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起業家が絶賛するナイキ創始者の回想記 Shoe Dog

著者:Phil Knight
ハードカバー: 400ページ
出版社: Simon & Schuster
ISBN-10: 1471146707
発売日: 2016/4/26
適正年齢:PG12
難易度:中級+(ページ数が多く、長めのセンテンスもあるが、基本的に非常にシンプル。日本で英語を学んだ人に読みやすい文章)
ジャンル:回想記・メモワール(ビジネス)
キーワード:ナイキ、創業逸話、フィル・ナイト、オニツカ(現アシックス)、オニツカタイガー、日商岩井

翻訳版が出ました。
人に会うと、すぐに本の話になるのだが、今年アメリカのビジネスマンたちから一番よく薦められたのが、この『Shoe Dog』だった。特に、実際に起業し、会社を大きく育てた人が絶賛する。

その理由を見事にまとめているのがビル・ゲイツだ。

ゲイツが書いているように、成功者の回想録の多くは、鋭い起業家精神を持っている人物が世界を変えるような発想を持ち、明確なビジネス戦略を生み出し、すばらしいパートナーたちとのチームを作って、名誉と富に向かってまっしぐらに突き進む、という筋書きだ。まるで成功は「必然的なもの」と感じる。

しかし、ナイキ共同創業者のフィル・ナイトの回想記は、それとはまったく異なる。ゲイツはこう説明する。

フィル・ナイトがナイキを創業した回想記『Shoe Dog』は、ビジネスでの成功への道のりが実際にはどのようなものかを、清々しいほど正直に思い出させてくれるものだ。それは、乱雑で、危険で、混乱に満ちた、失敗だらけの旅であり、終わりなき苦闘であり、犠牲でもある。実際に、ナイトの回想録を何ページ読み進めても、彼の会社が失敗に終わることだけが必然的なものに感じる。

ゲイツが言うように、この本の大部分は、現在のナイキを知る人がまったく想像もできなかったような「失敗物語」だ。「もうこれでおしまいだ」という状況が次から次に起こる。これがフィクションだったら、編集者から「やりすぎです。説得力ありません」と書き直しを命じられそうなくらいだ。また、世界中の誰もが知るNIKEという名前とスウッシュ (Swoosh) のロゴが生まれた経過も、運命的な出会いではなく、意図的なものでもなく、あきれるほど行き当たりばったりだ。

成功への簡単な道のりやコツを学ぼうと思う人は、がっかりするだろう。
だからこそ、読むべき本だと私は思う。

起業だけではない。
人生とは、このようにすごく乱雑で、混乱に満ちていて、失敗だらけの旅なのだ。
外からは楽そうに生きているように見えても、スムーズに成功し、幸せになっている人なんて、ほとんどいないということなのだ。

もうひとつ、日本の読者にとって読みごたえがあるのは、ナイトと日本との深い関係だ。

オレゴン大学で陸上選手だったナイトが靴の商売に入り込んだのは、オニツカタイガーとの出会いだった。
会社などない時点でオニツカに乗り込んで、「ブルーリボンスポーツ」という架空の会社を作ってアメリカでの販売代理店になる契約を取るところなど、今の時代では想像できないような商売だ。その後、オニツカとの関係は複雑なものになるが、アメリカの銀行が次々とブルーリボンスポーツを見捨てるなか、日商岩井が救ってくれる。
オニツカ側からはきっとナイトに対する異論があるだろうが、戦いがいがあるライバルとして私は好意的に読んだ。
日商岩井は、ともかくカッコいい。日商岩井なしにはナイキが存在できなかったことがわかる。

ナイトが日本に立ち寄り、オニツカを訪問したのは、1963年、つまり二国の人々が互いを殺し合った第二次世界大戦から18年しか経っていないときだ。

戦争の記憶がまだ新しかった時代なのに、ナイトのブルーリボンスポーツ(ナイキ)、オニツカ(アシックス)、日商岩井(双日株式会社)は、協働して成長していったのだ。それを思うと感慨深いものがある。

ナイトが、オレゴン大学とスタンフォード大学の教授たちから何度も聞いた次の格言は、貿易保護主義になっている日米両方の国民たちに考えてもらいたい部分だ。
「商品が国境を通過できなくなると、兵士が国境を渡ることになる(When goods don’t pass international borders, soldiers will)」

 

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