リアーン・モリアーティの最新作はテニス一家の家族ドラマ Apples Never Fall

作者:Liane Moriarty
Publisher ‏ : ‎ Henry Holt and Co.
刊行日:September 14, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 480 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1250220254
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250220257
対象年齢:一般(セックス、バイオレンスの話題はあるが露骨なシーンはない)
読みやすさ:7(だが、ページ数が多いので根気が必要)
ジャンル:家族ドラマ、心理サスペンス
キーワード、テーマ:テニス家族、失踪、親子の関係、夫婦の関係

Delaney家は地元ではよく知られているテニス一家だ。StanとJoyが経営していたテニス学校は有名だったが、4人の子どものうち誰も後継者として適任ではなかったので最終的に他人に売り渡した。

子育てとテニス学校の経営で息をつく暇もないほど忙しかったStanとJoyにはようやく時間ができ、テニス学校売却で裕福にもなった。60代後半とはいえ、優秀なテニス選手だった2人には若者に負けない体力もある。だが、2人はそれぞれに惨めな気分になっている。子育てとテニス学校の経営を担当していたJoyは突然得た暇を持て余している。孫ができれば生きがいもできるのだが、近い将来にその希望はない。グランドスラムを目指せる選手だったのに怪我でコーチに転身したStanは、自分が才能を見出して大事に育てた選手からグランドスラム達成の寸前に裏切られた心の傷をひきずっていた。最近になって、いったん引退したその選手が復帰するというニュースを知り、ふさぎ込んでいる。

ある夜、Savannahという見知らぬ若い女性がStanとJoyの家のドアを叩いた。頭から血を流しているその女性は、同居しているボーイフレンドから暴力をふるわれて逃げたと言い、痩せこけていて裸足だった。面倒をみる子どもがいなくなって寂しかったJoyは、疑いもせずにSavannahを家に招き入れて世話をしはじめた。

それから数カ月後、子どもたちに謎のテキストメッセージを送った直後にJoyが突然姿を消した。そして、Joyの携帯電話が夫婦のベッドの下に隠れていたのが見つかった。Stanの顔にはJoyによるものと思われる引っかき傷があり、警察はStanがJoyを殺害したことを疑い始める。子どもたちの見解も異なり、それが仲違いにもつながっていく……。

リアーン・モリアーティ(Liane Moriarty)の作品は、Big Little LiesがHBOでドラマ化されて人気になり、最近HuluがミニシリーズにしたNine Perfect Strangersも人気になっている。9月に刊行されたモリアーティの最新作Apples Never fallもドラマ化にぴったりの内容だ。

Delaney家の関係がまずドラマだ。テニスでグランドスラムを達成することだけを夢見ていたStanは、怪我で選手生命を奪われ、それからはコーチとしてグランドスラムを目指すようになる。息子2人と娘2人は体格も才能もあったのに、それぞれトップに立つなにかが欠けていた。父親がコーチでもあった子どもたちは、それぞれに心の傷を抱えていて、それが現在の人生にも影響を与えている。自分自身も優秀な選手だったJoyは、Stanや子どもたちのために選手としての人生を諦め、テニス学校の経営や子育てで大家族を支えてきた。Stanは名コーチとして高く評価されているが、手がかかる面倒な仕事のすべてを引き受けてきたJoyは誰からも評価されないことに苦々しさを感じていた。こういう家族の関係は、テニス以外のことにも通じる。

この家族関係に加え、Savannahというミステリアスな存在がモリアーティらしいドラマを盛り上げている。

題名の『Apples Never Fall』は、「The apple never falls far from the tree(子どもは結局のところ親や家族の持つ性格や人格とそう変わらないものだ)」という言い回しから来ている。

ページ・ターナーではあるが、少々長すぎるところが難。後味は悪くないのだが、後半の盛り上がりの点ではBig Little LiesThe Husband’s Secretには及ばない。冒頭のDalaneyきょうだいの部分は、同作者のThree Wishesを連想させる。モリアーティの作品を全部読んでいる読者として次の作品が待ち遠しいが、才能を使い果たしてほしくないとも願っている。読者は欲張りなものである。

1 thought on “リアーン・モリアーティの最新作はテニス一家の家族ドラマ Apples Never Fall

  1. Liane Moriarty の作品を読むのは、『Nine Perfect Strangers』に続いて今作が2冊目でした。前作はあまりピンと来なかった(評価は三つ星を付けた)のですが、『Apples Never Fall』は私のツボでした。

    確かに長くて、実は前半は少し退屈な感じもあったのですが、そこで張り巡らされた伏線を後半で(時にコミカルに、時に感動的に)見事に拾って「うまい!」と唸らされました。全編リンゴがモチーフとして生きていたし、ペットの犬や近所のネコの習癖など小物使いも効いていました。

    そして何よりも家族内の確執のドラマに引き込まれました。私自身も4人きょうだい&大家族で育ったので、きょうだい間の連帯感(状況に応じてチーム編成が変わる)やライバル意識など、「あるある!」と共感を覚えました。ドラマの終わりはちょっと楽観的過ぎるかなとも思いますが、許します(笑)。

    『Big Little Lies』は未読ですが、渡辺さんの書評を拝読して俄然興味が湧いてきました。

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