少々期待はずれだったベストセラー歴史小説 The Lost Apothecary

作者:Sarah Penner
Publisher : Park Row; Original edition
発売日:March 2, 2021
Hardcover : 320 pages
ISBN-10 : 0778311015
ISBN-13 : 978-0778311010
適正年齢:一般(PG14)
難易度:7
ジャンル:歴史小説(マジカルリアリズム、ファンタジー)
テーマ/キーワード:apothecary(薬剤師)、植物薬、毒、18世紀ロンドン、魔術、魔女

18世紀のロンドン。母から受け継いだapothecary shop(植物薬を調合する薬屋)を経営するNellaには秘密の副業があった。表向きの薬屋の壁の向こう側にある秘密の店を訪れるのは、夫や兄によって虐待されたり、抑圧されたりしている女たちだ。女たちはNellaが特別に処方した毒を使って男たちを暗殺していた。それが明るみに出たら、Nellaだけでなく、依頼した女たちも絞首刑になる。だから誰も秘密を明かさなかったのだが、ある依頼主の使用人の12歳の少女のミスですべての者が危機にさらされるようになる。

現在のアメリカ、オハイオ州に住むCarolineは、かつて英国に留学して歴史を研究する夢を持っていた。けれども結婚相手に説得されて兼業主婦になっていた。結婚10周年記念でロンドン旅行を計画していたのだが、その寸前に夫の浮気が発覚し、Carolineはひとりでロンドンを訪問した。そこで偶然に見つけたボトルから、Carolineは200年前に起こった未解決の殺人事件にのめりこんでいく……。

この小説は2021年刊行の注目のデビュー作だ。多くのメディアが取り上げているし、ハードカバーの売上でもベストセラーリストの上位に入っている。そこでとても期待して読んだのだが、正直言って期待はずれだった。

2つの異なる時間帯で関連ある物語が進行する手法はよく使われているし、私が好きなタイプだ。けれども、この小説に限って言えば、現在のcarolineの部分はないほうが良かった。そもそも、歴史研究家が数え切れないほどいて発掘も行われているロンドンで、アメリカから観光でやってきた素人が数日間で画期的な歴史的発見をするという設定はフィクションでも信ぴょう性がない。過去のNellaの亡霊の導きだとしても、Carolineがそれに値するキャラクターとは思えなかった。

Nellaの部分のほうが興味深いのだが、ここにも問題を感じた。200年前のイギリスでは、自分で財産を所有する権利がない女性は男性によって人生を牛耳られていた。Nellaはそれらの女性を解放するために毒を提供したわけだが、そのあたり女性読者の私にも説得力がなかった。子供がいないNellaが感情移入する12歳の少女にしても、いまひとつ人物像が浮かび上がってこない。説明不足のままで多くのことが起こって終わる。2人の「その後」を匂わせる最後の章も、説明不足であると同時に不要な付け足しに感じる微妙さだ。

この小説がこれほど売れているのは、表紙が美しいので表紙買いをしているからかもしれない。ふだんこの手のファンタジーを読まない「女性小説」の読者が手にとっているからかもしれない。でも、なぜこの内容に満足してしまうのだろう? 私にとっては、この小説のテーマになっている謎よりもそこが謎である。

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