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英国の田舎町での政治を通じて人々の心に住む光と闇を描いた The Casual Vacancy

J. K. Rowling

ハードカバー: 480ページ

出版社: Little, Brown and Company

ISBN-10: 0316228532

ISBN-13: 978-0316228534

発売日: 2012/9/27

文芸小説

 

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世界で最も有名な作品を世に送り出してしまった作家が第二作を書くプレッシャーは、私などには想像もできない。

しかも、「売れる」と分かっている児童書ファンタジーとはまったく異なるジャンルに挑戦するというのだから、勇気がある。

その勇気に敬意を表し、私はハリー・ポッターの著者としてではなく、新人作家のデビュー作として偏見なくこの本を読むことに決めた。したがって、偶然目にした評論家のレビューのヘッドライン以外はまったくレビューを読まずに本作品を読ませていただいた。

*** *** ***


Casual Vacancyとは、英国、オーストラリア、ニュージーランドなどで使われる「一時欠員」という意味の政治用語である。議員の死去などの理由で議席が一時的に空席になることを言う。

J. K. Rowlingの小説Casual Vacancyは、英国の田舎町のPagfordで町議会議員を勤めていたBarry Fairbrotherが突然死するところから始まる。

「ハリー・ポッターとは異なるジャンル」という情報のみで読みはじめたこともあるが、最初のうちCasual Vacancyがどのジャンルに属する小説なのかまったく掴めなかった。困ったことに、それをつきとめる意欲もなかなかわいてこないのである。悪い予感がしたが、「もう少し我慢すれば、きっとものすごく面白い何かが起こる筈だ」と我慢して読み進めた。

だが、作品の1/4を過ぎても、1/3を過ぎても、その兆しが見えてこないのである。

ようやく物語の成り行きに興味が湧き始めるのが6割を超えたころで、8割を終えたころようやく「なるほど、こういうことを書きたかったのだな」と見えてくる。

Rowlingは、家庭内暴力、ドラッグ、レイプ、不倫、イジメ、人種差別、福祉政策、といった現代の英国の問題を掘り下げ、私たち人間のなかに同居する善と悪を描こうとしている。
だが、「作品として面白いか?」と訊ねられると躊躇せざるを得ない。

田舎のつまらない政治や平凡な人々を描いても面白い作品は沢山あるのに本作品がそうでないのには、次のような理由がある。
1)登場人物に興味を抱けない
2)洗練されていない文章表現が気にかかる
3)物語の進行が緩慢すぎる

 登場人物に興味を抱けないのは、J. K. Rowlingが描く田舎の人々がカリカチュアだからだ。彼らへの苛立は、人間をそのように単純に描いてしまう作者への苛立である。

 

このように難しいテーマを真面目に描くためには文章力が必要である。Jonathan Franzenのように読みながらいちいち「すごい文章だ」と感心する表現力もあるし、読者が意識せずにストーリーに引き込まれてしまうStephen Kingのような筆さばきもある。だが、The Casual Vacancyの場合には、次のように気に触る部分が多すぎて物語になかなか入り込めないのだ。

“dull as a flat-painted backdrop”,
“her face was pale and monkeyish,”, “warm, plasticky scent”,  “his chin bulged out stupidly,”…娘が通っていた公立学校なら小学校でも書き直しを命じられる表現である。(追記:この理由は、コメント欄のJohnnycakeさんへの返答に書きましたので、ご参考にしてください)

 

最後まで読むと、決して悪い作品ではないと感じる。この作品を高く評価する人がいることも想像できる。

しかし、最後まで我慢して読み続ける読者がどれだけいるだろう?

私はRowlingの作品だから退屈でも読み続けたが、これが他の著者であったら途中でやめていただろう。

 

J. K. Rowlingがハリー・ポッターとは遠く離れた作品を書きたかった心境は理解できる。ハリーを演じた役者が次の映画でそれらのイメージから遠く離れた役を演じたいように。

困難なことに挑戦した彼女の勇気はおおいに評価したいと思う。

そして、(作品を好意的に評価する人もいると思うが)、失敗することを怖れない彼女には尊敬の念を抱く。

もしかすると、Rowlingから私たち読者への贈り物は、「失敗を怖れない勇気」なのかもしれない。

 

そう考えると、The Casual Vacancyにはまた別の価値を感じるのである。

●この作品に何度か出てくるRihannaのUmbrella(JAY-Zフィーチャー版)

 

●読みやすさ 

文章そのものは非常に単純で理解しやすいのですが、教養がない人々(たとえば単語の最初のhを発音しないなど)や乱雑な高校生の会話は、馴染みがない人には分かりにくいでしょう。

 

また、登場人物が多すぎて混乱するし、内容がなかなか見えてこないし、読了するのは難しいかもしれません。

 

●おすすめの年齢層

性的なシーン、ドラッグ、罵り言葉などが非常に多いので高校生以上。

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