日本のシェアハウス「ひまわりハウス」で暮らすアジア系留学生たちのリアルな青春の姿につい涙腺が緩んでしまったグラフィックノベル Himawari House

作者:Harmony Becker
Publisher ‏ : ‎ First Second GN
刊行日:November 9, 2021
Paperback ‏ : ‎ 384 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 125023557X
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250235572
対象年齢:PG15(高校生以上)
読みやすさレベル:5
ジャンル:グラフィックノベル/青春小説
テーマ、キーワード:日本のアジア系外国人留学生、アイデンティティ、友情
文学賞:2023年Asian/Pacific American Award for Young Adult Fiction受賞。その他、2022 Kirkus Prize for Young Readers’ Literature、2021 Publishers Weekly Best Books of the Year、2021 School Library Best Books of the Year受賞

日本人の母親を持つハーフのNaoは、アジア系が少ないアメリカの中西部で育ったために白人の世界に溶け込もうとして生きてきた。そのために日本語をほとんど話せなくなってしまったが、大学に入学する前に1年休学できる「ギャップイヤー」を利用して日本で1年暮らすことにした。日本語があまりできないので緊張しながら宿泊施設のシェアハウス「ひまわりハウス」に到着したNaoだが、そこで出会った韓国からの留学生Hyejungとシンガポールからの留学生Tinaの2人から暖かく迎えられた。女性3人はすぐに仲良くなったけれど、同じシェアハウスで暮らしている日本人の兄弟、真一と正樹とは言葉だけでなく文化の違いがある……。

Nao、Hyejung、Tinaは日本語を勉強しているのだが、日本語より英語での会話のほうが楽なので3人の時には英語で話している。真一はそれを気にしないタイプだが、英会話が苦手で劣等感を抱いている正樹は自分がバカにされていると思って無口になっている。そのためにNaoは自分がどういうわけか嫌われていると思う。正樹は自分が黙っていても考えていることは相手に通じるはずだと思っていて、通じないと苛立つ。けれどもアメリカ人であるNaoは言葉での説明を求める。このような育った文化の違いによる誤解やすれ違いは、自分とは異なる文化背景を持つ人と関わったことがある人なら必ず体験していることだ。でも、その国の言葉が流暢ではない外国人留学生にとっては、深刻な悩みになる。

このグラフィックノベルでは、絵(漫画)で状況を説明するだけでなく、日本語、韓国語、そして訛りをそのまま表現した英語を併記することで、彼らの戸惑い、不安、誤解、違和感などを見事に表現している。

日本人と外見があまり変わらないアジア系のNao, Nyejung,Tinaがアルバイト先のコンビニや居酒屋で体験する苦労には日本人として申し訳ない気持ちにもなるけれど、近所の高齢女性が彼らを夕食に招くシーンなど、良い体験も悪い体験もしながら日本での生活で成長していく彼らのリアルな暮らしが見えてくる。親との関係を考える部分もそうだったけれど、ほかにもあちこちでつい涙腺がゆるんでしまった。

Naoがコンビニでアルバイトしているシーン。日本語がよく理解できていない部分は英語の部分の文字が滲んだようになっている。

 

作者のBeckerは日本人の母を持つアジア系アメリカ人であり、ジョージ・タケイのグラフィックノベル『They Called Us Enemy』のイラストを担当したことでも知られる。

日本語の部分に英訳がついている部分もあるし、日本が舞台なので状況もわかりやすいので、洋書を読んだことがない人もぜひ試してみてほしい。心が疲れている人も、読んだ後はきっと自分のことはさておいて誰かに優しくしたくなると思うので。

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