木が対話することを発見し、「マザーツリー」の概念を広めたパイオニアの女性科学者スザンヌ・シマードの回想録 Finding the Mother Tree

作者:Suzanne Simard
Publisher ‏ : ‎ Knopf
刊行日:May 4, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 368 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 052565609X
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0525656098
適正年齢:一般(PG15)
読みやすさ:7
ジャンル:ノンフィクション、回想録
キーワード、テーマ:forestry(林学、森林管理)、Mother Tree、女性科学者、森林伐採、forest ecology,エコシステム、エコロジー、環境問題

「マザーツリー(Mother Tree)」という言葉を知らなくても、どこかで見たことがある人はいると思う。 マザーツリーとは森の中で最も大きな木のことで、その木は森の中にすべての木や植物とコミュニケーションをとっている。映画の『アバター』でそのコンセプトを知った人もいるかもしれない。映画『アバター』にも影響を与えたこのコンセプトを世界に広く知らしめたThe Mother Projectのことを耳にした人もいるかもしれない。浅く広く知られているために、あまり良く知らない人は、2021年に刊行されたSuzanne Simardの本のタイトルを読んで「そんな誰でも知っていることを今さら書くのか?」と馬鹿にするかもしれない。だが、このコンセプトを見出し、世界中に広めたのは女性科学者のSuzanne Simardであり、The Mother Projectを始めたのも彼女なのだ。多くの人は、それを知らない。

現在60歳くらいだと思われるSimardの家族はカナダのブリティッシュ・コロンビアで代々森林伐採に従事していた。大家族一緒に森でキャンプをするのが娯楽である子供時代を送ったSimardにとって、ハイキング中に熊に出くわして木に登って逃れるような体験も稀ではなかった。森に育てられたようなSimardにとって、木は伐採を生業にする家族の生活の糧であり、自分が愛する森の重要な要素でもあった。SimardがBritish Columbia Ministry of Forest(ブリティッシュ・コロンビアの林野庁)でリサーチ・サイエンティストとして働いたとき、何百年も生きてきた大木を含めて無差別的にすべての木を伐採して最も安易な方法で苗木を植える(当時の)方針に疑問を覚えた。新たに植えた木が脆弱であることに気づいたSimardは調査を進めていき、菌根のネットワークがあることを見出した。そして、異なる種の木(ダグラスファーと樺の木)の間でカーボンのやり取りがあることも発見した。また、何百年も生きている森で最も大きなマザーツリーは、自分の家族である幼い木が育ちやすい環境も作る。同じコミュニティの他の種も助けるが、自分の家族である同種を優遇するのである。

現在の森林管理の基本になっている重要な発見の数々なのだが、Simardがこれらの発見をして発表したときにはブリティッシュ・コロンビアの林野庁だけでなく、同業の学者たちから敵意をもって扱われたのである。林業と林学は特に男性中心の専門領域だったこともあるだろう。Simardは強い抵抗と攻撃にあい、ブリティッシュ・コロンビア大学に転職してアカデミアの道を進んだ。都市に住みたくない夫が幼い娘2人と地方に残ったために、Simardは大学でフルタイムで教えながら週末には離れた場所に住む家族に会うために片道9時間のドライブをしなければならなかった。疲弊した夫婦は争うことも多くなり、結果的に2人は離婚した。女性科学者が社会を大きく変える達成をするときには、背後にこういった犠牲があることが多い。それに気付かされる実話でもある。

 

私は森にでかけて植物やキノコを観察したり、野生のベリー摘みをするのが趣味だ。近所の森だけでなく、訪問する異国の森でのエコシステムの違いを観察するもの好きだ。だから、発見の喜びに満ちたSimardの子供時代の逸話や調査の詳細を読んでいて胸が踊った。森でベリーを見つけるときの私の直感につながっているのが菌根ネットワークなので、それも面白かった。

また、2018年のピューリッツァー賞の文芸小説賞を受賞したThe Overstoryの登場人物がSimardをモデルにしていることでも知られている。

 

作者自身が読んでいるオーディオブックは、彼女の人となりが伝わってくるようで好感が抱ける。私はハードカバーも買ったのだが、こちらは写真が掲載されているので状況を想像しやすくなる。どちらでも、気が向く媒体であれば同じように楽しめることだろう。

 

SimardのTEDトーク

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