2020にアメリカで話題になった日本の文学作品リスト

日米に限らず、すべての人の平等を目標とする「ポリティカル・コレクトネス」を敵視する人は少なくない。自分が住んでいる社会でマジョリティの立場にいる人は、マジョリティとして看過されてきた言動が制限されることに不快感や恐れを感じるのだろう。「自分には無関係のことだ」と思っている人もいるだろう。しかし、ポリティカル・コレクトネスは、それらの人々が想像していない場所で、それらの人々の文化や生活を豊かにしているのだ。

たとえば、アメリカの出版業界も、最近の社会の動向を反映して、黒人作家の作品が売れるようになり、海外からの翻訳文学への評価も高くなっている。何よりも、それらを特別視せずに、英語で書かれた作品と同等に扱い、好んで読む読者が増えているのを感じる。日本人作家の作品もそのひとつだ。私が若かった頃でも日本人作家の翻訳作品は海外で読まれていた。だが、そこには「異国への物珍しさ」が中心で、英語で書かれた作品と同等に扱われることはなかった。当時と2020年の違いは、翻訳作品も英語で書かれた文学作品と同様に読まれていることだ。

また、これまでアメリカで話題になる日本人の作品というと、村上春樹が中心だった。「Haruki Murakamiが好きなので、同じような作品を教えてほしい」と言われたこともある。だが、最近になって村上春樹以外の日本人作家の名前をよく見かけるようになった。そして、それらが全米図書賞や大手メディアの「今年のベスト10作品」のリストに入るようにもなった。

どういった作品がアメリカ人に評価されているのか興味があるだろう。そこで、2020年にアメリカで話題になった日本人作家の作品をざっとリストアップしてみた。翻訳作品では、翻訳者の技量が非常に重要である。外国で注目され、ベストセラーになっている翻訳作品には、背後に翻訳者の類まれなる才能と努力がある。そこで、すべての作品で、作者と翻訳者の名前を英語で表記した。

Tokyo Ueno Station


作者:Yu Miri
翻訳者:Morgan Giles
賞など:全米図書賞 翻訳小説部門 受賞作(Winner, National Book Awards 2020 for Translated Literature) / New York Times 100 Notable Books of 2020
Goodreadsの読者評価:3.63(5星評価)
全米図書賞の翻訳小説部門の受賞作ということもあって、2020年にアメリカで最も注目された日本人作家の作品と言えるかもしれない。翻訳された文章の美しさを評価する人は多いが、平均読者評価があまり高くないのは、ページ数が少ないのに繰り返しが多く、「物足りない」と感じた人が少なからずいたからのようだ。これは、村田沙耶香の『コンビニ人間』がアメリカで発売されたときの読者の反応とも共通している。

Where the Wild Ladies Are


作者:Aoko Matsuda
翻訳者:Polly Barton
賞など:TIME誌 Best Fiction Books of 2020
Goodreadsの読者評価:3.99
パンデミックで暗いアメリカ社会で、松田青子のぶっとんだユーモアは特に楽しめたようだ。
しかし、「軽すぎて、何を伝えたいのかわからない」と感じた読者もいるようだ。それでも、今年話題になった日本文学の中では、最も高い読者評価を得ている。

Breasts and Eggs


作者:Mieko Kawakami
翻訳者:Sam Bett/David Boyd
賞など:TIME誌 Best Fiction Books of 2020  / New York Times 100 Notable Books of 2020
Goodreadsの読者評価:3.91
多くの読者が「日本文学は好きだが、感情移入(connect)できない」と評している。それはもしかすると、日米で女性が接する社会がかなり異なるからかもしれない。また、翻訳者がどちらも男性だということにもやや疑問を感じた。女性の翻訳者のほうが読者にニュアンスを伝えられたかもしれないと思うと残念な気がする。

The Aosawa Murders


作者:Riku Onda
翻訳者:Alison Watts
賞など:New York Times 100 Notable Books of 2020
Goodreadsの読者評価:3.69
英語圏のミステリとは構造が異なるために、そこを魅力だと感じる読者と、「ぼんやりしていて、クリアではない」とフラストレーションを覚える読者がいるようだ。そこで読者の平均評価が低くなっている。これは、翻訳作品がよく直面する問題のひとつ。

Earthlings


作者:Sayaka Murata
翻訳者:Ginny Tapley
賞など:New York Times 100 Notable Books of 2020
Goodreadsの読者評価:3.68
『コンビニ人間』のときもそうだったが、日本文学独自の奇妙さに惹かれる読者はいるものの、いまひとつ「文学」としての説得力のなさにがっかりする読者は少なくない。ゆえに話題になるものの、読者の平均評価は高くない。

The Memory Police(2019年刊行)


作者:Yoko Ogawa
翻訳者:Stephen Snyder
賞など:World Fantasy Award Nominee for Best Novel (2020), BTBA Best Translated Book Award Nominee for Fiction Longlist (2020), National Book Award Finalist for Translated Literature (2019), International Booker Prize Nominee for Shortlist (2020)
Goodreadsの読者評価:3.75
文章の質の高さから英語圏で根強いファンが多い作家。ただし、この作品よりも『博士が愛した数式』のほうが評価されているきらいはある。

●オマケ:英語圏で静かにファンを増やし続けているミステリ作家

The Devotion of Suspect X


作者:Keigo Higashino
翻訳者:Alexander O. Smith
賞など:Barry Award Nominee for Best First Novel (2012)
Goodreadsの読者評価:4.13
2011年にアメリカで発売された作品だが、これにより東野圭吾に注目する読者ができ、彼の作品を選んで読むファンが固着した。プロットだけでなく、海外の読者にも興味を持ってもらえる人物像を描ききれているところが、5つ星評価で4.13という高い平均点を得ている理由。

他にもミステリ作家では、桐野夏生、湊かなえ、中村文則などの作品とファンを見かけるが、しっかり根付いているのは東野圭吾だという印象が強い。

1 thought on “2020にアメリカで話題になった日本の文学作品リスト”

  1. 『JR上野駅公園口』を日本語で読んでいますが、この文章をどうすれば、英語圏の文学賞を取れるレベルに翻訳できるのか…と驚愕!していたところでした。私たちは日頃、日本語に翻訳された外国文学を、手軽に読めて感動をもらえていますが、それは素晴らしい翻訳者の方たちのお陰なんですよね。本当に有難いことだと思います。また、日本の文学作品がこれからもたくさん翻訳されて、日本文化や社会について(良いことも問題点も含めて)、世界の人たちに知ってもらえると良いなと思います。

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