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アメリカでベストセラーになった在日韓国人の家族年代記 Pachinko

作者:Min Jin Lee
ペーパーバック: 560ページ
出版社: Grand Central Publishing
ISBN-10: 1455563935
発売日: 2017/2/17
適正年齢:PG15(高校生以上、性的話題やコンテンツあり)
難易度:上級(ネイティブの普通レベル)
ジャンル:文芸小説(年代記)
キーワード:韓国併合、日本統治時代(日帝強占期)、太平洋戦争、第2次世界大戦、在日韓国人・朝鮮人、パチンコ、人種差別、移民、家族物語
文芸賞:2017年全米図書賞最終候補、Goodreads choice awards最終候補など

1910年、大日本帝国は大韓帝国との間で日韓併合条約を締結して大韓帝国を統治下に置いた。
その時期に貧しくもつつましい若者が見合いで結婚し、何度も流産を繰り返した末に健康な娘に恵まれた。

夫が亡くなった後も、未亡人はひとり娘のSunjaと一緒に、漁村で労働者用の宿屋を経営し続けていた。Sunjaは働くことに生きがいを見出していた生真面目な少女だったが、16歳のときに年上の既婚者Ko Hansuから誘惑されて妊娠してしまう。結核で倒れたときに母娘に看病してもらったことを感謝する若い牧師Isakは、これを神が与えた機会だと考えてSunjaに結婚を申し込む。若い二人は、Isakの兄Yosebの誘いで1933年に大阪に移住した。

(ここからネタバレがあるので、読みたくない人は飛ばしてください)

大阪では韓国人牧師のIsakが得られる収入はほとんどなく、2組の夫婦はYosebの収入に頼ることになった。そのYosebにしても、日本人と同じ給与を得ることはできない。戦争で高まった思想弾圧でIsakは逮捕され、ますます一家は窮地に陥る。男としての甲斐性にこだわるYosebは、自分の借金をSunjaが返したことに憤り、妻たちが外で働くことを固く禁じる。しかし、SunjaはYosebの妻が作ったキムチを路上で売り、そのうちに韓国料理店でキムチを作る職を得て、家計を支えるようになった。

IsakはKo Hansuの息子であるNoaをわが子として愛して育てるが、何年も刑務所で拷問を受けた結果結核が悪化し、解放直後に死んでしまう。生真面目なNoaは働きながらも早稲田大学で英文学を学ぶ夢を見るが、夢がかなったあとで、自分の生誕の秘密を知り、家族を捨てる。

Sunjaの次男Mozasuは、兄とは異なり、学問にまったく興味がない。だが、商売の嗅覚があり、パチンコ店に勤務して頭角を現す。そして、自分でも店を持ち、裕福になった。Mozasuは、ひとり息子Solomonをアメリカのコロンビア大学に留学させる。それは、亡き妻が抱いていた夢の実現でもあった。しかし、日本に戻って外資系の投資銀行に勤務したSolomonは、この環境であっても自分が在日韓国人として扱われる現実を実感させられる。

(ネタバレ終わり)

Pachinkoは、韓国と日本を舞台にした、在日韓国・朝鮮人の4世代にわたる年代記なのだが、アメリカでベストセラーになり、2017年の全米図書賞の最終候補にもなった。私の周囲だけでも、義母、娘、娘の婚約者の母親が同時に読んでいて、まるで「読書クラブ」のようだった。それほど、多くの人に読まれている作品であり、読者の評価も高い。

それがなぜかというと、場所や人種が異なっても、「移民の苦労談」は普遍的だからだ。

読んでいるうちに思い出したのは、20世紀前半にアメリカに移住したアイルランド系やイタリア系移民が受けた差別、紀元前からあるユダヤ人の迫害だ。

ユダヤ系には金融業、医師、弁護士、科学者が多いが、それは古代のヨーロッパでユダヤ人の就業が禁じられていた職種が多かったからだと言われる。アメリカのニューヨークやボストンでは、警察はアイルランド系移民が圧倒的に多い。これも、アイルランド系移民が初期に受けた職業差別が少なからず影響している。

20世紀日本での在日韓国・朝鮮人によるパチンコ経営は、これらに匹敵するものなのだ。ゆえに、この小説ではパチンコが大きな役割を果たしている。

日本統治下の韓国での日本人による現地人への虐めや、日本人による在日韓国・朝鮮人への差別、そして単語こそ出てこないが「戦争慰安婦」のリクルートなど、日本人にとっては居心地が悪い小説かもしれない。

だが、Pachinkoは、日本人を糾弾するトーンの小説ではない。どの国の、どの移民にも起こり得ることであり、だからこそ、これほど多くのアメリカ人から共感を得ているのだ。

この小説を読むときには、自分の国籍を忘れ去ってほしい。そして、ただの「読者」になってほしい。
そうすれば、彼らの苦難にひとりの人間として感情移入できるから。

とても切ない物語だが、読んで良かったと、きっと思うだろう。

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