中国系アメリカ人作家による壮大なファンタジー三部作 Drowning Empire trilogy のスタート The Bone Shard Daughter

作者:Andrea Stewart
シリーズ名:Drowning Empire Trilogy
Publisher : Orbit
発売日:September 8, 2020
Hardcover : 448 pages
ISBN-10 : 0316541427
ISBN-13 : 978-0316541428
適正年齢:PG12(バイオレンスはややあるが、性的描写などはない)
難易度:8(登場人物が多く、全体像を把握しにくい。ページ数が多い)
ジャンル:ファンタジー(ハイファンタジー)
キーワード/テーマ:群島で作られている帝国、独裁政権、骨を使った魔法、革命、謀反、ラブストーリー、アジアの文化

Linはフェニックス帝国の帝王のひとり娘で継嗣のはずだった。だが、病で記憶を失ったLinに父は「お前は壊れている」と言い、養子の息子Bayanのほうを贔屓にしている。帝王による独裁政権を可能にしているのはBone Shard Magicという骨のかけらを使った魔法だ。この魔法の技を持つのは帝王だけであり、それを学んだ者が後継者になる。この魔法は他人を容易に支配できるので、魔法を知るライバルを生かしておくのは危険だ。ゆえに、2人のうち1人だけしか生き残ることができないのは明らかだ。帝王は「報奨」として秘密の部屋の鍵を渡すことでLinとBayanのライバル心を煽る。記憶を取り戻せないLinは勝つために鍵を盗んで秘密の部屋を開けていく。

PhalueはNephilanu島の知事の娘だ。貧困街で育った美しい女性Ranamiを愛し、何度も結婚を申し込むが断られている。実はRanamiは革命で帝国を民主化しようと企む活動グループに関わっていた。父である知事の治め方に以前から疑問を抱いていたPhalueは、自分が知事になったら社会改革をするつもりでいたのだが、革命を狙うグループは根本的で急進的な改革を求めている。知事としては失格だが心優しい父を愛しているPhalueは、愛するRanamiと父の間で悩む。

Jovisは帝国で最も有名な密輸人だ。帝国とマフィアの両方から追われているが、嘘をつく優れた才能でうまく逃げ続けていた。島と島との間を行き来して密輸品を売買しているのは、誘拐された妻のEmahlaを探すためだ。帝国では、人があるときこつ然と姿を消す事件がよくあった。その後には支払いとしての銀貨が残されている。Emahlaの場合もそうだった。子供の頃からEmahlaと一緒に育って一生を共にすると誓ったJovisは、消えた妻を探して救い出すことも誓った。妻が姿を消して7年経ったころ、帝国に子供の骨を提供する儀式から子供をさらって別の島の親戚のところに逃がすよう依頼された。人身の密輸はしない主義のJovisだが、断りきれなくて子供を救うことになる。子供は救うことができたが、その時に島そのものが沈んでしまった。沈む島から離れようとしていたJovisは、必死で泳いでいる動物を救ってやる。子猫のように見えるが猫ではない動物がやってきてからJovisは異常に強い力を持つようになり、伝説の存在になっていく。

帝国の最端にあるMaila島に住んでいるSandには記憶がない。マンゴーを摘んでいる最中に木から落ちて頭を打ったSandは、記憶に霧がかかって隠されていることに気づく。自分はここに来るまで何者かだったのだ。Sandは自分の周りにいる者に声をかけて記憶の霧を晴らしていき、自分たちと同じような者を連れてくる船を奪って逃げることを計画する。

デビュー作家Andrea Stewartの両親は中国からの移民ということで、彼女が作り上げたフェニックス帝国には中国の雰囲気が少しある。移民の子供だけれども、両親の祖国の大きさを引き継いだような世界を作り上げたのかもしれない。この複雑な世界が少しずつ明らかになっていくのも読んでいてワクワクするところだ。

帝王は、恐ろしい敵からフェニックス帝国を守れるのはBone Shard Magicとそれを駆使できる者だけだと信じている。それが恐怖政治に近い独裁政権を正当化する理由だ。いつその敵が戻ってくるかわからないから気を緩めることはできないというパラノイアもあるようだが、帝王は国民のための政治には興味がない。彼が没頭しているのはBone Shard Magicの実験だ。このBone Shard Magicが三部作の中心にあるので詳しいことは書けないのだが、子供の頃に骨の欠片を取ることで国民全員をカタログ化し、同時にその欠片で魔法の化け物を作って人々を支配するというところ、そして帝王が秘密裏に行っている実験など、本当によく構成されたハイファンタジーだ。

第一巻では、Lin, Phalue, Jovis, Sandという4人の視点で進行する。それぞれに重要なのだが、個性が際立っているのはLinとJovisだ。読んでいて一番楽しいのもJovisの部分だ。謎の動物のMephiとのやりとりだけでなく、消えた妻への一途な愛も泣けてくる。最後まで読むと、「ああ、こういうことだったのか」とわかるヒントがたくさんある。

正しい動機で始まった革命が腐敗した政権を倒しても、その後帝国を治めるところで失敗する。また革命のリーダーには別の個人的なアジェンダがあることも多い。革命や革命のリーダーに対して懐疑的なJovisは、たぶん作者に近い存在なのだろうと感じる。すべての者に立場があり、純粋な善や悪はなかなかないものだ。作者がそれを理解したうえで作っていることがわかる世界であり、ページ数は多いのだが、読んでいてすべての部分が面白い。

オーディオブックで借りていたのだが、あまりにも面白かったので、途中でオーディオブックとキンドル版の両方を書い、借りていた本は図書館に返した。第2巻が出たら即座に両方を買って読むつもりだ。

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