引退した子役の回想録が浮き彫りにする、子供を心身ともに虐待して搾取する業界と毒親の致命的なマッチング。 I’m Glad My Mom Died

作者:Jennette McCurdy
Publisher ‏ : ‎ Simon & Schuster
刊行日:August 9, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 320 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1982185821
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1982185824
対象年齢:一般(PG15+ 性、ドラッグ、アルコール依存症、児童虐待)
読みやすさレベル:6(文章そのものはシンプル)
ジャンル:回想録
テーマ、キーワード:子役、毒親、未成年者からの搾取、心身の虐待、洗脳、アルコール依存症、摂食障害

Jennette McCurdy(ジェネット・マッカーディ)は、日本でも放映されたティーン向けTVドラマ「iCarly(アイカーリー)」(Nickelodeon/ニケロディオン)でSam Puckett(サム・パケット)を演じて有名になった。スピンオフの「Sam & Cat」ではアリアナ・グランデと共演したが、その後スクリーンから姿を消していた。今年8月に発売された『I’m Glad My Mom Died(お母さんが死んでよかった)』というショッキングなタイトルの回想録で、共演した頃にアリアナが好きではなかったことを書いており、それが話題になっていた。しかし、実際にこの本を読むとそれはほんの小さな部分でしかない。それよりも、子役を金儲けに利用して人生を徹底的に壊すアメリカのエンターテインメント業界と毒親の致命的なマッチングの恐ろしさをドライなユーモアで綴る衝撃的な回想録である。

我が子をスターにする決意をした母親の執拗な努力で、Jennette McCurdyは6歳の時からオーディションを受け、8歳の時から数々のドラマに出演するようになった。そして、15歳の時にiCarlyのSam Puckettに抜擢されて一躍有名になった。他人のことなど考えずに奔放に(暴力を)ふるって視聴者を笑わせていたSamだが、それを演じていたティーンのJennetteは”The Creator”(名前は出てこないがTVプロデューサーのDan Schneiderと思われる)や母親を怒らせないように常に言動に気を使う「良い子」であり、彼らの欲求に応じるプレッシャーから摂食障害(過食と嘔吐を繰り返すBulimiaのほう)とアルコール依存症を悪化させており、徹底的に惨めだった。

Jennetteの母親は、「お母さんはあなたを愛しているから、あなたの成功のために自分を犠牲にしているのよ」と洗脳し、罪悪感を与えて他人との交友関係や自由時間を与えなかった。娘が子役として成功するために幼い頃から摂食障害になるように躾け、医師から摂食障害の可能性と深刻さを指摘された時には知らぬ顔で娘の健康を思いやる母を演じた。母親は、「愛」を言い訳と脅し文句にして、11歳の頃から一家の稼ぎ頭になった娘をいつまでも自立させようとしなかったのだ。

母親ががんで死去してからも彼女が与えた影響は続き、Jennetteのアルコール依存症と摂食障害は危険なレベルになった。ボーイフレンドの意見もあって心理セラピーを受け、改善しかけていたのだが、セラピストから母親がやっていたことは虐待だと指摘された時の反発でカウンセラーを首にして再び摂食障害を悪化させてしまう。母親がやったのは心身の虐待だったと認められるようになるまで、かなりの時間と努力が必要だったことがわかる。

同じく「子役」として搾取され、その結果アルコール依存症になった辛い経験を持つDrew Barrymore(ドリュー・バリモア)とのトークにはついもらい泣きする。私には子役の体験はないが、親との関係で共感を覚える人は少なくないだろう。

ドメスティック・バイオレンス(DV)もそうだが、親の虐待も加害者が「愛」という言い訳を使って洗脳するために犠牲者が心理的にそこから抜け出すのは難しい。特に犠牲者が子供の場合には自分自身で考えたり、行動したりすることが不可能な時から植え付けられているのでなおさらだ。親のやったことが「虐待」だと理解した後でも、他人から母親を悪く思われたくない、守らねばならないという保護本能を持ってしまう。このビデオでもDrewとJennetteはその複雑な心理を語り合っている。

Jennetteは、母が亡くなったことで、抜け出すチャンスを得た。もし母親が健在であったら、彼女は惨めなままで母を幸せにするために自分を犠牲にし続けたかもしれない。「I’m Glad My Mom Died(お母さんが死んでよかった)」というタイトルに反感を覚える人も多いようだが、虐待で自分の子供時代を奪った母をいまだに愛している娘にとって、複雑な心理をドライなユーモアで表現する卓越したタイトルだと私は思った。

人気子役が不幸になるケースを私たちは嫌というほど見てきた。それでも我が子をスターにするために躍起になる親はいなくならないし、未成年者をエンターテインメントの材料として搾取して名声や富を得る大人は減らない。

私たちは「私は搾取していないから関係ない」とそっぽを向くのではなく、エンターテインメントの消費者として、もう少し懐疑的かつ批判的になるべきだと思った。

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