1968年のラグナ・ビーチを舞台にしたミステリと少年の成長物語 A Thousand Steps

作者:T. Jefferson Parker (これまでにエドガー賞3回受賞)
Publisher ‏ : ‎ Forge Books
刊行日:January 11, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 368 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 125079353X
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250793539
適正年齢:一般(PG15)
読みやすさ:7
サブジャンル:歴史小説、ミステリ、成長小説
キーワード、テーマ:1968年、カリフォルニア、ラグナ・ビーチ、LSD、ヒッピーカルチャー、ニューエイジ思想(みずがめ座の時代)、カルト宗教

1968年のカリフォルニア州ラグナ・ビーチが舞台。
現在は富豪の別荘がある高級リゾート地として知られているが、当時はニューエイジ思想の立役者が集約しているような場所だった。

16歳の少年Mattの父は何年も前に家族を捨てたきりで、残された母はドラッグ依存症で子どもの世話には無関心だ。兄はベトナム戦争に従軍していて、美人の姉Jazzは自分には構わずクールな者たちと付き合っている。無責任な親から放置されているMattは新聞配達のアルバイトと魚釣りで飢えをしのんでいる。

高校で人気があった年上の少女がビーチで死体でみつかった。それと同時に姉が姿を消した。Mattは少女の死と姉の失踪には関係があると信じるが、警官はただの家出だと決めつけてJazzを探そうとはしない。Mattは小学校4年生の時から恋心を抱いている少女に協力してもらってJazzを探そうとする。

捜索のさなかにJazzが家に向かって逃げているところに遭遇するが、Mattの目の前で姉は男2人によって車で連れ去られてしまった。Mattの周囲でも不穏なことが起きはじめるが、警察は姉を探す代わりにMattをドラッグ組織を暴くためのスパイにしようとする。母親がニューエイジ思想のイベントで怪我をして入院したのをきっかけに、これまで子どもたちを無視してきた元警官の父が家に戻った。父をまったく信用していなし、自分勝手な行動ばかりの両親にはうんざりしているMattだが、姉を捜索する協力は受け入れることにした。

1968年はアメリカの歴史の中でも特別な時代だった。「みずがめ座のの時代(The Age of Aquarius)」と呼ばれるニューエイジ思想の黄金期であり、ベトナム戦争のさなかで平和運動が盛り上がり、マリファナやLSDの使用が盛んになっていた。LSDなどの幻覚剤をハーバード大学で実験した悪名高きティモシー・リアリーが住み着いたラグナ・ビーチはヒッピーカルチャーやカルト宗教のメッカ的になっていて、その雰囲気を読むのがこの小説の楽しみでもある。

ミステリについては、私はかなり初期から「こうなるだろう」と推測できたが、あまりミステリを読まない夫は「最後までこうなると思わなかった」と言っていた。

ミステリとしてよりも、この特殊な時代を描く歴史小説として、少年が戸惑いながら大人になっていく成長物語として読むほうが楽しいかもしれない。

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