新型コロナに引き続いて数々のパンデミックが続く近未来を舞台にした文芸スリラー The Guide

作者:Peter Heller (The River, Celine, The Painter, The Dog Stars)
Publisher ‏ : ‎ Knopf
刊行日:August 24, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 272 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0525657762
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0525657767
対象年齢:一般(セックスシーン描写:クリーン)
読みやすさ:7(スピーディな展開で読みやすい)
ジャンル:文芸スリラー/近未来スペキュラティブフィクション
テーマ、キーワード:近未来、パンデミック、経済格差、サバイバル、ロマンス、The Riverの続編)

大自然の中でのカヌーの冒険の旅に出かけた親友2人の悲劇的なスリラーThe Riverの続編といえる文芸スリラー。主人公はThe Riverで生還し、サバイバーが抱える罪悪感(survivorʼs guilt)を持つJackが主人公。

親友の死について罪悪感を引きずっているJackは、これからの人生について考えることができずにいる。自分の過去を知る人々から離れるために人里離れたコロラドで魚釣りのガイドの職を得た。世界では新型コロナの流行に続き、数々の新しいウィルスが発生しパンデミックが起こっている。裕福な者たちは感染者が多い都市部を避けるようになっており、Jackが働くことになったリゾートには世界で最も裕福な者たちが滞在していた。最高級の川釣りが魅力の場所なのだが、なぜか周辺には有刺鉄線で囲まれた場所や侵入者を銃で撃つと脅す標識などがある。

あまり音楽に興味がないJackは自分が担当したゲストが有名な女性ミュージシャンであることを最初のうちは知らなかった。そのためか、かえって2人は釣りへの情熱で心を通わせるようになる。釣りに夢中になって境界線をうっかり越えてしまったとき、Jackは威嚇射撃を受けた。このリゾートにはJackたちの知らない秘密があるようだ。2人は一緒にそれを調べるようになったが、それは危険なことだった……。

新型コロナウィルスのパンデミックが始まる8年も前に出版されたThe Dog Starsは新型インフルエンザで多くの人が死んだ近未来を描く切ない小説だった。今回のThe Guideもパンデミックが起こっている世界を描いているが、気候変動によって次々と新しいウィルスによるパンデミックが起こるという点が異なる。これは多くの専門家が警鐘を鳴らしている未来であり、現実味がある。とはいえ、この小説では気候変動よりも経済格差に焦点を絞っているようであり、ジャンルとしても近未来SFではなく、もっとリアリスティックな文芸スリラーといえる。

文芸小説として高く評価されたThe Dog Starsとは異なり、この最新作はスリラーの要素が強い。だが、リゾートの秘密は早期に推察できるのでスリラーとしての物足りなさは否めない。けれども、ページ数が少なくてアクションが多く、男性読者にぐっとくるようなロマンチックな要素もあるので「優れた文章の娯楽小説」としてはお薦めの作品だ。

リゾートの客として日本人夫婦が登場し、Jackの愛読書である芭蕉の『奥の細道』について話し合ったり、Jackが村上春樹の本について考えるのは日本人読者にとって面白いオマケといえるだろう。その影響で私は英語版の奥の細道をつい購入してしまったくらいだ。

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