アジア系アメリカ人特有の家族と料理と恋愛関係をテーマにしたロマンチック・コメディ(ロムコム) So We Meet Again

作者:Suzanne Park
Publisher ‏ : ‎ Avon
刊行日:August 3, 2021
Paperback ‏ : ‎ 368 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0062990713
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0062990716
適正年齢:高校生以上
セックスシーン描写レベル最新コンテンツ!):クリーン
読みやすさ:6
ジャンル:ロマンス小説(ロムコム)
キーワード:コリアン系アメリカ人、コリアン系アメリカ人コミュニティ、コリアン料理、ライバル、敵から恋人に(enemy to love)、ビジネスと成功

多くの移民は、母国とは異なる社会で自分が住みやすい環境を作るために母国(あるいはヘリテージ)が同じ者同士で集まってコミュニティを作る傾向がある。世界中にあるチャイナタウンや、ボストンのリトルイタリー(イタリア移民のコミュニティ)がその例だ。同じ宗教施設に属し、祖国の祝日を一緒に祝う傾向もある。助け合うためには素晴らしいコミュニティなのだが、それが同調圧力や競争のプレッシャーにもなっている。

私はわざとそういった集団を避けてきたので日本人コミュニティのことはよく知らないのだが、娘の学校での付き合いや競泳のチームメイトを通じて他のアジア系コミュニティの問題を目撃してきた。アジア系コミュニティの最大の問題は、子供を通じて親が競争をすることだ。わが家では「テストの点数を他人と比べるな」と娘に言い聞かせていたし、私自身が娘にたずねることがなかった。ところが、私がいない場で小学生だった娘から共通テストの点数を聞き出し、それより低かった自分の娘を叱った親がいて憤慨し、その親に「子供たちを比べないでください」とお願いしたことがある。そうしたら、そのお母さんは謝るどころか「競争したほうが、両方とも賢くなる」と私に説教しはじめたのである。

こういうことがあって私はなるべくアジア系コミュニティを避けていたのだが、互いの子供を競争してよく険悪な雰囲気になっているお母さんたちが競泳大会で一緒に座っているのを目撃してコミュニティの複雑さを感じていた。そのうちの一人は「私たちの間ではお互いに知らないことはない。夫婦が離婚するときにも、当の本人たちより先に全員が知っている」と笑いながら話してくれたが、ジョークというよりホラーに感じた。こういう環境で育つ子供に心理的影響がないとは言えないだろうとも。

導入が長くなったが、このロムコム(ロマンチック・コメディ)は、そういったアジア系(ここではコリアン系)のコミュニティで育った若者2人が主人公である。

29歳のJessie Kimは大学で経済学を学び、ウォール街で金融アナリストとして働いていた。コネで就職し、口先ばかりでいい加減な仕事しかしない白人男性が優遇されていても、それ以上に働くことで出世すると信じていた。ところが、会社が効率を上げるために人員削減をすることになり、公の場で「君にはリーダーシップがない」と解雇されてしまった。公的にいきなり解雇されたために次の就職口がないし、無職の者が住むにはニューヨークは高すぎる。Jessieは仕方なくテネシー州の親の家に戻ることにした。

Jessieは母親の友人たちからあれこれ質問されるだけでも苦痛なのに、アジア系食料品店で子供時代の敵に再会してしまった。コリアン系の教会の牧師の息子であるDaniel Choiは、学校の成績で競争相手だっただけでなく、Jessieをいじめてきた少年だった。途中でテキサスに引っ越したので安心していたのに、大人になったDanielはハンサムでしかもシリコンバレーの弁護士として成功しているらしい。JessieはDanielを徹底的に避けることにしたが、このコミュニティではそう簡単なことではない。

金融関係で再就職する希望を失ってきたJessieは、起業することを考える。学生時代にやっていたコリアン料理のYouTube番組を再会したところ、ストリーミング中に母親が乱入して口をはさみ、それが視聴者にウケてメディアからも注目されるようになった。Jessieが始めた「Seoul Sistas」はビジネスとして伸びてきたのだが、そこにDanielが関わってややこしくなってくる……。

このロムコムには、アジア系移民特有の家族問題、エスニック料理、そして「敵から恋人に」という娯楽要素が揃っていて、気晴らしに読む本として最適である。子供がYouTubeで放映している最中にアジア系のお母さんが乱入して口を挟むところなど、日本人読者にも「あるある」と想像できるだろう。作者のParkは自分の母親と一緒に次のようなツイートもしている。

特にこれと言って突出した魅力があるわけではないが、性的表現では「クリーン」のカテゴリであり、ロマンス小説初心者への入門書としても楽しめるかもしれない。

Leave a Reply