アジア系アメリカ人にとってのハリウッドの「ホワイトウォッシュ」の捉え方が理解できるようになる2020年全米図書賞受賞作 Interior Chinatown

作者:Charles Yu
Hardcover : 288 pages
ISBN-10 : 0307907198
ISBN-13 : 978-0307907196
Publisher : Pantheon
発売日:January 28, 2020
適正年齢:PG15
難易度:8/10
ジャンル:文芸小説
キーワード/テーマ:アジア系アメリカ人、アジア系移民、ホワイトウォッシュ、映画業界
文芸賞:2020年全米図書賞受賞作

これまで何度かハリウッドの白人偏重「ホワイトウォッシュ」について書いてきたが、そのたびに、日本の読者から「そういった風に捉えるほうがおかしい」という反応があった。アジア系の「ホワイトウォッシュ」に関しては、日本で生まれ育った私よりも、アメリカで育った日米ミックスの娘のほうが敏感だが、日本でマジョリティとして暮らしている日本人には理解しにくい感覚なのだと思う。

アジア系アメリカ人のフラストレーションをしみじみと理解させてくれるのが、2020年全米図書賞を受賞したCharles YuのInterior Chinatownだ。

Interior Chinatownは小説なのだが、脚本のようなスタイルを取っている。そのために、劇中劇のような感じになっている。

チャイナタウンのGolden Palaceレストランは、警察ドラマ『Black and White』の舞台であり、中国移民が上階に住む居住地でもある。中国系二世のWillis Wuは、いつかカンフーをやる俳優として成功することを夢見ているが、ドラマで与えられる役は、「シーンの背後にいる東洋人」とか「死んだアジア人」「一般的なアジア系の男1」「一般的なアジア系の男2」といった具合だ。その梯子を登って台詞がある役についても、番組でいったん殺されたら45日間は仕事ができない規則になっている。アジア系はどうせ同じに見えるのだが、それでも死んだ人間がすぐに現れると気づく視聴者がいるかもしれないからだ。Wuの父母もかつては同じように俳優をやってきたが、貧困からは逃れていない。

アメリカで生まれ育ったWuには英語に訛りなどないのだが、ハリウッドがアジア人に求めるステレオタイプに応じないと仕事がもらえない。そこで、変な中国訛りができることがスキルのひとつになっている。だが、ハリウッドが求める「一般的アジア人の男」を演じているうちに、Wuの日常とテレビ番組とが混じり合い、アイデンティティが失われていく……。

中国人がアメリカ大陸に来始めたのは1850年ごろのことだった。ゴールドラッシュと鉄道の安い労働力として重宝されたが、「仕事を奪う」と敵視され、1882年には中国人の移住を禁じる法律もできた。そんな差別を受けてきたが、中国系アメリカ人は200年近くこの国に存在する。第二次世界大戦で敵国だったドイツ人移民がすぐに「アメリカ人」として受け入れられたというのに、それより長くここに住んでいるアジア系はいまだに白人だけでなく、黒人からも「外国人」扱いされている。マイノリティの中ではアジア系はときおり「名誉白人」のように扱われ、他の人種マイノリティに対して「なぜアジア系のように真面目に努力して成功しないのか?」と引き合いに出される。でも、その背後には、まぎれもない偏見と差別がある。そして、他の人種から「自分の国に帰れ!」とツバを吐きかけられたりするのもアジア系だ。Interior Chinatownは、そんなアジア系アメリカ人の憂鬱を、少し風変わりなユーモアのセンスを交えて描いている。

作者のCharles Yuは、カリフォルニア大学バークレー校で分子細胞生物学を学び、コロンビア大学の法学大学院で法学博士号を取得して弁護士になった。ここまでは、アジア系移民の子孫のステレオタイプのような学歴とキャリアだが、弁護士を辞めて作家とテレビドラマのライターになったというのはステレオタイプに反している。こういったキャリアがあるからこそ、アジア系アメリカ人の心境を、少し離れた場所から描くことができるのだろう。

全米図書賞というのは小さな賞でしかないが、それでもこの賞の受賞作品になったことで、興味を抱く読者は増えたことだろう。ふだん他のアメリカ人から忘れられがちなアジア系とアジア系の作品が注目されるきっかけになれば嬉しい。

 

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