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中国式子育てが世界で一番だと信じるモーレツ教育ママの「自伝」Battle Hymn of the Tiger Mother

Amy Chua
ハードカバー: 256ページ
出版社: Penguin Press (2011/1/11)
ノンフィクション/回想録/教育・子育て

このブログにそろそろ作るべきなのは「著者を儲けさせるのは嫌だが、紹介せざるを得ない本」というカテゴリーかもしれない。これまでの代表的な作品にサラ・ペイリンの”ノンフィクションがある。自分で書いてもいないのに「ニューヨークタイムズ紙ベストセラー作家」を自称するペイリンと同じカテゴリーに入れたことがバレたら、自称「タイガーマザー」の著者に頭から喰われてしまうかもしれないが、私の中では「Battle Hymn of the Tiger Mother」のAmy ChuaとSarah Palinの姿が重なるのである。
「Battle Hymn of the Tiger Mother」は、ウォールストリートジャーナル紙の”Why Chinese Mothers Are Superior(なぜ中国人の母親は優れているのか)”というセンセーショナルな記事とともに刊行され、米国で話題騒然となった。

(写真はNew York Timesより)

著者のAmy Chuaは、生まれる2年前に両親がフィリピンから米国に移住した中国系移民で、ハーバード大学卒、ハーバードロースクールを経てイェール大ロースクール教授という「誰にも分かりやすい」エリートである。だから「西洋人は子どもの育て方を知らない」と喧嘩を売るようなことを書けるし、売れるのである。
スパルタ式なんてものではない。書いてあることが本当であれば、ほぼ児童虐待である。わが子に相談もせずに演奏する楽器を選び、完璧にできないと次々と罵声を浴びせかけ、食事を抜き、零下の屋外にコートも着せずに放り出す。オーディションで5時間ぶっつづけに演奏させた後、飢えて夕食を食べたがる娘に「練習が済んでから」と夕食を拒否する。ピアノ曲を翌日までにマスターしなければドールハウスの家具をひとつひとつ寄付してしまうと脅し、それでもできなかったから、”If the next time’s not perfect, I’m going to take all your stuffed animals and burn them.”(次に完璧に弾けなかったら、あなたのぬいぐるみを全部燃やすからね)」と怒鳴りつけるのである。TVに出演して笑顔で「あれはジョークですよ」と言い訳されても、本を読む限りまったくジョークには思えない。ホラーだ。

裏表紙の引用も挑戦的だ。

中国人の子どもたちが音楽や数学で成功していることについて、「私はそれをやり遂げたから、教えてあげることができる」と宣言し、彼女の2人の娘ソフィアとルイーザが生まれたときからやるのを許されないことを箇条書きにしている。

A lot of people wonder how Chinese parents raise such stereotypically successful kids. They wonder what these parents do to produce so many math whizzes and music prodigies, what it’s like inside the family, and whether they could do it too. Well, I can tell them, because I’ve done it. Here are some things my daughters, Sophia and Louisa, were never allowed to do:

* attend a sleepover(友達の家にお泊まりにゆく)
* have a playdate (友達とのプレイデイト、つまりお遊び)
* be in a school play(学校の演劇に出演、参加する)
* complain about not being in a school play(学校の演劇に参加できないことに文句を言うこと)
* watch TV or play computer games(テレビ鑑賞またはコンピューターゲーム)
* choose their own extracurricular activities(課外活動やお稽古ごとを自分で選ぶこと)
get any grade less than an A(Aより悪い成績を取ること)
* not be the #1 student in every subject except gym and drama(体育と演劇を除くすべての教科で一番にならないこと)
* play any instrument other than the piano or violin(ピアノかバイオリン以外の楽器を演奏すること)
* not play the piano or violin.(ピアノあるいはバイオリンを弾かないこと)

これを受けたロサンジェルスタイムズ紙のChris Erskineの評が可笑しい。

Chua also says, “Chinese parents can order their kids to get straight A’s. Western parents can only ask their kids to try their best.”

That’s not true. I also order my kids to get straight A’s. When they don’t, we abandon them at the side of that dusty road near Victorville. You might’ve spotted them wandering aimlessly on your way to Vegas.

Whatever you do, don’t feed them.

Did you get straight A’s, Dad?” one of them asked when I dropped him off.
“I want better for my kids,” I explained and zoomed away.
Sometimes, I’m such a Chinese mom it’s ridiculous.

チュアは「中国人の親はわが子にストレートA(全教科でA評価を取ること)を要求することができるが、西洋人の親はわが子に全力を尽くすことしかお願いできない」とも書いている。

そんなことはない。ワシだってわが子にストレートAを取るように命じている。こどもたちがその命にそむいたら、 Victorville 近くの埃だらけの道ばたに捨ててくる。行き場もなく彷徨う彼らの姿を、読者はラスベガスに向かう途中でみかけるかもしれない。

だが、間違っても餌は与えてくれるな。

置き去りにするとき、わが子のひとりが訊ねた。
「お父さんもストレートAをとったの?」
「ワシは、わが子にはより良いものを求めるのじゃ」
そう説明してやり、ワシは走り去った。
ときおりワシは、あまりにも中国人のお母ちゃんすぎて笑えるくらいだ。

バッシングを恐れたのか、チュアは「本書で呼ぶ『チャイニーズ・マザーとは中国人に限らない』と、韓国人や他の人種にも『中国人の母』がいると説明している。でも「日本人の母」はどうやら「中国人の母」になるには、甘すぎるようで徹底的に無視されている。次女のために渇望したバイオリンの先生は日本人のようだが、そういった矛盾もChuaの得意分野のようである。

むろん中国人の親が全員タイガーマザーのようだとは思わないが、チュア的な中国人のお母さんもけっこう知っている。特に思い出すのはCさんだ。「白人は馬鹿だ(Whites are stupid!)」など、数々の名言を残している。以来、わが家では半分白人のわが娘のことを「ハーフ・スチューピッド」と呼んでいる。プレイデートをするだけチュアよりましなお母さんだったかもしれないが、プレイデートのたびに私の娘をドッグレースのウサギに使うのが困った。そのせいで彼女の娘が私の娘にあれこれ意地悪をして、すごく迷惑だったのだ。テストの点、水泳のタイム、ピアノなどを比べる彼女に「私の教育方針と沿わないので、比べないでください」とお願いしても「そうやってお互いが伸びるのだ」とかえって説教され、結局縁を切ることになった。

そういう周囲の迷惑は考えたことがないのだろうなあ、この著者は…。

「2人の娘をこんなに優秀に育てたのが中国人母親式育て方が正しい証拠だ!」とChuaは言いたいようだが、ちょっと待て。彼女がハーバード大学ロースクールで出会った伴侶はユダヤ系アメリカ人で、同じくイェール大学ロースクールの教授ではないか!しかも、The Interpretation of Murder というまあまあ面白い歴史スリラーも書いている(数年前に読んだことがあったので驚いた)。本書の中で「子ども時代は、奔放さ、自由、発見、経験に満ちているべきだ」と主張する姑を馬鹿にしていたChuaだが、ロースクールの教授でありながら歴史小説を書く創作能力がある息子を育てたのだから、この場合は中国式よりユダヤ式のほうが勝ちではないだろうか?

こういった箇所を含め、法学の教授だというのに思考回路がまったく論理的ではないのには驚いた。実はこの突飛な思考回路のせいで、本書には笑えるところがけっこうある。たとえば次のようなところだ。

Speaking of personalities, I don’t believe in astrology — and I think people who do have serious problems — but the Chinese Zodiac describes Sophia and Lulu perfectly.

(性格についての話だが、私は占星術は信じていないし、信じている人は相当頭がおかしいと思っている。けれども、中国の十二支はソフィアとルルの性格を完璧に言い表しているのだ)

こういう「唖然」とする場所を楽しんでしまうと、けっこう娯楽作品といえる。だが間違っても「ハウツー本」と思ってはいけない。

ペイリンの自称回想録が、実は「パラノーマル・ロマンス」だったとすれば、チュアの自称回想録は「サイコホラー・ユーモア」であろう。

●読みやすさ やや簡単

それぞれの文が異常なほどに簡潔で短いので、読みやすいと思います。難しい言葉もありませんし、メッセージの繰り返しも多く、ヤングアダルトの小説程度の英語力で十分読めます。

●対象となる年齢

小学生でも読もうと思ったら読めます。
「こんなお母さんでなくて良かった!」とありがたがってもらえるかもしれません。私は高校生の娘に読ませていますが、読み始めてから私に親切です。意外な場所で効果あり!?

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