地図制作に取り憑かれたエキセントリックな人々を描く、ジャンルを越えた小説 The Cartographers

作者:Peng Shepherd
Publisher ‏ : ‎ William Morrow
刊行日:March 15, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 400 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0062910698
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0062910691
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさ:8
ジャンル:文芸小説、スペキュラティブ・フィクション、ミステリ
キーワード、テーマ:地図、古地図、地図製作者、学者、コレクター

cartography(地図制作法)の分野で高名な学者を父に持つNellは、幼い時から地図と地図制作に情熱を燃やしてきた。将来有望な若手研究者として父がオフィスを構えるニューヨーク公共図書館でキャリアをスタートさせたのだが、公の場での父親との口論がきっかけで解雇され、研究者としての信頼も失った。父の影響が行き渡っているアカデミアで就職が不可能になったNellは、古地図の複製を壁に飾りたい客相手の小さな会社に就職した。

Nellがニューヨーク公共図書館への就職を世話した当時のボーイフレンドも一緒に解雇され、それが原因で2人は別れた。Nellは7年間父とも元恋人とも会っていなかったのだが、図書館で父が急死したのをきっかけに忘れたかった過去が舞い戻ってきた。7年前の口論のきっかけは、重要ではない寄贈品が収納されている地下でNellが見つけてきた古い地図だった。死んだ父が秘密の場所に隠していたのは、口論の原因になった地図に混じって入っていた高速道路マップだった。ガソリンスタンドで売っていたこれらの安っぽいマップは、スマートフォンのアプリを使う現代には姿を消していた。でも、コレクションとしての価値はまったくない。それなのに、殺人をおかしてまでこのマップを手に入れたい者がいるようなのだ。Nellは危険をおかして真相を探ろうとする……。

過去の地図制作では「fictitious entry(偽りのデータ入力)」があることを以前に別の本で読んだことがある。地図製作者たちが苦労して作った地図をそのまま複写して売る者が多く、その盗人たちを捕まえて証明するために、オリジナルの地図に偽の湖や町の名前を入れておくのだ。もし別の者が売っている地図にそれらの偽の町や湖があったらそれがコピーだと証明できて訴えることができる。本書は、そのfictitious entryが鍵になっているスペキュラティブ・フィクション(SF)であり、謎を追い求めるミステリでもある。

地図制作にとりつかれた人々のエキセントリックさと執着心、ジャンルの枠を越えた自由さなど、いったん引き込まれたら離れられなくなる。期待した以上に面白かった。ただし、ストレートなジャンルに沿った本や好感が抱ける登場人物を求める読者向きではない。

1 thought on “地図制作に取り憑かれたエキセントリックな人々を描く、ジャンルを越えた小説 The Cartographers”

  1. 「取り憑かれた」という言葉が正にぴったりの登場人物たちでした。地図にはあまり興味がないし、SFものはほとんど読まない私ですが、ミステリの部分に引かれて読了しました。「このマジカルな物語のように、地図を持って架空の場所に行けたりすると面白そうだなぁ」と想像しますが、地図がうまく読めない人間なので無理そうです(笑)。

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