作者：Sara Nisha Adams
Publisher : William Morrow
刊行日：August 3, 2021
Hardcover : 384 pages
ISBN-10 : 0063025280
ISBN-13 : 978-0063025288
適正年齢：一般（中学生以上）
読みやすさ：7
ジャンル：大衆小説（人情ドラマ）
テーマ、キーワード：心温まる本、イギリス、図書館、人と人とのふれあい、読書リスト
ロンドンの郊外Wembleyの小さな図書館を舞台にした人情ドラマ。
長年連れ添った妻を亡くしたMukeshは、ひとりで静かに暮らしていた。本ばかり読んでいる孫娘のことが心配なのだが、どう言葉を交わせばいいのか戸惑うだけで何もできない。それぞれに家族を持つ娘たちは、生活にズケズケと踏み込んできて平和を乱すだけだ。Mukeshはこれまで本に興味はなかったのだが、読書家だった妻が残した本The Time Traveler’s Wifeを発見し、亡き妻への恋しさから読み始める。そして、HenryとClareの愛の物語を自分たち夫婦の思い出に重ねる。
The Time Traveler’s Wifeで読書の素晴らしさに目覚めたMukeshは図書館に行って次に読む本を教えてもらうことに決めた。ところが、貸し出しカウンターの若い女性から邪険に扱われて逃げ出してしまう。
Mukeshを邪険に扱ったのは、高校生のAleishaだった。家庭の複雑な事情と収入のためにアルバイトをする必要があるAleishaは、かつて仲良くしていた友達が夏休みの自由を楽しんでいる間に図書館で働いている。読書はしないし、本が特に好きではないAleishaは自分の置かれた状況を苦々しく思い、自己憐憫にひたっている。だから図書館で最小限の仕事しかしたくないのに、インド系の老人がやってきて「おすすめの本」を質問するので邪険に扱ったのだった。
Aleishaが本の整理をしているとき、To Kill a Mockingbirdの本からくしゃくしゃになった読書リストが出てきた。暇で退屈していたAleishaがリストに従って読書をしてみたところ、自分の人生との共通点があり、予期していなかったほどのめり込んでしまった。Mukeshを邪険に扱ったことを後悔していたAleishaは、次にMukeshと会ったときにリストから自分で読んだ本を薦めた。それをきっかけに２人は親しくなり、MukeshはAleishaの家庭の事情などを聞くようになる。そして、読書とそれでつながった人間関係のおかげで、Mukeshは孫娘とも親しくなる……。
図書館を中心にした心温まる本なので本好きには人気があるようだ。Aleishaの母の精神的な問題や後に起こる事件など辛い部分もあるが、全体的にはスイートで、ちょっと甘すぎるように感じるところもある。
舞台がイギリスなのでアメリカとは事情が異なるのだろうが、図書館の運営とか「Librarian」という名称の安易な使われ方とかも気になって仕方がなかった。アメリカではlibrary scienceの学位がないと「Librarian」にはなれない筈なのだが、イギリスではアルバイトのアシスタントでもそう呼ばれる慣わしなのだろうか？
もうひとつ気になったのは、ここで描かれている図書館で働くと友達からばかにされるようなイメージだ。アメリカではそういう話を聞いたことがないし、YAフィクションでも読んだことがない。イギリスとアメリカではそのあたりも本当に異なるのか知りたいところだ。
私が一番問題に感じたのは、Aleishaの家庭問題への対応だ。Aleishaが助けを求めたときのMukeshの対応には本当にあきれてしまった。私は読書なしには生きられない人間だし、本から学んだことに何度も救われた。けれども、プロの援助が必要な場合には、読書では対応できない。アメリカなら編集者が「書き直したほうがいい」と提言しそうな部分だ。このままになっているところも、もしかしたら英米の違いなのかもしれないと思った。
この本で一番良かったのはMukeshのキャラクターだ。作者はインド系とイギリスの白人のミックスということで、子供の頃にインド系のおじいちゃんと本でつながったことがこのデビュー作品の発想の元らしい。
Aleishaが見つけた読書リストは下記のとおり。
私は最後のA Suitable Boy以外は全部読んでいて（これからもたぶん読まないと思う）、それら全部が2013年刊の拙著『ジャンル別 洋書ベスト500』に収録されている。興味がある方は、そちらでチェックしてみていただきたい。
To Kill a Mockingbird
Rebecca
The Kite Runner
Life of Pi
Pride and Prejudice
Little Women
Beloved
A Suitable Boy