作者:John Scalzi
Publisher : Tor Books
刊行日:March 15, 2022
Hardcover : 272 pages
ISBN-10 : 0765389126
ISBN-13 : 978-0765389121
対象年齢:一般(PG12)
読みやすさ:6
ジャンル:SF、娯楽小説
テーマ、キーワード:怪獣映画へのオマージュ、異次元の地球、ジュラシックパーク
Uber Eatsのような食事デリバリーアプリの会社に勤務していたJamieは、Covid-19の感染拡大が話題になり始めていた2020年初頭、CEOに営業戦略を盗まれた挙げ句にデリバリー係に降格されてしまう。自宅待機令が出たニューヨークで食事のデリバリーをしている時に昔の知り合いに遭遇し、そこで別の仕事を紹介される。彼が働く「動物の権利擁護の団体」の現地訪問のチームで欠員が出たので、それを埋める必要があるというのだ。専門家集団だが、Jamieの仕事は「重いものを持ち上げる」というものなので、専門知識は不要だという。
極秘の団体が扱うその「動物」とは「怪獣」だった。しかも、人々が住んでいるこの地球ではなく、異次元の地球に住んでいる巨大な怪獣たちだ。その地球には人間は存在しておらず、人間が住む地球よりもあるかに気温が高い。問題は、人間が住む地球と異次元の地球との間をつなぐ門戸が開いていることだ。それが悪用されるだけでなく、それによって人間が住む地球に破壊的な影響が与えられることだ。Jamieは、現地訪問チームの自分たちが騙されて利用されていることに気づいてくる……。
日本の怪獣映画は、世界中にカルト的なファンを作ってきた。ベテランSF作家のJohn Scalziの新作は、それを象徴するようなSFだ。
Scalziは本当は別のSFを書く契約を出版社と交わしていたが、Covid-19のパンデミックが始まって自身が感染し、執筆のスランプに陥ってしまったらしい。締め切り直前にこの本の案を思いつき、出版社にそれを連絡して短期間に書き上げたという。
表紙から連想できる「ジュラシックパーク」やNeal Stephensonのサイバーパンク的なSF小説「Snow Crash」などポップカルチャーのパロディやジョークが散りばめられていて、シリアスなSFではなく、軽くドタバタ的な冒険を楽しむ純粋な娯楽小説だ。John Scalziの作品をいくつか読んだ人なら、「Scalziらしい!」と思うことだろう。
KPS(The Kaiju Preservation Society)基地の名前はTanaka, Hondaなど怪獣映画のプロデューサーや監督へのオマージュである。新型コロナでスランプに陥った作者を救ったのが日本の怪獣映画だとしたら、やはりそれはすごい貢献だと思ったのだった。