愛する者を失ったことで再び繋がる家族の切なくて、可笑しくて、心温まる小説 The Guncle

作者:Steven Rowley (Lily and the Octopusの作者)
Publisher : G.P. Putnam’s Sons
刊行日:May 25, 2021
Hardcover : 336 pages
ISBN-10 : 0525542280
ISBN-13 : 978-0525542285
適正年齢:PG15
読みやすさ:7
ジャンル:現代小説
キーワード/テーマ:愛する者を失う悲しみ、家族の絆、人生の再出発、LGBTQ、心温まる小説

テレビドラマで全米に顔と名前が知られている俳優のPatrickは、交通事故で最愛の恋人を失ってから心理的な壁を作っていた。そして、自分のエージェントから性的なハラスメント行為をされたのをきっかけにLAを離れてパームスプリングスで隠居のような生活をしていた。

Patrickにとって、Saraは大学時代から一番大切にしていた親友だった。ニューヨークに住んでいる頃にはルームメイトでもあったのに、Patrickに恋人ができてからアパートを留守にしがちになり、俳優の仕事でLAに移動してから以前のような親密な関係を維持することができなくなっていた。Saraがコネチカット州で弁護士をしているPatrickの弟Gregと結婚したことも2人の間の心理的距離を広めることになった。いつかその距離を縮められるつもりでいたのに、Saraが癌で死んでしまい、それは叶わぬことになった。

静かに自己憐憫にひたっていたPatrickだが、Gregから思いがけないことを頼まれる。妻の闘病の心理的ストレスで薬物依存症になったGregは、子供の面倒をみられるようになるために薬物依存症のためのリハビリ施設に入所することに決めた。その間、姪のMaisieと甥のGrantの面倒をみてほしいというのだ。PatrickとGregには結婚している姉がいるのだが、GregはPatrickにやってほしいと言う。

Patrickはふだん子供とは交流がないので、母の死と父親の不在で精神的な打撃を受けている姪と甥の扱いに戸惑う。子供たちのほうも、自分たちの周囲にいる大人とはまったく異なる「GUP(Gay Uncle Patrick、ゲイのパトリックおじさんの略称)」にはそう簡単に慣れようとしない。「自分にはこんな大役はできない」と諦めたくなるPatrickだが、そのうちに3人とも一緒に生活するリズムを得ていく……。

主要人物の全員がとても大切な人を失った悲しみに圧倒されそうになっているのだが、Patrickと子供たちのやり取りの部分は笑いに満ちている。Patrickを無視していた子供たちがGUPを受け入れるようになるきっかけがウォシュレットだというのも日本人読者には楽しい部分だろう。イッセイ・ミヤケのTシャツや高島屋で買った壺などがPatrickの生活を表す効果的な小物として使われているのも面白かった。

テレビで有名になったPatrickと、テレビよりYouTubeのほうを尊重している姪たちのやり取りにもニヤリとする。

笑いながらも、涙せずにはいられない心温まる小説である。

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