巨大な彫像と鳥たちだけが友である。

だが、この世界に15人以上の人間がいるらしいことがわかった。The Otherはその「16」は危険だと言って接触を禁じる。16を避けることを誓ったPiranesiだが、そこに16ではない老人のProphetが現れ、彼は自分とこの世界に疑問を抱く。そして、過去の自分の日記から情報を得ようとする……。

Susanna Clarkeは、かなり有名なSFであるJonathan Strange and Mr Norrellの作者だ(このブログにはレビューを書いていないが、拙著『ジャンル別 洋書ベスト500』で紹介している)。Jonathan…が1000ページを超える大作だったのに比べて300ページ以内だということには正直ほっとした。短いこともあり、前情報なしに読んでみた。

最初のうちは何が起こっているのかよくわからない。Piranesiという35歳くらいの男が美術館か宮殿のような場所に住んでいることはわかるのだが、その場所に海があり、雲が立ち込めるというのは不可思議だ。古代宗教の世界のようでもあるが、そこを訪れるThe Otherは現代人であり、しかも世俗的だ。Piranesiはいったい誰であり、なぜここにいるのか? いったいこの世界は何なのか? その疑問を抱いたままで、読者はPiranesiの視点でこの世界を彷徨うしかない。

後で知ったことだが、The Otherが名前をつけたPiranesiは、18世紀イタリアの画家で建築家のGiovanni Battista Piranesi(ジョヴァンニ・バティスタ・ピラネージ)が由来らしい。

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ジョヴァンニ・バティスタ・ピラネージのエッチング。ラビリンスの牢獄

このファンタジーの作者クラークは、ピラネージが描いたラビリンスの牢獄の絵を初めて見たときからそのイメージに取り憑かれ、それがこのファンタジーになったということだ。彼女の頭の中でのPiranesiがあまりにもリアルになったために、この作品が発売されたときのPiranesiの気持ちが心配になったほどだと言う。私も、読書中にかなりこの世界にはまりこんでしまったが、そこがこのファンタジーの持つパワーと言えるだろう。

 

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