孤独な変わり者の3人がミツバチ飼育で出会い、人間関係や人生を変えていく心温まる小説 The Music of Bees

作者:Eileen Garvin
Publisher : Dutton
刊行日:April 27, 2021
Hardcover : 336 pages
ISBN-10 : 0593183924
ISBN-13 : 978-0593183922
適正年齢:PG12(一般向けだが、中学生以上でもOK)
読みやすさ:6
ジャンル:現代小説
キーワード:Beekeeper、養蜂(ミツバチ飼育)、新しい家族のかたち、農薬とミツバチ、環境保護、心温まる話

最愛の夫と両親を失ったAlice Holtzmanは、黙々と仕事をこなすだけで誰とも関わらない孤独な生活を送っている44歳の女性だ。

子供の頃からのAliceの夢は両親が営んでいた果樹園を受け継ぐことだった。だが、両親が亡くなる前に農園を売ってしまい、Aliceは郡の公務員として働きながらミツバチ飼育を始めた。オフィスでは何もしない上司や同僚の仕事をすべてこなしているのだが昇給もしてもらっていない。

嫌なことが相次いだある日、新しい蜂を仕入れてトラックで帰宅を急ぐ途中に車椅子の少年をひきかける。その少年Jakeは1年前に友達とのパーティでふざけていて怪我をし、下半身不随になったのだった。Jakeはトランペットの奨学金で音楽大学に行くことになっていたのに、奨学金を差し引いた少額の授業料を父親が払うのを拒否したために大学進学を諦めたのだった。大学に進学した友人に取り残され、常に不機嫌で八つ当たりする父親と一緒に家に閉じ込められたJakeにできるのは「誰よりも高いモヒカン刈りを作る」ことだった。

けれども、AliceとAliceの蜂たちに出会ったことでJakeの人生は変わる。どんなに不当な扱いをされても誰にも言い返さない性格のAliceが、父親からJakeを守り、家から連れ去ってくれたのだ。経済的な余裕がないのにJakeを自分の家に居候させることにした自分にAliceは驚く。衝動的な行動をする人間ではなかったからだ。

Jakeの扱いに迷っていたAliceだが、Jakeはミツバチの扱いで稀な才能を発揮して彼女を驚かせる。

内気で他人に利用されてばかりの24歳の青年Harryは、嫌な過去があるニューヨークを離れてトレーラーで一人暮らしする叔父のところに転がり込む。Aliceの養蜂場でヘルプとして雇ってもらったものの、叔父が亡くなって住む場所を失った。

同じ時、郡の行政は新しい農薬のPRに手を貸し始める。その農薬は、ミツバチを殺すことで他の州で問題になっているものだった。Aliceの隣家の果樹園がサンプルで受け取ったその農薬を使ったことでAliceの蜂が大量に死亡し、Aliceは知り合った環境問題専門の弁護士に協力して農薬の使用を止める運動に加わる。

夫を失った悲しみで誰とも関わらなくなっていたAliceだが、ミツバチをきっかけにしてJakeやHarryの代理母のようになり、ヒッピーがやることだと思っていた農薬の反対運動に関わり、そのうえ、これまで自分を利用してきた人たちに反抗するようになる……。

作者のEileen Garvinは養蜂業を営んでいるということで、ミツバチやミツバチの巣の描写に愛情を感じる。音楽の才能があるJakeが女王蜂の音を聞き分けることができるというのもこの小説の魅力的な部分だった。

ちょっとできすぎに思えるところもあるが、Aliceと少年たちの交流など読んでいて気持ちが良くなる本である。心温まる小説を求めている読者にお薦め。

(日系アメリカ人の男性弁護士が善玉で出てくるのも、日本の読者にはうれしいかも!)

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