Author: 渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 多くの職を体験し、東京で外資系医療用装具会社勤務後、香港を経て1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)など。 最新刊は、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房) 翻訳書には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 最新の翻訳書はレベッカ・ソルニットの『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店) 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク日本語版|FINDERS 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 100 reviewer.

The Mystic Arts of Erasing All Signs of Death

大ブレイクの予感がするサスペンス http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=034550111X&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 元小学校教師で心的外傷後ストレス障害(PTSD)がある無職の主人公が仕方がなく得たのは、死体処理の仕事。セックス、バイオレンス、グロ、ののしり言葉…まるでパルプフィクションのようなこのサスペンスは、私の趣味ではないので読むのをためらいますが、最初に見たときから売れそうな予感がびんびんします。 今後ベストセラーに入ると思いますので、ご注目を!

洋書初心者への「失敗しない完読テクニック」

「洋書を読もう!」と決意した人が最初に犯す失敗には次のパターンがあるのではないでしょうか。 1)意気込みがありすぎて難解な本に挑む。 2)日本語で読んだかあるいはよく知っているクラシックを選ぶ。 3)自信がないので絵本からスタートする。 1)の問題は明らかですね。3ページまで読んだら偉いものです。 2)は洋書初心者のときに私も経験しました。「嵐が丘」に挑戦し、みごとに挫折!それからアガサ・クリスティ。クリスティファンだった私は英語で読んでちっとも入り込めないのに大ショックを受けました。クラシックは当時流行の言い回しや文体を使っていますからネイティブでも現代人には読みづらいのです。最初は現代の作品から始めましょう。 3)フランス語を習い始めたときに絵本を読みましたが、幼児用のストーリーには「次どうなるのか知りたい」という意欲がなかなかわきませんでした。まるで教科書を読んでいる気分になります。読みやすさは、必ずしも難易度ではなく、モチベーションを持たせてくれるかどうかにかかっています。 それでは、どんな本であれば失敗しないのでしょう? 1)学校で学ぶ程度の文法のもの。単語もできれば学校で習う程度が理想です。したがってネイティブの小学校高学年を対象とした本が適しています。最初はあまり美文ではないものがよいでしょう。 2)現代文学の中から選びましょう。 3)先を知りたくなるストーリー性があるものが理想です。子供もそうですから、小学生や中学生に人気がある分野はアニマル・ファンタジーやファンタジー、SFです。それらが苦手な方にはユーモアや風刺小説という手もあります。あまりにも子供じみた内容のものは避けましょう。読む気がうせますから。 それを念頭に、次はおすすめの本のサンプルです ステップ1(小学校3年生から高学年向け) このサイトの「読みやすさ★★★★」に相当します ●アニマル・ファンタジー(動物が主人公のファンタジー)…

Hot, Flat, and Crowded

著者:Thomas L. Friedman 2008年9月初刊 ジャンル:ノンフィクション/科学/時事問題 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0374166854&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=0374166854&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 人類の抱える緊急問題と解決策がぎっしり詰まった本 Hot, Flat, and Crowdedは、地球の温暖化、人口の爆発的増加といった世界が直面する緊急問題とその解決策を提示したフリードマンの最新作である。周囲の中高年の男性はみんな読んでいる。時間に追われる知人のコンサルタントさえ移動時にiPodで聞いているというので、私も話題に取り残されないように早速読むことにした。 まずは、米国を現在の情けない状況に追いやった元凶の糾弾から始まる。レーガンにブッシュ、自動車産業など先見の明に欠ける横柄な態度の列挙は、まるでわが家の食卓での会話のようで胸がすっきりする。彼がお手本として使うホンダとトヨタにも拍手喝采したくなる。 最初はこうして自国をこき下ろすが、フリードマンのうまいところは、「最終的に米国こそが世界を救うリーダーになるべきだ」と国民の楽観的な性格とヒロイズムに訴えかけることだ。よく考えると実行が難しいことでも、「やれそう」で「やらねばならぬ」という気にさせる巧みさ、そして専門の中近東外交だけでなく世界中のあらゆる産業についての博識ぶり、これがフリードマンの魅力である。 注目すべきは、フリードマンが語るクリーンエネルギー産業の将来性である。オバマ次期大統領(現時点)が宣言したように、最初は赤字を増やしてでもクリーンエネルギーに投資するという政策が実現したら、米国には後からやってきて他国を追い抜く力がある。日本にはこの闘いにぜひ勝ってほしいが。…

StanzaとKindle の中間報告

StanzaとKindleを1週間ほど使い比べた中間報告です。 現時点ではKindleからStanzaには切り替えられないというのが率直な感想です。たぶん私のライフスタイルに合っていないだけの話なのでしょうが。 さてそれぞれの利点と欠点を挙げてみましょう。 Stanza 長所: ・コンパクトなこと。 iPhoneひとつ持てば音楽も聴けるし本も読めるのは抗いがたい魅力です。 ・ページをめくるのが速いこと。ダウンロードを待つのに苛立つことはありますが、待たずに次のページに移れるというのはKindleにはない長所です。 画面が明るいので、暗くても読めること。娘が楽器の練習をしている間、車の中で待たされる私にはけっこう大事なことです。けれどもKindleの画面が光らないのは、目が疲れないようにデザインされているからで、それを欠点と呼ぶのは失礼かとは思いますが。 短所: ・選択肢が少ないこと。最新版の注目の本があまりないというのは困ります。 ・価格。新刊のハードカバーはKindleでは(例外はあるものの)ほぼ9.99ドルと決まっています。同じ本がStanzaでは14.99ドルなどいずれも高めの設定になっています。 ・トレッドミルで走りながら読むには画面が小さすぎること。ページを何度も変えなければならないことや、触れていないとすぐに消える画面は走るのには不向きです。これは実に個人的な理由で申し訳ないですが、最大の問題なので。 Kindle 長所:…

一度読んだら虜になる死刑囚で毒味役の少女のサバイバル Poison Study

Maria V. Snyder 2008年9月初刊 ファンタジー/SF/ロマンス/ヤングアダルト/冒険 (2015年追記) 私の翻訳で日本語版が2015年7月に発売されます(ハーパーコリンズ日本到来を記念するハーパーブックスの1冊です)。 (下記は2009年当時の記事) SF、ファンタジー、ロマンス、歴史のカテゴリーが好きな高校生の娘とその友達から「面白そうな本を探してくれ」と依頼されて見つけた本。 

まだ十代の若い女性Yelenaは殺人罪を犯した死刑囚である。だが、コマンダーの毒味役を引き受ければ死刑を免れることができると選択を迫られる。死ぬまで職を離れることができない毒味役は、毎日解毒剤を飲まないと死ぬ毒を与えられているのでどちらにしても二度と自由にはならない身の上だ。 
Yelenaの上司はかつて悪名高い暗殺者のValekだ。Valekの厳しい要求、毎日死に直面する恐怖、彼女の暗殺を狙う敵、誰を信用してよいのかわからない孤独……、 Yelenaのサバイバルの試練に読者は息をつくのも忘れるだろう。 

中 世のようなこの世界には、不思議な毒や魔法があり、誰が味方で誰が敵かわからない。人を簡単に信じると死が待ち受けている。読後も作者が作り上げたこの不 思議な世界が脳裏に残って離れない。ただのロマンスやヤングアダルトのカテゴリーに入れるのはもったいないし、失礼だ。それくらい完成度が高い傑作であ る。 

私がこの本を勧めた高校生たちもそう思ったようで、(爆発的な人気の)「Twilight」より断然面白い!と言っていた。とくにValekは娘によると「(Twilightの)エドワードなんかより、ずっとHOT」という感想で、彼の年齢と職業を考慮すると母としてちょっと心配であるが…… ●読みやすさ ★★★★☆…

Danger’s Hour

神風特攻隊の知られていない姿をアメリカ人に伝える書 著者:Maxwell Taylor Kennedy カテゴリー:歴史(ノンフィクション) http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0743260805&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=0743260805&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 1945年5月の神風特攻隊による空母バンカーヒールの攻撃を例に、現代アメリカ合衆国が直面するテロリズム問題をどう理解し、どう取り組むべきなのかを解説する書。 ユニークなのは、著者がアメリカ人の生存者だけではなく、特攻隊の生存者の証言を載せていることである。理解しがたい存在である特攻隊の存在を人間的にとらえ、戦争を終わらせるために原爆投下の必要がなかったことに言及しているとのことだ。

Testimony: A Novel

著者:Anita Shreve 2008年10月初刊 心理サスペンス/時事問題 米国の有名私立高校と高校生の実態 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0316059862&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=0316059862&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 「パイロットの妻」で有名なシュリーヴによる、数年前に米国北東部(ニューイングランド地方)の有名私立高校で起こったセックススキャンダルを連想させる心理サスペンス。 ヴァモントの小さな村にある有名私立高校には他の州からの裕福な学生が集まっている。貧しい地元からこの学校に通う生徒はほとんどいないのだが、サイラスはバスケット選手として奨学金を得ている。そのサイラスを含む男子生徒3人が新入生の少女1人を相手にオージーをしているビデオが出回り、校長のマイクはスキャンダルが外部に漏れる前に内部で処理しようとする。 セックススキャンダルがマスコミで話題になると、加害者と被害者はステレオタイプで描かれる。けれども、真実はきっともっと複雑なはずだ。シュリーヴは、ストリーテラーの手腕を発揮し、関係者が事件を振り返る証言の形で表面からは想像できない複雑な人間劇を描こうとする。いったん読み始めるとひきこまれる魅力はあるし、シュリーヴが得意な初恋の胸の痛さも描かれ、サイラスを含めて何人かの登場人物には同情心を覚えずにはいられない。 しかし、これまでのいくつかの作品にくらべ、いまひとつ強い印象を残さなかった。 ●読みやすさ ★★☆☆☆ 語り手がどんどん変わるところが読みにくいと思います。 また、全員が一人称でないところも混乱を呼ぶところでしょう。 けれども基本的には難しい英語ではありませんし、ストーリーの展開も興味深くて入り込みやすいでしょう。ただし、Picoultなどに比べると多少詩的な文体なので、読みづらく感じる方もいるかと思います。…

Change of Heart

著者:Jodi Picoult 2008年3月初刊 ジャンル:心理サスペンス/時事問題 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=1416554343&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=0743496752&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 Picoultのベストではないが、読み逃したくない作品 Jodi Picoultの本は絶対に読み逃さないことにしている。 それは彼女が娯楽作品を通じて読み手に難しい社会問題を考えさせる天才だからだ。これほど巧みなストーリーテラーはめったにいない。 警官とその継子の少女を殺害した死刑囚のシェイは、死刑執行が迫った11年後に少女の妹に移植用の心臓を提供することを望む。母親は死が目前にせまった娘に憎い男の心臓を与えるべきかどうか葛藤するが、それだけがハードルではない。塩化カリウムで心停止させる通常の死刑では心臓を移植に使うことはできないのだ。 シェイがコンコード刑務所に移ってきてから奇跡が起こり始める。シェイの奇跡は暴力的な囚人たちやタフなガードたちを根本から変えてゆく。シェイをキリストの生まれ変わりと信じて奇跡を求める人々と冒涜者として糾弾する人々が刑務所の外でぶつかる。 陪審員としてシェイの死刑に票を投じたのがきっかけで宗教に身をささげた若い牧師とシェイの望みをかなえるために死刑の方法を変えようと働く若い女性弁護士は、それぞれ異なる葛藤を覚える。 カトリックとユダヤ教の関係や奇跡に対するキリスト教内での宗派の反応の差など、アメリカ合衆国に住んでいないとぴんとこないところもあるだろう。また、いつもの彼女の作品より複雑さと深みに欠けるような気もする。しかし、それでも読み終わった後Picoultの残した疑問について考えこまずにはいられないのは、優れた作品だからだろう。 ●読みやすさ ★★☆☆☆…