Category: 超上級

オプラが選んだ話題の書-The Story of Edgar Sawtelle

David Wroblewski2008年6月現代文学/スリラー http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=0061768065&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0061790974&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0007265026&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 オプラのブッククラブについては以前にもお話ししましたので繰り返しませんが、これはもっとも最近のオプラのチョイスで、長期にわたってニューヨークタイムズ紙ベストセラーを続けていました。意固地に避けてきたのですが、13年ぶりに図書館のカードを更新して振り向いたところ目に入ったのがこの本。「これも運命か」と思って借りてきました。 Edgar Sawtelleの祖父はウィスコンシンの田舎で独自の信念に基づいて犬を選択し、人間への思いやり深さで知られるSawtelle犬という血統を作り上げた。Edgarは聴覚は正常なのに言葉を発することができず、手話で両親や犬に意思を伝えるようになった。家業を継いだ父とトレーニング担当の母に愛されて平和に暮らしてきたが、父の弟Claudeが帰省してから突然静かな平和が崩壊し始める。父が急死し、精神的にも肉体的にも脆弱になった2人の生活にClaudeが入り込む。 EdgarはClaudeが父の死に関わっていることを疑うが、それを暴露するための計画が失敗して悲劇を生み、自分に忠誠なSawtelle犬3匹とともに逃亡者になる。 これ以上詳細を説明するとネタばれになるのでやめるが、70年代のアメリカを舞台にしているにもかかわらず、ロシアの文豪の作品やハムレットを連想させる本である。時折非常に優れた箇所があり、心を奪われるようなディテールもある。特にハチ公に関わる謎など、作者が長年かけてSawtelle犬や物語の想定をしたことがうかがわれる。この架空の血統犬にこめた作者の思い入れは感慨深い。 文章表現などすばらしい部分が多いにもかかわらず賞賛できない理由のひとつは、登場人物に深さがなく魅力を感じないことだ。犬の性格描写のほうが優れていて感情移入しやすい。だが、もっと深刻な問題は、結末を含めて数々の出来事の必然性を納得させてもらえなかったことである。超大作になる要素が揃っているのに、感動よりもフラストレーションがたまった作品である。 追記(4/15) 読み直して感じたのは、題名はThe Story of…

オースティンのゾンビ版-Pride and Prejudice and Zombies

Jane Austen と Seth Grahame-Smith 2009年4月4日 パロディ/ゾンビ/クラシック 発売前からAmazon.comで売り切れ状態のゴアで爆笑のパロディ Quirkというインディ出版社からの小品がこれほど売れているのは、まさにインターネットの「クチコミ」パワーです。私が存在を知ったのも、The Name of the Windの作者Patrick Rothfussの2月のブログでした。発売前からAmazon.comでは売切れていて、仕方がないので(Amazon.comの2倍の値段なのだけれど)Barns &…

話題の現代文学-Lowboy

John Wray 2009年3月 純文学/現代文学 僕が生まれてきたのには理由があるはずだ-胸に焼きつく統合失調症の少年の叫び http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=0374194165&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=1847671519&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 妄想型統合失調症に罹患している16歳の少年Willは、低い場所(low)にある地下鉄が好きだからLowboyと呼ばれている。1年半前にガールフレンドのEmilyを地下鉄の線路に突き落として精神病院に送られたが、自分には地球の温暖化を止める使命があると信じ、地球を滅亡から救うために服薬をやめ、病院を抜け出して地下鉄に潜伏する。ニューヨーク市警察の行方不明者捜索の担当者Ali Lateefは、オーストリア生まれのWillの母Yda(WillはVioletと呼ぶ)から得る情報を参考にWillの行方を追う。だが、彼はWillを追うことよりもVioletとWillの謎解きに熱中しているようだ。いっぽう、心理的な問題と家族問題を抱えているらしいEmilyは、統合失調症ゆえにWillに惹かれているが、ティーンゆえに深い理解をしているわけではない。Willに誘われて衝動的に一緒にNY市の地下に広がる闇の世界を逃亡することにする。 妄想があるWillの目からは人が常に姿を変えるが、Violet、Ali、Emily、精神科医など脇役の言動も普通ではない。正直言ってこれら脇役には苛立ちを覚えたが、妄想と現実が揺れ動くWillの世界は全てブリリアントとしか言いようがない卓越した表現である。ずっと昔に実習で妄想型統合失調症の患者に接したことを思い出す。ことに彼の胸いっぱいにあふれる愛とヒロイズムは、何度読みなおしても、リアルで、美しくて、悲しい。ブラックな笑いを誘う場面はいくつもあり、ドライな文章でメロドラマチックなところはまったくないのだが、全体を通じてWillが登場するすべての箇所が泣きたいほど切ない。天使のように美しく創造されたWillの、美しいが壊れたマインドとマニアックなヒロイズムの不条理。彼の存在が許されない世界の無情が悲しい。 I thought there was a…

永遠のロマンス最高作-Pride and Prejudice

現代のロマンス作品はすべてこの作品のパクリである、と言ってよいほどロマンスのお手本になっているのがジェーン・オースティンのPride and Prejudiceです。著作権が消滅していますので、どうぞごゆっくりお読みください。オンラインで読むのが面倒な方は、pride_and_prejudice.pdfをダウンロード してお読みください(出典はProject Gutenberg)。 ●読みやすさ ★★☆☆☆(訂正)   → ★☆☆☆☆(慣れた人向け) Pride & Prejudicehttp://d.scribd.com/ScribdViewer.swf?document_id=2511626&access_key=key-ee5vtkoxit8l0y6x9ty&page=1&version=1&viewMode= Publish at Scribd or explore…

オプラのブッククラブ入りを断った本-The Corrections

著者:Jonathan Franzen 2001年9月 ジャンル:文芸小説/現代小説  

Wicked- ミュージカルとは異なる原作

著者: Gregory Maguire初刊:1995年9月ジャンル:純文学/ファンタジー/SF/社会風刺 「考える」ことを強要する読書体験を求める読者におすすめ http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0061350966&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4797342706&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS1=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 今は人気ミュージカル「Wicked」の原作者として有名なMaguireですが、それまではさほど有名ではない児童作家で、6年前まで私の娘が通っている小学校に創作を教えに来てくれていました。彼は茶目っ気がある人物で、教え方もちょっとWickedで可笑しいのです。子供たちはMaguireが自分たちと同じ視点で語ることを肌で感じ、すっかり彼に魅了されていました。 そのようなわけで、私がWickedを読んだのはずいぶん昔のことです。一緒にボランティアで企画に関わっていた先生方はニューヨーク市までミュージカルを観に行ったのですが、私は見逃しています。ただ、観た人の話から判断すると、相当トーンが異なるようです。原作は複雑で暗く、私は、「軽い気持ちでは読めない本だけれど、読み応えがある」という感想を抱きました。私がこの本に好感を抱いたのは、それまでにMaguireの社会観に触れていたからかもしれません。この本は、彼のように取り付きやすい外面にもかかわらず、中身が非常に複雑なのです。 まず、これは誰でも知っている「オズの魔法使い」をドロシーではなく、彼女が殺すことになったWickedな西の魔女Elphabaが主人公の物語です。これだけの説明だと「あら、面白そう」と軽く読めそうな気になりますが、そうはいきません。緑の肌と鋭い牙を持つ危険な赤ん坊のElphabaが学問好きでシリアスな少女に育ち、そしてアンダーグラウンドの革命家や動物の人権運動家になり、ついにWickedな統率者として死を迎えるまでの人生を、相当複雑な宗教・社会・政治的観点から描いています。簡単にElphabを善か悪のカテゴリーに入れることはできないので、それも読者にとってはチャレンジです。この物語を嫌う読者の心情も容易に想像できます。主人公のElphabaに同情を覚える読者はいるかもしれませんが、感情移入は困難です。また、読後に暖かい気分になれる「feel good」なストーリーでもありません。けれども、もし私がこれを学生時代に読んでいたら、「これほどすばらしい本を読んだことはない」と言ったと思うのです。 ミュージカルの原作、という先入観で読むとがっかりするかもしれないので、それとは異なる作品として読んでいただきたいと思います。 ●ここが魅力!単純なハッピーエンドや勧善懲悪、倫理観を押し付ける作品、などに辟易している方にとっては非常に面白く感じる娯楽作品でしょう。ゲイで、パートナーとともに多くの子供を外国から養子に迎えているMaguireだからこそ描ける複雑な社会観を感じます。ともかく、いろいろと考えさせられる本です。 ●読みやすさ ★☆☆☆☆ざっと読み飛ばすことはできませんし、読み飛ばすと良いところが失われます。最初の展開がスローなので、入り込みにくく感じるかと思います。また、長編で、しかも登場人物が多く、名前も覚えにくいのが難点です。ネイティブでも最後まで読みきることができずに投げ出す者がけっこういるようです。 ●アダルト度 ★★★☆☆ セックスシーンはありますが、Twilightシリーズと比べるとさほどでもないという感じです。ただし、政治・宗教など複雑なコンセプトは小学生や中学生にはなかなか理解できないし、面白くもないと思います。高校生以上が対象です。

Tree of Smoke( National Book Award 受賞作)

著者:Denis Johnson 2007年9月初刊 現代文学/純文学/ベトナム戦争 忍耐がある偉大なアメリカ現代小説に挑戦したい方だけにおすすめの本 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0374279128&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 常日頃感じていることだが、偉い文芸評論家やオプラ・ウィンフリーがべた褒めしたからといって良い本とは限らない。有名な賞の受賞作もそうだ。ずっと前は、私の頭が悪いだけかと思っていたが、最近になって私の抱く感想は一般のアメリカ人読書人口とほぼ一致していることがわかってきた。(平均的アメリカ人が馬鹿だといわれたら、それまでだが) このDenis JohnsonのTree of Smokeは、National Book Award受賞作であり、ニューヨークタイムズ紙の文芸評論家Michiko Kakutaniが「bound to…

Hot, Flat, and Crowded

著者:Thomas L. Friedman 2008年9月初刊 ジャンル:ノンフィクション/科学/時事問題 http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&asins=0374166854&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 http://rcm.amazon.com/e/cm?t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&asins=0374166854&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr&npa=1 人類の抱える緊急問題と解決策がぎっしり詰まった本 Hot, Flat, and Crowdedは、地球の温暖化、人口の爆発的増加といった世界が直面する緊急問題とその解決策を提示したフリードマンの最新作である。周囲の中高年の男性はみんな読んでいる。時間に追われる知人のコンサルタントさえ移動時にiPodで聞いているというので、私も話題に取り残されないように早速読むことにした。 まずは、米国を現在の情けない状況に追いやった元凶の糾弾から始まる。レーガンにブッシュ、自動車産業など先見の明に欠ける横柄な態度の列挙は、まるでわが家の食卓での会話のようで胸がすっきりする。彼がお手本として使うホンダとトヨタにも拍手喝采したくなる。 最初はこうして自国をこき下ろすが、フリードマンのうまいところは、「最終的に米国こそが世界を救うリーダーになるべきだ」と国民の楽観的な性格とヒロイズムに訴えかけることだ。よく考えると実行が難しいことでも、「やれそう」で「やらねばならぬ」という気にさせる巧みさ、そして専門の中近東外交だけでなく世界中のあらゆる産業についての博識ぶり、これがフリードマンの魅力である。 注目すべきは、フリードマンが語るクリーンエネルギー産業の将来性である。オバマ次期大統領(現時点)が宣言したように、最初は赤字を増やしてでもクリーンエネルギーに投資するという政策が実現したら、米国には後からやってきて他国を追い抜く力がある。日本にはこの闘いにぜひ勝ってほしいが。…