徹底的に残酷な世界で生き残る「普通の人生」のオムニバス The Tsar of Love and Techno

作者:Anthony Marra
ペーパーバック: 384ページ
出版社: Hogarth
ISBN-10: 0770436455
発売日:2015/10/07
適正年齢:PG15
難易度:上級+(文芸小説に慣れていないと面白さがわからないであろう)
ジャンル:文芸小説/短編集
キーワード:ロシア、ソビエト連邦、スターリン政権、チェチェン紛争、シベリア強制収容所、政治犯、ミックステープ、キーロフ・バレエ団
賞:Rosenthal Family Foundation Award (2016)National Book Critics Circle Award Nominee for Fiction (2015)

(さらに…)

2013年ノーベル文学賞受賞者の最新作『Dear Life』

著者:Alice Munro

ペーパーバック: 336ページ

出版社: Vintage; Reprint版

ISBN-10: 0307743721

発売日: 2013/7/30(オリジナル2012/11)

適正年齢:PG15(高校生以上)

難易度:上級レベル(英語ネイティブの普通レベル)、ただし短編なので日本人には試しやすい。

ジャンル:短篇集/自伝的短編小説

キーワード:女性心理、人間関係、後悔、ジェラシー、許容、哀愁

文学賞:2013年ノーベル文学賞


 

短編の名手として近年ノーベル文学賞候補に名前があがっていたカナダ人の女流作家Alice Munro(アリス・マンロー)が、本日(2013年10月10日)ついに賞を受賞した。思想や政治的な要素が影響を与えることで知られるノーベル文学賞なので、思想に無関係の普通の女性の人生を描き続けてきたMunroが受賞したのは画期的なことである。(ただし、常に候補の上位に位置してきたので、意外ではない)

(さらに…)

私がみる不思議な夢を本にしたらきっと… ー Tales from Outer Suburbia

Shaun Tan
98ページ (ハードカバー)
Templar Publishing
2009/3/2
YA(小学校高学年以上)/絵本/アート本/短編集

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「これを読まずして年は越せないで」賞にrumblefishさんがノミネートされた作品です。以前からShaun Tanは気になっていたのでこの機会に読んでみることにしました。

The Arrivalで世界的に注目されたオーストラリア人作家Shaun Tanは、新作Tales from Outer Suburbiaで15のシュールリアルな物語を紹介しています。最初のストーリィは郊外の空き地に住む水牛が導きを求める子供たちに寡黙な方向を示すという象徴的なもの。そして次は台所の食品貯蔵室に住みこんだ葉っぱのような姿の「外国人留学生」のお話です。Tanの独自な雰囲気のイラストと淡々とした文章が織りなす世界は、あまりにも非現実的なのですが、奇妙な郷愁をかきたてます。
私の生い立ちとはまったく重ならない物語のどこがそんなに懐かしいのだろうと自問してはたと思い当たったのが、私がよく見る不思議な夢の数々です。

Waterbuffalo

私はよくとてもリアルな夢を観るのですが、どこかで「これは夢だ」と自覚しています。リアルなようで、風景や人物に決定的に非現実的なところがあるからです。面白いのは、留学生Ericのようにあり得ない設定でも夢の中で私は平然と対応していることです。楽しいことは楽しいし、悲しいことは悲しい。笑いながら、泣きながら目覚めたあとで、「この夢は何を意味しているのだろう?」と考え込んでしまいます。変な夢にはきっと意味があるはずですが、どう解釈してみても解けない謎が残ります。そんなもどかしさも、Tanの創造する世界とそっくりです。

Suburbia_distrainball_web

「変な夢」の感覚をさらに強めるのがShaun Tanのイラストです。
grandpa’s storyで新婚ほやほやの祖父母が旅立つ風景には、地面に半ば埋もれた家や家の半分ほどの巨大なテディベア、山のてっぺんに漂着している船、など奇妙なものが当たり前のように隠れています。ひきつづく8ページにわたるイラストに文章がないのも、Grandpaがフラストレーションたっぷりに語ったように「…In fact, the more I tell you, the less you will actually understand…」の感覚を見事に表現しています。

短編だけでなく、コラージュ形式のDistant Rainという詩のような作品もあります。イマジネーションをかきたてるこの作品は私が特に気に入った作品です。

学校や図書館では小学校高学年以上のヤングアダルトに仕分けされていますが、ひょっとしたら大人のほうが楽しめるのではないか、と思った芸術的な作品です。

●読みやすさ ★★★★☆

ネイティブであれば小学校高学年から読めるレベルです。
詩的な作品ですから、すぐに状況が理解できない場合もあるかもしれませんが、イラストが助けてくれるでしょう。もともと夢のようにはっきりしない作品なので「明確な理解」を目標にしないことです。

●アダルト度 ★☆☆☆☆

小学生に安心して読ませることができる作品です。
低学年だとイラストのイメージが怖い可能性もありますが、それはその子の感受性次第なので身近な大人が判断してください。

●Shaun Tanの他の作品

The Arrival

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「音楽と愛における理想と現実の狭間」を描くカズオ・イシグロの短編集 ー Nocturnes

Kazuo Ishiguro
240ページ
Faber and Fabe
英国では2008年5月7日発売。米国では2009年
文芸小説/短編集

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主人に仕えることを優先したために唯一の恋を成就しなかった昔気質の執事が主人公の「The Remains of the Day」のことをご存知の方は多いと思います。映画化もされましたので、映画だけをご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。ところが、長崎生まれの日系英国人作家のKazuo Ishiguroがその後に発表した長編のWhen We Were OrphansNever Let Me Goはまったく異なるジャンルでした。そこで戸惑いを覚えた読者もまた多いのではないかと思います。

図書館の理事をしている友人と私の間では「カズオ・イシグロは2度目がおいしい」ということで意見が一致しています。つまり一度目でしっくりこなくても二度目に読むとその良さがとてもよくわかる文章なのですね。

Never Let Me Goも発売直後に購入したのですが、先に渡した姑が友人に貸してそれきり戻ってこなかったのでいまだに読んでいません。ですからそれとは比較できませんが、短編集のNocturnesにはThe Remains of the Dayに似た雰囲気が漂っています。

優れた才能に恵まれながらも仕事のない中年のサキソフォン奏者が、売れるルックスにすれば成功すると主張する元妻の勧めで整形手術を受ける短編”Nocturne”は、滑稽で笑いをさそう展開ですが、読者の心の奥底に潜む苦い後悔を浮かび上がらせるくせ者です。自覚したくない後悔といえば、もっと苦いのが、著名なチェロ奏者のふりをしてハンガリー人の若いチェロ奏者に演奏指導をするアメリカ女性のストーリー"Cellists"です。「才能を発揮する機会がなければ、成功は可能性のまま保てる」という論理は馬鹿げていますが、笑い飛ばせないところに人間の哀しい性を感じてしまいます。

5つの短編の舞台はイタリア、英国、ハリウッドと様々ですが、共通するのは、逃した機会への悔い、 そして音楽と愛における理想と現実のギャップです。読後も長く余韻が残るThe Remains of the Dayを期待した読者がネガティブな評価をされているようですが、Nocturnesは短編集なので長編とは読み方も異なります。短編集としては、十分満足できる本だと思います。それだけでなく、これは「一度目からおいしい」カズオ・イシグロです。

●読みやすさ ★★★☆☆

Kazuo Ishiguroの長編に比べて、入り込みやすく、読み進めやすいでしょう。 彼の長編で挫折したことのある方には特におすすめします。

●アダルト度 ★☆☆☆☆

ある程度人生経験(挫折経験?)がある大人でないと良さがわからない類いの短編集ですから、そういう意味では大人向けです。けれども、慎み深い表現ですから★ひとつ。

●その他のカズオ・イシグロの作品

The Remains of the Day

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When We Were Orphans

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Never Let Me Go

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恋愛体験のアンソロジー−Love is a Four-letter Word

Michael Taeckens編集
Junot Diaz, Wendy McClure, Jennifer Finney Boylan, Kate Christensen, Said Sayrafiezadeh, Maud Newton, Amanda Sternほか23人の作家、エッセイスト、コミック作家、ブロガー
320 ページ
2009年7月28日発売
(来週の月曜日
出版社: Plume
アンソロジー/エッセイ・回想録/恋愛

6

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The Brief Wondrous Life of Oscar Waoでピューリッツアー賞を受賞したJunot DiazからブロガーのMaud Newtonまで幅広い分野の作家23人による恋愛回想録集(本の公式サイト)。
サブタイトルにTrue Stories of Breakups, Bad Relationships, and Broken Heartsとあるように、ハッピーエンドはまったくなく、ほぼ全部が過去最もひどい恋愛の体験談のようである。有名な作家ばかりを集めていないことやコミックがいくつか含まれているところがアンソロジーとしてユニークなところ。
面白いのは、有名作家のJunot Diazの作品よりも新聞にときどき寄稿するブロガーのMaud Newtonの作品のほうがダントツ優れていることである。Diazの回想録は、自分の生の感情やそれにまつわる格好悪さを隠そうとしているのかあまり感情に訴えかけるものがない。彼の作品に関しては「正直に語るのが嫌なら引き受けなければいいのに」と思った。
また、誰でも過去の恋愛は自分勝手に編集するものだが、しすぎで面白くないものもある。「読んで損した」的作品と良い作品とが混在しているが、平均するとなかなか良いアンソロジー。

●ここが魅力!
本人の奥深い部分に触れずして失恋の体験談を語ることはできません。
いろんな作家(アーティスト)による恋愛/失恋の体験談は、だからとりわけ興味深いものです。このアンソロジーでも、正直な作家の作品を読むとその人と親しくなったような気分になります。まるで、友達とお酒を飲みながらおしゃべりしているような気分ですよね。そんな軽い気持ちで読めることと、つまらない作品を飛ばせるのがこのアンソロジーの魅力です。私の一番のお気に入りは、Amanda SternScout’s Honor

●読みやすさ ★★★☆☆
難易度に差はあるものの、すべて軽いタッチですからそういう意味では全部読みやすいと思います。また、23人の作品を合計して320ページですから、各作品はすぐ読みきれる長さです。
アメリカで暮らしたことのない人にはわかりにくい言い回しや状況があるかもしれません。けれども、好みの作品や読みやすい作品だけを理解できるまで何度も読み直せるところがアンソロジーのよいところです。

●アダルト度 ★★★★☆
セックス&ドラッグの話はけっこう出てきます。生々しい表現がなくてもテーマが大人向けです。

Wickedの作者による子供向けパロディおとぎ話-Leaping Beauty: And Other Animal Fairy Tales

Gregory Maguire
2006年2月
224 ページ
HarperCollins
児童書(9-12歳)/パロディ・ユーモア/短編集

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人気ミュージカルWicked の原作者として知られるGregory Maguireですが、私の娘の小学校に創作を教えにきてくれていたころは児童書作家でした。そのことについては以前にもお話しました
社会風刺をまじえて大人用に書き直したおとぎ話シリーズで成功したMaguireが、同様の手段で子供用におとぎ話を書き換えたのがこのLeaping Beauty: And Other Animal Fairy Talesです。
Maguire本人に会ってすぐに気づくのは彼のwicked(ちょっと邪悪)なユーモアのセンスです。彼が創作クラスを教えていた小学校4年生たちにはそこが魅力で、Maguireが口を開くたびに子供たちが笑い転げていたのが強く印象に残っています。
誰もが知っている(聞いたことがある)おとぎ話を彼特有のユーモアで書き直したLeaping Beautyは、子供だけでなく大人が楽しめる内容です。というか、「うちの子にこれを?」と眉をひそめる大人がいるかもしれません。Maguireの大人用のおとぎ話シリーズはアメリカ人でも読みにくいので、彼の作品に興味がある方はこちらのほうから試してみることをおすすめします。

●読みやすさ ★★★☆☆
文法的には簡単で★★★★のレベルですが、言葉遊びやパロディを理解するには童話の知識があって、多少英語に慣れている必要があります。でも、子供向けの簡単な洋書に飽きてきて、もっと複雑な内容のものを求める大人にはおすすめです。短編集ですから、1作品を読みきる満足感も味わえます。Amazon.comのClick to Look Insideでサンプル文を読んでレベルを試してみてください。

2009年ピューリッツアー賞受賞作-Olive Kitteridge

Elizabeth Strout
2008年3月発売
文芸小説/短編集

米国北東部メイン州の沿岸の小さな町Crosbyを舞台に、数学教師Olive Kitteridgeを軸に繋がる13の短編集。
大柄のOliveは、町の住民たちから気性が激しく、寛容がなく、頑固で批判的だと思われている。町の小さな薬局を経営する薬剤師の夫Henryは温厚な人物として誰からも親しまれているが、夫の善人ぶりはかえってOliveを苛立たせるだけだ。最初の短編「Pharmacy」では、中年にさしかかったOliveとHenryが別の異性に惹かれる微妙な心理を描いており、読者はHenryに同情心を覚えずにはいられないだろう。だが、OliveとHenry以外のCrosbyの住人を主人公とする短編で脇役として登場するOliveからは異なる人物像が浮かんでくる。現実世界では人とはそういう複雑なものである。読み進むうちに彼女の毅然とした批判精神に対して反感と同時に尊敬も抱くようになり、老齢に達した孤独なOliveのほのかな恋を描いた最後の短編「River」では、(たぶんOliveのひとり息子が感じているように)彼女の欠陥をすべて受け入れたうえで幸運を祈らずにはいられないだろう。
鬱、自殺、親子関係、不倫関係、老化といったテーマを扱った短編はそれぞれが独立したストーリーで、Stroutの卓越した語りに吹き出したり涙ぐんだりしながら、いつのまにか、これまで会った人々を思い出し、自らの人生を振り返っていた。熟練した文芸作品でありながら気取ったところがなく、深い人間理解に基づく優れた短編集である。

●ここが魅力!

有名な賞の受賞作は疑ってかかる癖があるのですが、久々に心底「これは受賞に値する!」と同感した作品です。3日間連続で睡眠時間5時間以下の寝不足だったにも関わらず深夜まで読みふけってしまいました。
最初にこの本でOliveに出会ったとき、あまりにも好感が抱けなくて「え~、これが主人公!」とがっかりしましたが、読み進めるうちにしだいに彼女に興味を抱くようになりました。Oliveだけでなく、わずかな希望や愛を求める普通の人々の悲喜劇に同情し、最後にはOliveに友達として電話をかけてあげたくなりました。
こういうことを感じさせてくれる文芸作品がPulitzer Prize(ピューリッツアー賞)を受賞したことを嬉しく思います。

●読みやすさ ★★☆☆☆
文章そのものは簡潔で難解ではありません。
ただし、アメリカの文化や英語の言い回しを知らないと意図がつかめず、面白さが理解できない箇所があります。そのため初心者向けではありません。

●アダルト度 ★★☆☆☆
生々しい表現はありませんが、これらの人間関係を理解し、作品の真の良さを理解するのにはけっこう人生経験を積んでいる必要があります。たぶん高校生は読んでも面白くないでしょう。そういった意味では大人向けです。

滑稽で哀しい愛の方程式-On The Nature of Human Romantic Interaction

Karl Iagnemma
2003年
純文学/短編集

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作者のKarl Iagnemmaは、大学で機械工学を学び、マサチューセッツ工科大学の大学院でロボット工学を研究しながら短編を出版してきた「変り種」です。この短編集のタイトルになっている「On The Nature of Human Romantic Interaction」はParis Review Discovery Prize for best first fictionの受賞作で、評論家たちから絶賛を浴びました。

舞台はIagnemmaの体験を連想させる大学のキャンパスで、こんな風に始まります。

When students here can’t stand another minute, they get drunk and hurl themselves off the top floor of the Gehring building, the shortest building on campus.

ここでこの短編に惹かれるのは、この場面が想像できるような学生時代を送った人でしょう。
学生時代には誰でも慣れない恋の謎や不条理に悩みます。けれども、たいていの者はどこかでその不規則性を受け入れ、折り合いをつけ、サバイバルのコツを身に着けます。けれども、Iagnemmaの描く主人公は、普通の人であれば無条件に受け入れる恋愛の不条理さを、たとえば下の図のように数式で理解しようとします。恋のように不条理なものを論理的に把握せずにはいられない衝動が彼の悲劇なのです。

On_the_nature_of_human_romantics

恋愛の対象の女性を生身の人間として理解できない不器用な理数系の主人公が、自分だけを愛してくれない恋人からコミットメントを得ようとしてあがく姿は、哀しいがゆえに滑稽なのですが、そこに美しささえ感じさせるのが作者の稀な才能といえるでしょう。この作品とはまったく異なる国で何十年も前に学生時代を過ごした私ですが、学生時代を思い出してセンチメンタルになりました。

昨年、ワークショップでIagnemmaがobsessionと呼べるほど精密な書き直しをすることを知りましたが、それが納得できるような短編集です。

●ここが魅力!

「これ以上改善することは不可能だ」というところまで何十回でも書き直すIagnemmaゆえに到達可能な研ぎ澄まされた文章です。優れた短編とはどういうものなのか、それを教えてくれる短編集です。

●読みやすさ ★★☆☆☆
速読でストーリーを追うことではこの本の良さを知ることはできません。1文ずつに含まれた意味を考える必要があるので、そういう意味では「読みやすい」とは言えないでしょう。けれども、決してわざと難解にしようとしているわけではありません。文章そのものは分かりやすいと思います。

●アダルト度 ★★★☆☆
セックスシーンはありますが、生々しさはありません。