Author: 渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 多くの職を体験し、東京で外資系医療用装具会社勤務後、香港を経て1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)など。 最新刊は、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房) 翻訳書には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 最新の翻訳書はレベッカ・ソルニットの『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店) 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク日本語版|FINDERS 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 100 reviewer.

2009年ピューリッツアー賞受賞作-Olive Kitteridge

Elizabeth Strout 2008年3月発売 文芸小説/短編集 米国北東部メイン州の沿岸の小さな町Crosbyを舞台に、数学教師Olive Kitteridgeを軸に繋がる13の短編集。 大柄のOliveは、町の住民たちから気性が激しく、寛容がなく、頑固で批判的だと思われている。町の小さな薬局を経営する薬剤師の夫Henryは温厚な人物として誰からも親しまれているが、夫の善人ぶりはかえってOliveを苛立たせるだけだ。最初の短編「Pharmacy」では、中年にさしかかったOliveとHenryが別の異性に惹かれる微妙な心理を描いており、読者はHenryに同情心を覚えずにはいられないだろう。だが、OliveとHenry以外のCrosbyの住人を主人公とする短編で脇役として登場するOliveからは異なる人物像が浮かんでくる。現実世界では人とはそういう複雑なものである。読み進むうちに彼女の毅然とした批判精神に対して反感と同時に尊敬も抱くようになり、老齢に達した孤独なOliveのほのかな恋を描いた最後の短編「River」では、(たぶんOliveのひとり息子が感じているように)彼女の欠陥をすべて受け入れたうえで幸運を祈らずにはいられないだろう。 鬱、自殺、親子関係、不倫関係、老化といったテーマを扱った短編はそれぞれが独立したストーリーで、Stroutの卓越した語りに吹き出したり涙ぐんだりしながら、いつのまにか、これまで会った人々を思い出し、自らの人生を振り返っていた。熟練した文芸作品でありながら気取ったところがなく、深い人間理解に基づく優れた短編集である。 ●ここが魅力! 有名な賞の受賞作は疑ってかかる癖があるのですが、久々に心底「これは受賞に値する!」と同感した作品です。3日間連続で睡眠時間5時間以下の寝不足だったにも関わらず深夜まで読みふけってしまいました。 最初にこの本でOliveに出会ったとき、あまりにも好感が抱けなくて「え~、これが主人公!」とがっかりしましたが、読み進めるうちにしだいに彼女に興味を抱くようになりました。Oliveだけでなく、わずかな希望や愛を求める普通の人々の悲喜劇に同情し、最後にはOliveに友達として電話をかけてあげたくなりました。 こういうことを感じさせてくれる文芸作品がPulitzer Prize(ピューリッツアー賞)を受賞したことを嬉しく思います。 ●読みやすさ ★★☆☆☆ 文章そのものは簡潔で難解ではありません。…

子供の才能を殺さないために親が読む本(1)

教育に関するノンフィクションを書く目的でレキシントン公立学校の運営陣と生徒を取材し、実際自分で子育てをした経験から、私は早期英才教育への反論をいくつか「ひとり井戸端会議」や「才能を殺さない教育」のほうに書いてきました。そうしたところ最近になって教育に関する書を多く出版されている糸山泰造さんという方からメールをいただきました。 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4794216270&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4767804639&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4890361979&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4023303844&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 日本を離れてずいぶん経つので、恥ずかしながらそれまで糸山さんの存在を存じ上げなかったのですが、お送りいただいた「思考の臨界期」という論文を読ませていただいたところ、あまりにも私の信念に似ていてびっくりしました。糸山さんと私の出会いのきっかけは、National Institute of Mental Healthの神経科学者Jay Giedd医学博士です。5歳から25歳までの脳を研究してきたGiedd博士が発見したのは、脳は思春期で成長・成熟しきるのではなく、無駄な枝を剪定しつつ成長と成熟を続ける大事な時期だということです。おおまかに説明すると、将来の脳を決定するための反復学習が必要かつ有効になるのは思春期でありこの時期に"Use it or lose it(使って伸ばすか、使わずに失うか)"の剪定をするという理論です(詳しくはTimeの記事とグラフィックをどうぞ)。それまでの幼児・児童期はニューロンの接続(可能性)をどんどん増やしてゆく大切な時期であり、そこで剪定(早期英才教育)をするべきではないのです。…

The Name of the Windの第二部(の原稿)がようやく完成!

今年4月に発売予定だったThe Name of the Windの校正が遅れていることを以前に書きましたが、どうやらようやく原稿が完成したようです。 作者のPatrick Rothfussのブログにその記事が載っているのですが、原稿の写真を見て顎が外れそうになりました。印刷用紙1500枚以上で、コンピューターがスペルチェックするのに6時間かかったというのですよ! どうやってこれを1冊の本にまとめるのでしょうか? それに、これはまだ三部作の第二部なんですよ。 すでに結末の予測を立てている私の心に平和が戻るのは何年後なのでしょうか?

60年後のHolden Caulfield?Are you kidding?

新人作家による60 Years Later: Coming Through the Rye という作品が、アメリカより一足先に英国で発売されました。 http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=9185869546&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=9185869546&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 60年後のHolden Caulfieldが主人公ということですが、J.D. Salinger まだ生きてるんですよ。わが家からそう遠くないニューハンプシャー州に住んでいて、ダートマス大学の図書館をうろついているという噂を耳にします。Pride and…

Elric-マニア向けファンタジーの古典オンライン無料購読

Elric of Melniboné(メルニボネのエルリック)と聞いてすぐにピンとくる人は、相当なファンタジーファンでしょう。fantasyの中でも1960年くらいまでに作られた、剣や魔法が出てくるジャンルはhight fantasyと呼ばれています。1961年から書かれたElricサーガもそのひとつで、英語圏では「これを読んで育った」というマニアックなファンがけっこう存在するようです。もちろんコミックや映画化が試みられましたが、コミックはすぐに中止、映画化も実現せずにこれまできました。 ところがようやく別の製作者で映画化が実現することになりました。今回はたぶん本当です。なぜならランダムハウスがこうして第1巻のe-bookを無料提供しているのですから。 主人公のElricは人類の前に1万年にわたって世界を支配したメルニボネ帝国の最後の皇帝で、先天性白皮症(アルビノ)のアンチヒーロー。パワフルな魔力を持つものの、生まれつき虚弱体質のために薬と魔剣Stormbringerの助けがないと生存できない。Elricは、自分の存在の意味を探索しようとするが、破壊と悲劇をくりかえす。Stormbringerの力に頼るElricだが、この剣は吸血鬼のように人の命を奪うことでパワーを得る邪悪な存在でもある。このサーガではElricとStormbringerとの複雑な関係が主軸になっている。 アルビノでニヒルで悲劇的な主人公のElricは絵になる存在ですから私も中学生のころであれば漫画的に楽しめたと思います。現在の私の好みではありませんが、熱狂的ファンが多いのも事実です。日本では80年代~90年代に邦訳版がされているようですが、原作で読むチャンスはなかなかないと思います。ご興味ある方はぜひこの機会にどうぞ。でも、60年代のオリジナルからは抜けている箇所があるようで、状況がつかめにくいかもしれません(私は少々混乱しました)。その他の情報はWikipediaでどうぞ。 (注:本ブログでご紹介するのは、著者または出版社のキャンペーンとして無料になっているもの、あるいは著作権が消失したものです。キャンペーンが終了するとこのページでも読めなくなりますので、ご了承ください) スクリーンの右肩の□でフルスクリーンにすると読みやすくなります Elric: The Stealer of Souls by…

Amazonが新たな出版プログラムAmazon Encoreを開始

AmazonがAmazonEncoreという出版ビジネスを始めることを発表しました。 その第一作に選ばれたのは、16歳の少女Cayla Kluverの自費出版ファンタジーLegacy。これを読んで私はびっくり。というのは、昨年出版と同時に「これはすごい!」と思って購入していたからです。Legacyは三部作の第一部で、その後あまり売れている様子がないので、「続きはどうなるのだ?」と心配していたところでした。 Amazonはハードカバーのほかに、オーディオとKindle版も発売する予定です。 http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=1595910557&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 CaylaがLegacyを書き始めたのは3年前、まだ13歳のときで、完成したときは14歳。ちょうどファンタジーファンが多い年齢層です。でも、主人公のプリンセスは17歳という設定で、内容は14歳の子が書いたとは思えないほど完成度が高いものでした。書評は洋書ファンクラブでどうぞ。

面白そうな科学分野の新刊

科学分野のノンフィクションについてのお問い合わせをいただきましたので、今月発売の新刊あるいはこれから出る新刊のうち、私が興味を抱いている本をご紹介します。いくつかは今月末に参加するBook Expo Americaで入手できると思いますので、おいおい書評のほうも。 1. Wicked Plants: The Weed That Killed Lincoln’s Mother and Other Botanical…

2012年をテーマにした本がどっと出てきそう

2012年に世界が終わるという予言があるらしくて(そういうのあんまり興味ないので意図的に無知)、やたら2012をテーマにした本を目にするようになっています。 そんなとき、Book Expo Americaのプレスを対象にしたパーティの招待状が届きました。Vanguard Press、McArthur and Company、そしてPlanetChange2012が主催する、The Twelveという小説のプロモーションのためです。場所もThe Yale ClubのLibraryというなかなか由緒ある場所です。 出版社がこれだけ力を入れているということは、たぶん相当「売れる」という勝算があるのでしょう。けれども、PlanetChange2012も9月9日に発売予定のThe Twelve という小説もまだ情報がほとんどありません。BEAでどっかんと宣伝するつもりなのでしょう。 世紀末には興味ありませんが、そういう本でもなさそうですし…、出版社の思う壺なのでしょうがとりあえず興味は持ちました。